第26話 真実の影と真実の日~卒業式~②

 次の日の放課後の生徒会で秋城と星宮にノートを見て感じたことを説明する。


「まずはこのノートに書かれた相談の数だ。影宮先輩が全ての相談をこのノートに書いたのかどうかは分からないが、どちらにせよ数が多すぎる」


「確かに影宮先輩はよく生徒と隣の部屋で話して相談に乗っていた。それでいて普段の生徒会の仕事もこなしていた」


「秋城みたいな人なんだな」


「ええ、政宗の性別を変えて、もう少しだけミステリアスな感じにしたら影宮先輩になるわ。まあ、ミステリアスって言っても、生徒からは好かれていたし、当時は同級生に彼氏もいたはず」


「なるほどな。その彼氏の話は聞けるか?」


「いや、家庭の事情で去年の夏に県外に引っ越したらしい。その前に一度、空と何か話を聞けないかその人の所に行ったが、拒絶されてしまってね」


「拒絶? なぜだ?」


「分からない。とにかく影宮先輩の話をしたくないようだった」


「……そうか。それでノートの話の続きだが、このノート、後ろにいけばいくほど、記述が雑になるんだ」


「それは私も思ったわ。影宮先輩は几帳面だったはずなのに、おかしいわ」


「そうか、途中から面倒くさくなったわけじゃないんだな。それから、一番最後の相談内容。どうやら男子生徒からの恋愛相談だったみたいだが、この相談内容についての進展は何も書かれていないのに、やけにこのページには開き癖が付いていた。それに何か濡れたような跡があった。何で濡れたのか想像するしかないが、可能性が高いのは……」


「……涙」


 秋城と星宮が声を揃えて答える。


「そうだ。それにこの相談者は影宮先輩が一番最初に受けた相談者と同じと書かれている。この相談が真実への鍵だ」


「だが、誰がこの相談者か分からない。同級生と書かれているから、三年生だとは思うが……」


「それは地道に探すしかないな。……影宮先輩の問題は目安箱委員長として必ず解決しなければならない問題だと思う。秋城、星宮、俺に託してくれるか?」


 影宮先輩は半年ほどの間に俺以上の相談を解決した。その先に、人との関わりの先に、何を考えたのか、俺は知りたい。


「ああ、頼んだよ。これはもしかしたら誠に、いや目安箱委員長にしかできないのかもしれない」


「お願い。先輩にはこの学校と、生徒と関わりを絶ったまま卒業して欲しくないの」


 卒業式まで約二週間。やれるだけのことをする。それが目安箱委員長だ。





 秋城が前生徒会の三年のメンバーを四人、話を聞けるように呼んでおいてくれたので、生徒会室のソファに座ってもらう。


「お忙しい時期に申し訳ありません。目安箱委員長の冬風誠です。秋城からも聞いているとは思いますが、今影宮先輩の件について調べています」


「冬風君、よろしく。俺たちはもう大学は決まっているから、時間はたっぷりある。それにこれは前生徒会みんなの問題だ。俺たちにできることはなんでも協力させてくれ」


 前副会長の大波先輩がそう言って、他の三人も頷く。


「じゃあ早速質問をさせてもらいます。影宮先輩が急に生徒会を解散させる時に何かおかしな所はありませんでしたか?」


「生徒会を解散か。その表現では少し誤解が生まれそうだな。四季高校の生徒会は会長が辞めると自動的に解散になるんだ。生徒会のメンバーは会長が承認するという形を取っているからね。だから正確には影宮は生徒会を解散させたかったわけじゃない。あいつが生徒会長を辞めた結果、生徒会ごと解散になったんだ」


「なるほど。だから今回の件はなぜ影宮先輩が生徒会を解散させたのではなく、なぜ影宮先輩は生徒会長を辞めたのかということですか?」


「ああ、そちらの方が正確だろう。……影宮が会長を辞める前、様子はおかしかった。いや、就任して数か月経った後から少しずつ影宮に違和感は抱くようになった。どこか、無理して笑っているような感じがしていたんだ。それに今の冬風君のように影宮は生徒の相談に頻繁に乗っていたが、その数も少なくなっていっていた。相談の数が減ったわけじゃない、影宮が相談を断るようになっていったんだ」


「それはなぜか分かりますか?」


「いや、分からない。そんな違和感に気付いていたのに、俺は影宮の力になれなかった」


 大波先輩が強く拳を握る。


「影宮先輩は受けた相談をノートにまとめていました。僕はこの中に影宮先輩の行動のヒントがあると思っています。ただ個人名が分からないので話を聞くこともできない状況です」


「……ノートか。確かに影宮は相談を解決するたびに嬉しそうに書いていたな。俺たちも全ての相談を覚えているわけじゃないし、影宮は大抵隣の空き教室で話を聞いていたから、分かることは少ないかもしれないが、いくつかの相談者に心当たりはあると思う。みんなで確認してみよう」 


 先輩方にノートを見せ、相談者を何人か特定してもらう。これで少しはできることが増えるだろう。


「ありがとうございます。他に影宮先輩について分かることはありますか?」


「すまない。最後の方は俺たち生徒会のメンバーも影宮に避けられるようになっていたんだ」


「……そうですか。今日はありがとうございました。何か分かったらお知らせします」


「ああ、俺たちもそれぞれでできることを探してみる。冬風君、俺たちの問題なのにすまない」


「これが影宮先輩が考えた目安箱委員長の仕事です。……最後に一つだけいいですか。なぜ先輩方はそのまま生徒会に残らなかったんです? 任期は半分くらい残っていたのに」


「忘れられないんだ。影宮が悲しそうに俺たちに笑ったその顔が。生徒会室に来るとその顔を思い出しそうになる。ここは楽しい思い出を呼び覚ましてくれる場所じゃない。そうしてしまったのは俺たち自身の責任だ。だから俺たち三年は影宮と共に生徒会を去った。秋城と星宮がいるなら安心だしな」


「……話をお聞かせいただきありがとうございました」


 先輩方が秋城たちに挨拶をして、生徒会室から出ていく。


 先輩も秋城と星宮と同じように自分たちができることは既にしたのだろう。そして同じように後悔をしている。


 とにかくこれまで影宮先輩が受けた相談を一つずつ確認だ。そしてそこからピースを繋ぎ合わせろ。影宮先輩は人との関係に何を感じたんだ。


 それから二週間、俺は時間がある時は常に学校を回り続けた。

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