第27話 クラスマッチ

第27話 すれ違う二人と向き合う二人~クラスマッチ~①

 卒業式が終わり、一年生と二年生だけになった学校では学年末テストが行われた。生徒会メンバーの順位は二学期末テストの時と変わらず、またしても俺は秋城に煽られることとなった。


 今日は今年度最後の行事であるクラスマッチ。女子はドッジボールとバレー、男子はサッカーとバスケだ。


「まこちゃん! ひふみんたちのサッカーが始まるから応援に行こうよ!」


 生徒会はそれぞれの試合や応援がない時はいつも通り専用のテントで試合結果のまとめなどをしている。


「誠、自分のクラスの応援は大事だ。奏と行ってきていいよ」


 テントには秋城と月見しかいなかったが、特別何かやることをなさそうだ。俺は夏野と一緒に三上たちの応援に行く。


「それぞれの競技の部活に所属している奴は違う競技に出ないといけないから、中学での経験者ってのはかなり有利だよな」


「うん! ひふみんは一試合目から大活躍だよ! まこちゃんたちのバスケのチームは残念だったね」


「まあ、経験者がいるチームに勝つのは難しかったな。それより夏野たちのドッジボールはなかなか地獄絵図だったな。下野以外、速攻でアウトになってほとんどあいつ一人で戦ってた」


「だってあたしドッジボールなんてそんなにやったことないもん。まこちゃんもあたしが小学生の時にそんな遊びに入れてもらえるような子じゃなかったの知ってるでしょ?」


 三上たちの試合を観戦しながら話していたので、夏野とはそれまで目を合わせていなかったが、俺はその言葉につい夏野の方を向いてしまった。そして夏野も自分の言葉を後悔するような顔をしていた。


「……ごめん、忘れて」


「……ああ」


 修学旅行以来、夏野とはこんな空気になることが何回かあった。俺がつい昔のことを言ってしまうこともあるし、今回みたいにその逆もある。


 ただ俺たちはどうすればいいのだろう。修学旅行の時に気持ちの整理はつけたと思っていた。それは間違いだったのか。


「あ! まこちゃん、ひふみんがゴール決めたよ!」


「凄いな」


 その後は何事もなかったように試合を観戦し続け、三上たちのチームは勝利を収めた。




 試合が終わった後、テントに戻っている途中で戦国のチームが丁度ドッジボールをしていたので、夏野と別れて少し観ていくことにした。


 戦国と大和は同じチームなのか。凄い気迫だ。もっと観ていたかったが、試合時間はもう十秒ほどで、戦国たちのチームの圧勝だ。


 生徒会のテントに戻ろうとした瞬間にコートの中の戦国と目が合った。


「ちょっと六花⁉」


 試合終了を告げる笛がなった瞬間に投げられたボールは女子でも余裕で避けられるほどの力ないものだったが、球から気を逸らしていた戦国の顔面にクリーンヒットするには十分な軌道をしていた。


 戦国は顔を押さえながら挨拶を済ませる。


「大丈夫か?」


 大和と一緒に顔を押さえたまま歩き出した戦国に話しかける。


「うん、大丈夫だよ」


 戦国は鼻声でそう言うが、どうにも様子はおかしい。


「六花、一瞬だけでいいから手をどけなさい」


 大和が嫌がる戦国の手を顔からどかすと戦国の鼻からは少し血が出ていた。


「はぁ、全くどうしようもない子ね。冬風、あんたのせいなんだから責任持って、なんとかしなさい」


「これって俺のせいなのか」


「ええ。じゃあ私は六花が掛け持ちしてたバレーのチームに行ってくるからよろしく」


 そう言い残して大和は体育館の方へ向かっていった。


「……今回は救護テントを用意してあるが保健室とどっちがいい?」


「……保健室」


「だろうな。じゃあ行くぞ」


 季節高校との対抗戦の時と同じだ。俺と戦国は保健室に一緒に入った。


「じゃあ、まずは洗面台で顔に付いた血を洗い流せ。ティッシュとかは用意しとく」


 応急セットの使用名簿にこれまた対抗戦の時と同じように自分の名前を書いて、脱脂綿やらなんやらを取り出し、戦国に渡した。戦国はそれを使って、何とか自分で処置をして、鼻を手で隠しながら椅子に座った。


