第26話 卒業式
第26話 真実の影と真実の日~卒業式~①
一週間入院して異常は見つからなかったので、予定通り退院となった。
お袋はもう少し一緒にいてくれようとしていたが、さすがにこれ以上仕事を休ませるわけにもいかなかったので、赴任先に帰ってもらった。
美玖との二人暮らしが再び始まり、いつもと変わらない学校生活もまた始まった。
次の行事は卒業式、その後はクラスマッチがあって、今年度は終わりだ。
「秋城、卒業式って生徒会として何かやることはあるのか?」
復帰して最初の生徒会で俺は普段の仕事をしながら、秋城に尋ねた。
「卒業式それ自体は僕が送辞に立つだけで生徒会としてはやることはないよ。ただ卒業式の後、ホールで行われる卒業パーティーの準備は僕たちの担当だ。といっても毎年やっていることは変わらないし、手配のほとんどは先生方がやってくださるから、僕たちは当日の司会や進行だけで、準備も来週から始めれば大丈夫だ」
「そうか」
その日の生徒会が終わり、帰ろうとしているところで秋城と星宮に呼び止められた。他のメンバーは先に帰ったので、生徒会室は三人だけだ。
「何か俺に用事か?」
「ああ、復帰してすぐに悪いけど目安箱委員長として僕たちの相談を聞いて欲しい」
「秋城と星宮の?」
この二人が俺に頼むことなんてあるのか?
「ええ、前生徒会長についての話よ」
前生徒会長か。俺たちの生徒会任期が一年ではなく、ほぼ一年半なのは、前会長が任期満了前に生徒会を解散したからだ。
「前会長がどうしたんだ? 確か影宮日奈って人だったか?」
「そうだ。誠にはなぜ影宮先輩が急に生徒会を解散したのかを調べて欲しい。僕と空は前の生徒会にもいたが、その理由を知ることができなかった。おそらく、三年生のメンバーも聞いていないだろう。真実を知っているのは本人だけだ」
「なら本人に聞けばいいんじゃないのか?」
「それは無理なの。影宮先輩は生徒会を解散した後、少ししてハワイの姉妹校に留学した。それから四季高校に帰ってくることはなく、卒業式の答辞は前副会長がやることになっている。どうやら卒業式には出席するみたいだけど」
「なるほどな。生徒会を辞めた後はこの学校との関わりを切ったみたいだな。答辞に立たないのは生徒会を解散させた罪悪感か?」
「……おそらく」
「じゃあなんで影宮先輩がそんな行動を取ったのか知りたいってことでいいか? でもお前たちが調べるほうが色んなことが分かるだろ。実際に接していたんだ」
「そうだ、だが僕たちは何も気付くことができなかった。今も昔も影宮先輩に何があったのか分からない。それに、誠に頼むのには理由があるんだ」
「理由?」
「元々、目安箱委員長っていうのは影宮先輩のアイデアなの。設置されたのは今回の生徒会からだけれど、実際に影宮先輩は誠君と同じことを前の生徒会でもしていた。そして多くの相談を解決していたわ。だから誠君は私と政宗には分からない影宮先輩の真実に辿り着けるかもしれない」
「……そうか」
秋城と星宮の顔からは後悔という感情が読み取れる。何もできないままに生徒会が解散してしまったのを今でも悔いているんだろう。もっと自分が上手くやっていれば、もっと自分が何かに気付けていれば。今更と言えばどうしようもないが、想いが強ければ強いほど、その傷はいつまでも残る。
「分かった。やれるだけやってみるよ。何か手掛かりになりそうなものはあるか?」
「……これだけだ」
秋城から一冊のノートを渡される。
「影宮先輩が解決した相談のメモだ。もちろん個人の名前や事細かな詳細は分からないようになっている。会長席の引き出しに残っていた」
「ありがとう。目を通してみるよ。……卒業式までに、影宮先輩にお前たちが会えるまでに何かを掴めるように努力するよ」
「誠、ありがとう。僕たちにできることがあるなら何でも協力する」
「会長や副会長に仕事があるようにこれも目安箱委員長の仕事だ。今日はもう遅い、帰ろう」
秋城たちと生徒会室を出て帰宅する。
目安箱委員長を作った前会長。何が原因で生徒会を解散させたんだ? この学校の生徒会長になるぐらいの人物だ。生徒からの支持があり、優秀なはずだ。そんな人物がなぜ?
今回は本人に話を聞くことができない。手がかりもほとんどない。そもそも秋城と星宮がたどり着けなかった真実だ。
だからと言って俺が最初からあきらめるわけにはいかない。卒業式まで約二週間。できるだけのことをしてみるか。
夕食を食べてリビングで秋城から預かったノートを確認する。
最初の方は記述が多いな。大体の相談内容から、どうやってその問題に対処したか、その結果どうなったかが書かれている。ただ後ろの方へいくにつれて一つ一つの内容の記述が少なくなり、最後の相談に至っては結末が書かれていない。これは……。
「まこ兄? 難しい顔してどうしたの?」
「ああ、ちょっと生徒会の仕事でな。ん? どうした?」
美玖がソファに座っている俺にやけに密着して座ってきた。
「何でもないよ。……けど最近まこ兄と家でゆっくりできなかったから……」
「……そうだな。じゃあ一緒にゲームでもするか」
「いいの⁉ ……やっぱり駄目。生徒会のお仕事があるんだよね。邪魔してごめんなさい」
「大丈夫、今終わったところだ。昔はわがままばっかりだったのに、大人になったな。けど美玖はいつまでも俺の妹なんだから、ずっとわがままでいてくれていい。これは俺のわがままだ。この年になっても兄は聞き分けが悪いんだからその妹はなおさらだよな」
「うん! じゃあこれからもずっと美玖はまこ兄にたくさん甘える!」
ゲーム機の電源をつけて、その日は美玖と二人でソファで寝落ちするまで一緒に過ごした。
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