第25話 二つ目の選択肢・真実
第25話 舞う雪は真実と共に白く、気高く、美しく~二つ目の選択肢・真実~①
「し、霜雪っ……」
目を覚ますと明るい照明が突き刺さってきた。ここはどこだ? 俺はどうなったんだ?
「まこ兄! 良かったぁぁー!」
美玖の声が聞こえたので、重い体を何とか起こした。ここは病室だ。
ベッドの脇には涙を流している美玖、そして力が抜けたような顔している朝市先生と小夜先生がいた。
体を動かすと鋭い痛みと鈍い痛みの両方が走った。擦り傷に打撲の痛み、俺は結局、あの車に撥ねられたんだな。だが頭はすっきりしているし、命もある。助かったな。
「霜雪は⁉」
俺は無事だが霜雪はどうなんだ⁉ なぜここにいない⁉
「冬風君、落ち着いて。体に響くわ。霜雪さんは大丈夫。救急車で冬風君が病院に運ばれる時についてきてくれていたのだけど、すごく取り乱していたから今日はもう帰ってもらったわ」
「……そうですか。……無事なら良かったです。状況を教えてもらえますか? 車に撥ねられたことは分かるんですけど」
泣いている美玖を小夜先生が撫でて落ち着かせてくれながら、朝市先生から撥ねられた後のことを教えてもらう。
「冬風を撥ねた車はどうやら飲酒運転だったらしい。それでハンドル操作を誤ったところで、冬風と霜雪のいた校門に突っ込んだ。霜雪は無傷、冬風は脳震盪と打撲、その他色々な傷。だがその怪我で済んで良かったと思えるくらいには大変な事故だった。お前が無事で本当に良かったよ。
事故の音を聞いて俺や他の先生が学校から飛び出して、校門近くの壁に突っ込んでグチャグチャになった車の陰に、倒れた冬風と傍で泣いている霜雪を見つけた時には心臓が止まるかと思った。幸い霜雪が既に救急車を呼んでおいてくれていたおかげで、救急車がすぐに到着し、俺と涼香、霜雪で一緒に乗り込んだ。
その後は霜雪を家に帰して、今に至るって感じだ。大きな怪我ではないが、脳震盪の影響を調べるために一週間程度は入院することになるそうだ。ご両親にはもう連絡してある。お母さんが明日、こちらに帰ってきてくださるそうだし、市内に住んでいるというおじいさんとおばあさんがこの後来てくれる」
「ありがとうございます。何から何まですみません」
「いいんだよ。本当に無事で良かった……」
「ええ、本当に……」
朝市先生と小夜先生にかなり迷惑をかけたな。退院したら何かお礼をしなければ。というか案外怪我した本人は冷静なものだな。だが自分のことだから特に何も思わないが、もし俺と霜雪が逆の立場だったら、俺も冷静ではいられなかっただろう。
「美玖、俺は生きてるし、大した怪我じゃない。泣くなよ」
「そ、そんなの無理ぃっ……。だって、だって、まこ兄が死んじゃったら……美玖、どうしたらいいのっ」
「だから死んでないって。……心配かけてごめんな。本当に俺は大丈夫だから」
俺はまだ泣き続けている美玖の頭を撫でる。ここが個室で良かったな。
「朝市先生、小夜先生、遅くまですみません。祖父たちが来るということなら美玖も大丈夫です。ご心配をかけて申し訳ありませんでした」
「冬風が謝ることなんてない。俺も涼香も迎えが来るまではいるよ」
「ええ。私たちに気を遣わなくていいわ。生徒会のみんなにはどう知らせる? 明日には学校で噂にはなってしまうと思うけど……」
「先生方からあいつらに言っておいてもらえますか? 自分からは何て言えばいいか分からないので……」
「ええ、分かったわ」
「それと見舞いには来なくていいって言っておいてください。あいつらは来てくれようとすると思いますが、そんなことされても恥ずかしいだけなので」
「……ええ、一応そう言っておくわ」
俺は霜雪に心配ないとメッセージを送ろうと思ったが、俺のスマートフォンはバキバキになって壊れていたので、美玖に代わりに送ってもらう。
その後、じいちゃんたちが来て、美玖を連れて帰り、俺は医者から一週間検査のために入院してもらうと説明を受けた。一週間か。やることはないし、暇だろうな。
次の日、お袋が朝一番に病院に来て、一緒に医者の話を聞いた。自分的にはもう学校に行けると思ったが、やはり昨日聞いた通り、体の怪我ではなく、脳震盪の検査で入院はすることになるそうだ。
お袋が気を遣ってくれたおかげで個室で入院生活を送れる。どうせなら生徒会はあいつらに任せて、ゆっくり勉強でもするとしよう。
診察を受けた後、お袋と一緒に病室に戻った。
「お袋、なんでそんなに寝不足なんだ? 目、隈になってるぞ。早く家に帰って寝ろよ」
「子どもが事故にあったと聞いて、ぐっすり眠れる親なんていないわ。本当に無事で良かった」
お袋に抱きつかれるが、すぐに突き放すことはできなかった。少しでも当たり所が悪かったら、俺は死んでいたかもしれない。大丈夫だと聞いても確かに安心はできないよな。
「心配かけて悪かった。俺は大丈夫だ。親父にもちゃんと言っておいてくれよ」
「……うん」
お袋はどうやら着替えや勉強道具を持ってきてくれたみたいだ。さすがに俺のことをよく分かっている。
「なあ、俺のリュックに霜雪とかから貰ったチョコが入ってたはずなんだけど、どこにやった?」
「冷蔵庫に全部入れておいたわ。クッキーとかはもしかしたら割れてるかもしれないけど……」
「作ってくれた奴には申し訳ないが、どうしようもないな。ありがとう」
「……あんなにバレンタイン貰ったのね。モテモテじゃない」
「モテモテって生徒会で知り合った奴らが義理でくれた奴がほとんどだぞ」
「ほとんどはそうかもしれないけど、特別なのが三個もあったでしょ。ラッピングを見ただけで分かるわ」
「……霜雪と夏野と戦国のか……」
「あら、ちゃんとどれが特別って分かるのね」
「……ああ」
三人がくれたチョコレートが特別だってことは俺にも分かる。だが最近、あいつらのことを考えると胸が苦しくなる。この理由は分からない。
「ホワイトデーにはちゃんとお礼をしなくちゃね」
「心配しなくて大丈夫だ。毎年美玖のバレンタインに付き合ってるおかげで、クッキーやチョコを作るのは得意になった」
「頼もしいわ。お母さんにも今度作ってよ」
「ああ」
病室に必要な物を色々準備してくれてから、お袋は家に帰った。正確には俺が言ってお袋に帰ってもらった。必要なことは自分一人でできるので、ずっとお袋にいてもらってもどうにもならない。それにお袋はあの様子だと昨日は一睡もしていないのだろう。この状況でお袋に倒れられては本当に洒落にならない。
どうやら今世間で話題になっている本も暇つぶし用に買ってきてくれていたようだ。お袋の気遣いに感謝しつつ、俺の一週間の入院生活が始まった。
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