第33話 海に煌めく風と結晶~海~②
海の家でご飯を買って、全員がいるパラソルの所に戻る。
「顔、赤いわよ。さっき六花に連れていかれていたけど、何されたの?」
大和が俺の正面に座り、話しかけてくる。三上たちは三上たちで盛り上がっているので、話を聞かれることとはないだろう。
「……壁に追い込まれてキスされた」
「……なかなか攻めたわね」
「なかなかどころじゃないだろ。セーフかアウトかで言ったらアウトだ。戦国はいきなりどうしたんだ?」
「……六花ね、体育祭が終わってから冬風君に連絡しなかったでしょ?」
「ああ」
「それはね、六花なりに悩んでたのよ。体育祭が終わった後、六花はいつも自分から連絡してるから、少しだけ我慢して、冬風から連絡して欲しいって思ってたの。けど私は詳しくは知らないけど、合宿で色々あったんでしょ? それをリアルタイミングでは知らなかった六花にとって、この一度引いてみる作戦は大失敗だったってわけ。それで反省したから、今度は積極的に冬風にアタックすることにしたのよ」
「積極的って……」
「不器用なりに頑張ってるの。水着を何時間も悩んで選んだり、日焼け痕が体に残らないように、部活の時には入念に日焼け止めを塗ったり、あなたのために一生懸命なのよ」
「そうか……」
「まあ、六花が好きでやってることだから。けど少しは冬風からも連絡してあげて。あの子、意外と寂しがり屋なのよ」
「分かった。いつもありがとな」
「いつもって?」
「戦国の傍にいてくれてだ」
大和は少し照れくさそうにする。
「親友だから当たり前よ」
ご飯を食べ終わり、朝に予約しておいたビーチバレーのコートが使えるようになっていたので、ペアに分かれて対決することになった。ペアはそれぞれのカップルに加えて夏野と霜雪、尾道と大和、戦国と俺だ。
戦国がバレー部出身なので、俺たちは決勝まで待機ということになり、まずは夏野ペア対三上ペア、尾道ペア対末吉ペアの一回戦が行われた。
「曜子、行ったぞ!」
「任せて!」
「夏野さん!」
「任せて! ぐへっ!」
三上と下野の運動得意組に夏野たちのペアは少しかわいそうだな。そう思って真剣に応援はしているが、目測を誤って顔面にボールを受けた夏野の声に笑ってしまう。
「ちょっと、まこちゃん!」
「冬風君、最低ね」
「すまん。だが……」
「もー! 笑わないでよー!」
結局、一回戦は三上たちのペアが勝った。
「ねえ、冬風君。あれだけ私たちを笑ったのだからさぞかし自分は上手いのでしょうね?」
「もし一回でもミスしたら、あたしと真実ちゃんにアイスを奢ってもらうからねー」
どうやら笑った罪は高くついたらしい。
「分かったよ。ほら、大和たちの試合が始まるぞ」
次の試合はなかなかに酷い物だった。
「うう、末吉君。ごめんね」
「大丈夫! 気にすんなよ!」
「うう、大和。すまない」
「まさか尾道がそんなに下手だとは思ってなかったわ。ちゃんと反省しなさい!」
「大和も末吉みたいに優しくしてくれよー」
松本の運動センスが絶望的なのは知っていたが、尾道もかなりだな。体力はあるのに運動神経がないタイプの人間だな。
ほぼ末吉対大和の泥仕合を制した大和ペアがさっきの勝者の三上たちと準決勝を行い、三上たちが圧勝してやっと俺と大和の出番になった。
三上のサーブで試合が始まり、一進一退の攻防が続く。さすがに経験者の戦国か上手いし、三上と下野のもう二戦経験しているのでかなり仕上がっている。
十点先取の試合は九対九のタイのままお互いにマッチポイントになった。
戦国がサーブを打って、しばらくラリーが続く。そして戦国がスパイクを打って勝負は決まったかと思ったが、三上がそれにも反応してボールがダイレクトで俺と戦国の間に返ってきた。
「任せろ!」
「任せて!」
俺と戦国の声が重なり、気付いた時にはお互いに衝突していた。
ボールは落ち、倒れた戦国の上に、俺がまたがる体勢になる。
「すまない」
「……いいの」
そう言って戦国が目を閉じる。おい、一体この状況で俺に何を期待しているんだよ。
「ほら、立てよ」
俺が立ち上がって戦国に手を差し出すと、戦国は目を開けて、手を取り立ち上がる。
「意気地なし……」
そう俺の耳元で囁いた戦国の顔を俺はまともに見ることができなかった。
午後はそのままビーチバレーをして楽しみ、あっと言う間に夕方になった。
着替えを済ませた後、ミスした罰として夏野と霜雪にアイスを奢って、最寄りの駅に向かう。
「ねえ、今日の私、どうだった?」
戦国が俺と並んで歩く。
「頼むから普段の戦国に戻ってくれ。心臓ももたないし、なんかむずむずする」
「ということはドキドキはしてくれたんだねー。私も心臓バクバクだったんだよ? キスも恥ずかしかったし、誠に嫌われないかも少し心配だった」
「嫌うことはないから、今の戦国のままでいてくれよ。……色々と今日のために頑張ってくれてたのは聞いた。ただ性格とかまで無理する必要はない」
「はーい。けど時々は今日みたいに攻めてみるから楽しみにしててね」
「勘弁してくれよ」
「だーめ。キスした時と同じように逃がしてあげないんだから。それに私にいじめられてる時の誠、子どもみたいに顔を赤くしちゃってて可愛かったし、楽しかった」
「……お前もサディスティックな奴だったのか」
今更、新しい一面が見えてくる。こんなに関わっているのに知らない事ばかりだ。……ただ、こんな一面は隠しておいてくれた方が俺の心臓には優しかったな。赤く染まりながら海に沈んでいく太陽を見ながら、俺は一人そう思っていた。
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