「戦国、お前って奴はどうしてそんなに詰めが甘いんだ」


 戦国を見ながらつい笑ってしまう。


「対抗戦の時のも、今回も全部誠のせいだもん! 笑わないでよー!」


「俺のせいだってのも納得いかないし、笑うのは止められないな」


「もー!」


 五分ほどそのまま過ごし、血は止まったようなので戦国と一緒に保健室を出る。


「バレーも出てるんだってな」


「うん、私のクラス、人数が少し足りなくて掛け持ちが必要なの。今、丁度試合やってると思うから応援に行ってくるね。蘭が代わりに出てくれてると思うし」


「ああ、もし時間が合ったら、ドッジもバレーも応援に行くよ。いや、俺が行くと戦国に不幸が起こるか」


「そんなことはないよ。どっちでも私は活躍して誠に良い所を見せる! ドッジだけにね」


「……鼻血出してた時の方が笑えたな。なら応援に行く。楽しみにしてるよ」


「ちょっとー、自分のことが好きな女子に言う台詞じゃないよー! じゃあまたね!」


 戦国は体育館の方に走って行き、俺は生徒会のテントに戻った。


「誠、お帰り。僕はバスケがあるからここはよろしく頼んだよ」


「ああ、分かった」


 秋城がテントから出ていくと、テントの中は俺と霜雪だけになっていた。夏野たちは自分の試合か誰かの応援に行ってるのだろう。


「霜雪のクラスはどういう状況なんだ?」


「私はバレーに出ていたけど負けたわ。星宮さんがいるバレーのチームは勝っていたはず。男子のチームは……よく分からないわ」


「男子の状況は興味ないのか。霜雪らしいな」


「あら、冬風君はクラスの女子のチームに興味あるの?」


「まあ、夏野がいるチームくらいはな。クラスで話すような女子は全員同じチームだし」


「でしょう。そんなものよ。……冬風君のチームはどうなってるの?」


「俺のチームはとっとと負けたよ。後は応援だけだ」


「そう。冬風君がバスケットボールをやっているところを見てみたかったけど、応援に行けなかったわ」


「来なくて良かっな。幻滅するほどボロボロだ。」


「そうだったのね。体育祭の時はあんなにかっこよかったのに……」


「かっこよかった? 霜雪、体育祭の時は他人には興味ありませんって感じだったのに、ちゃんと見てたんだな」


「……っ。そ、それは夏野さんが応援していたから一緒にリレーを応援していただけで……。もう、調子に乗りすぎよ。忘れて」


「ああ。……今年の体育祭は秋城に勝ちたいな。結局今年度はトランプから始まって、体育祭、テストと秋城に負けっぱなしだ」


「勝てるといいわね。応援してるわ」


「霜雪も秋城にやられっぱなしだしな」


「それもそうだけど、それは冬風君を応援する理由ではないわ」


「じゃあなんだ?」


「あなたが好きだからよ」


 その後、二人のままのテントで俺は何も答えることができなかった。




 結果的に男子のサッカーは三上のチーム、バスケは秋城のチーム、女子のドッジボールは戦国のチームが優勝してクラスマッチは幕を閉じた。女子のバレーでも戦国のチームは決勝に残ったようだが、相手には戦国よりも背が高い中学でのバレー経験者がおり、激戦の末、戦国のチームは準優勝に終わった。


 これで二年生が終わる。数週間後には俺たちは三年生になり、高校生活最後の一年になる。どの行事もあと一回で終わりだ。


 そんな最後の一年が一瞬で過ぎ去っていくことを、そして俺は自分の恋に答えを出すべき時が刻一刻と近づいていることをまだ知らなかった。

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