第29話 最後の学校対抗戦

第29話 季節の巡りと仮定の話~最後の学校対抗戦~①

「冬風、久しぶりだな」


 新年度が始まってからほどなくして、対抗戦の打ち合わせのために季節高校生徒会が四季高校に来ることになった。


「八王子、久しぶり」


 今日は土曜日だが、学校に早めに着いたので自販機近くのベンチでのんびりしていると、季節の副会長の八王子萩が来て、俺の隣に座った。


「変わりはないか?」


「ああ、バレンタインの日に車に轢かれたくらいかな」


「そんなに軽く言うことじゃないな。まあ、その様子だと大事ではなかったようで良かったよ」


「まあ運が良かったな。そっちは? 九姫とは順調なのか?」


「ああ、おかげさまでな。他には何もない。いや、遂に紅太と葵が付き合い始めた。春休みに二人で出かけて、そこで告白したんだってよ」


「そうか、赤井のアプローチが実ったんだな」


「告白したのは葵の方らしい。まさか本人もそうなるとは思ってなかっただろうな」


「へえ、そうなのか」


「あら、ずいぶん仲良さそうね」


 久しぶりに聞くその声に振り向くとやはり声の主は九姫だった。


「冬風、久しぶり。今回もよろしくね」


「ああ、よろしく」



「あ、誠! おはよう!」


 今度の声の主は戦国だった。部活のために学校に来たのだろう。大和も一緒だ。


「あ、おはようございます。……季節高校の生徒会さんですね。誠から昨日聞きました。誠がお世話になります。よろしくお願いします」


「おい、なんで俺の保護者みたいになってるんだよ」


「これはご丁寧にどうも。こちらこそ冬風君にはお世話になっております」


「六花―! 早く着替えないと遅れるわよー!」


「あ、もう行かなきゃ。対抗戦、今年も楽しみにしてますね。またね、誠!」


 戦国は少し先に歩いていた大和の方へ走っていった。


「……冬風、あの子とどんな関係だ?」


「……友達」


「いや、その言い方はただの友達じゃないわね。それにしても冬風があんな女の子に好かれているとは」


「ああ、意外だったな」


「お前らの分析は正しいかもしれないが、かなり失礼な評価を俺にしてたな」


「まあ、そうだな。彼女ってお前が去年の対抗戦の時に応援に行った子か?」


「よく覚えてるな。そうだよ」


「へえー、てっきりお前は夏野さんか霜雪さんと付き合いそうだと思ってたけど、とんだ伏兵がいたな」


「ええ、そうね。冬風、驚いた顔をしてるけど、私たちはこれでも季節の生徒会長と副会長よ。人間関係には聡いわ」


「……自分たちの恋愛は臆病だったくせに」


「同じセリフを返してやろうと思ったが、なんだか複雑そうだな。まあ、頑張れ」


「それだけ楽しんどいて適当かよ」


「ああ、お前みたいに優しくないんでね」


 八王子たちと話していると、秋城や星宮も同じようにベンチにやって来た。


「誠、ここにいたんだね。九姫会長、八王子副会長、今回もよろしくお願いします」


「うん、こちらこそよろしくね。これが私たちの生徒会の最後の仕事なの。だからみんな張り切ってる。どんどん仕事をまわしてもらっていいからね」


「助かります」


 その後はそのままベンチで他の奴らの到着を待って、その日の打ち合わせが始まった。




 去年の対抗戦から一年も経っておらず、メンバーも全く変わっていないので、対抗戦の準備はスムーズに進み、開催の日がやって来た。


 今回も俺は四季高校の担当になり、秋城、春雨、夏野、八王子、奈世竹かぐや、青葉葵と一緒に、いつも通り生徒会用のテントで作業していた。


「咲良、今日は僕はいつもみたいに書類の整理の指示などを出さない。代わりに咲良が僕たちに指示してくれ」


「わ、私がですか?」


「ああ、頼んだよ」


「俺らもだ。かぐや、今日は俺は大人しくしとく。春雨さんと協力して上手いことをやってくれ」


 秋城と八王子は自分ができる仕事は自分で何でもするというタイプだが、対抗戦の準備の時も、あまり自分が前に出ないようにしていた。引退した後のことを考えているのだろう。


