第24話 想いは包まれ、渡し、隠される~バレンタイン~②
放課後、生徒会室の中では女子たちによるチョコレート交換会が行われた。
「わー! 真実ちゃん凄い! これ自分で作ったの⁉」
「いえ、母と一緒に。これまでバレンタインなんてしたことなかったから、母の方が張り切ってしまって……」
霜雪が霜雪母に振り回されながらキッチンでチョコを作っている姿が頭に浮かぶ。さぞかし大変だっただろう。
「誠さん、どうぞ」
女子での交換が終わって、これまで完全に存在しないものとして扱われていた、俺と月見と秋城の男子組に渡す時間になったらしい。
春雨からチョコを受け取る。桜模様の袋に入れられていて、一目で春雨のチョコだと分かる。
「ありがとな」
「いえいえー、お世話になってますから……」
その後、星宮、夏野からもチョコをもらい、最後に霜雪が俺の所に来た。
「……はい。冬風君の口に合うか分からないけど……」
「ああ、ありがとう。……昨日チョコ作り大変だったんだな」
「ええ、母に振り回されっぱなしだったわ」
霜雪が俺の隣に座る。
「俺も昨日は美玖のチョコ作りに付き合いっぱなしだったよ。あ、美玖から生徒会に預かってるの忘れてたな」
俺はリュックから今日の朝、美玖から預かった紙袋を出す。
「美玖からだ。自由に取ってくれ」
「美玖ちゃんから⁉ やったー!」
夏野たちがそれぞれ袋から一つずつ袋を取る。
「ほら、霜雪の分も」
俺は最後の一つを霜雪に渡して、紙袋をたたんだ。
どうするべき? 鞄の中にはまだ一つ渡していない特別なチョコがある。けど私がそんなものを渡していいのだろうか? 夏野さんは? 戦国さんは? 冬風君にどんなものを渡したの?
ラッピングも他のとは違う特別なものを選んだ。生徒会の人たちに渡したチョコレートは母が手伝ってくれたが、これだけは自分だけで作った。
渡したい。けど……。けど……。
その日の生徒会が終わる頃に小夜先生も生徒会室に来て、チョコレートを配った。今日だけで俺がこれまでの人生で貰ったチョコの数だけありそうだな。
朝より重たくなったリュックを背負って、全員で揃って学校を出た辺りで忘れものに気が付いた。
「しまった。生徒会室に筆箱忘れたから取りに帰るよ」
「誠、待っていようか?」
「いや、いい。じゃあまた明日な」
「まこちゃん、また明日ねー!」
生徒会の奴と別れて、生徒会室に戻る。途中で気付いて良かった。一日くらい筆箱がなくてもどうにでもなるが、やはりいつもあるものがないのはムズムズするものだ。
再び生徒会室から出ると、校門に霜雪が一人でいた。
「どうしたんだ? 秋城たちと一緒に帰らなかったのか?」
「……ええ、あなたを待っていたの……。渡したいものがあったから……」
大丈夫……。渡そう。沙織さんも言っていた。私は私のやりたいことすればいいんだ。
校門の前で俺と霜雪は向き合い、霜雪が鞄の中から雪模様のラッピングに包まれた小袋を出した。
「……これは母に手伝ってもらわずに自分で作ったの……。初めてだったから上手くできているか分からないけど……。貰ってくれるかしら」
「ああ、貰うよ。ありがとな。わざわざこれを渡すために待っててくれたのか。生徒会室でも良かったのに」
「……駄目よ。冬風君と二人の時に渡さないと駄目だったの」
「……そうか。わざわざありがとう」
「それで……冬風君に言いたいことがあるのだけど……」
「ああ、何だ?」
「私は、私はあなたのことが……」
ん? やけに眩しいな。それに光源がこちらに迫ってきているような気がする。あれは何だ? あれは……車だ!
「霜雪っ!」
俺と向き合っていた関係で、後ろから不審な動きをしている車が迫ってきていることに気付いていなかった霜雪を俺はその場から突き飛ばす。
世界が少し反転した後、俺の目に映った最後の光景は、俺の名前を呼びながら涙を流す霜雪の顔だった。
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