 春雨と奈世竹は二人の采配通り、俺たちをまとめて、対抗戦は順調に進んでいった。応援席や大きく時間が空かないタイムテーブルもしっかりと準備してあるので、去年の対抗戦よりも生徒が盛り上がっている。


 昼休憩が終わり、秋城や夏野たちは友達の応援などに行ったので、テントの中は俺と奈世竹の二人だけになった。


「冬風さん、去年の秋頃、私と月見くんを星宮さんと一緒にストーカーしてましたよね?」


 奈世竹にいきなりにっこりと微笑まれながら言われた言葉に心臓が止まりそうになったが、どうやら奈世竹はこちらをからかう気満々のようだ。


「……ああ、気付いてたんだな」


「ええ、月見君は気付いてなかったようですが、さすがにずっと男女の二人組が私たちのことを見てたら気付きますよ。最後はベンチで背中合わせだったですしね。そのことに気付いたのは冬風さんたちが立ち上がった後だったので内心冷や汗をかきましたが」


「それも分かってたのか。ストーカーして悪かったな」


「いえいえ、星宮さんも冬風さんも月見君のことを思って見守ってくれたんですよね。けどこっちとしては星宮さんの誕生日プレゼントを選んでたんで困っちゃいました」


「それもすまない」


「星宮さんと月見君、どんな感じですか?」


「……あの後から少しお互いを意識するようにはなったみたいだが、そんなに発展はしていないな。何か大きなきっかけがないと難しいかもな。それこそ生徒会の解散みたいな」


「幼馴染って難しいですねー。でも憧れちゃうなー。遂にうちの生徒会、彼氏彼女がいないの私だけになっちゃったんですよ。どうしてくれるんですか?」


「なんで俺が責められるんだよ」


「だって望ちゃんも会長たちも冬風さんが関わってるじゃないですかー。三分の二は冬風さんのせいですよ」


「とんだとばっちりだ」


「冬風さんって恋愛得意なんですか?」


「そうだったら良かったと思うよ。俺は自分のことになると何も分からなくなる。中途半端になるんだよ」


「難しいですねー」


「ああ、難しいことばっかりだ」




 対抗戦は二年連続で引き分けに終わったが、両校生徒会の中では後日の打ち上げの際に秋城と九姫がじゃんけんをして、秋城が勝利し、四季高校の勝ちということになった。




「対抗戦、終わっちゃったねー」


 対抗戦の日の帰り、秋城と春雨が紅葉さんの迎えで帰ったので、俺は夏野と二人きりで歩いていた。


「そうだな。すぐに体育祭だ」


「今年の体育祭、学校が色々と変更するらしいねー。徒競走がなくなったり、フォークダンスが三年生だけになったり。……それに最後に好きな人と踊るのもなくなるらしいね」


「まあ、徒競走は時間がかかるし、フォークダンスに関しても長かったからな。いい変更だと思う」


「だね。……好きな人と踊れなくて残念な人もいるかもしれないけど、好きな人が他の誰かと踊ってるのを見なくて安心する人もいる」


「……そうだな。誰と踊るのか選ばなくて済んで安心する奴もいるだろうな」


「まこちゃんはもし去年と同じフォークダンスだったら誰と踊ってたの?」


「……分からない」


 踊る光景が想像できたのは三人いる。ただ、一人と踊るということは他の二人とは踊らないということだ。考えないようにしていたことを夏野に言われてまた自分が嫌になる。


「……だよね。ごめん、変なこと聞いちゃった」


「気にしないでくれ。俺の問題だ」


 いつだ? いつ俺はこの気持ちの答えを出せるようになる? どうすれば、どうすれば大切に想う三人を傷付けなくて済むんだ? 影宮先輩の言ったようにそれは不可能なのか?


 夏野、お前は俺のことをどう思っている? それを今この場で聞くことができたらどれほどいいか。ただできないことを想像するのは無駄でしかなかった。

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