第22話 聖夜に重なる想いは切なく~クリスマス~③

 イルミネーションはもちろん夜なので、昼ご飯を食べてから市内の中心街に出る。


「あ、まこちゃん! やっほー」


 俺が集合場所に着くと、既に夏野がいた。


「よう、今日も今日で寒いな」


 今日も夜からは雪が降る予定だ。


「あ、昨日あげた手袋、使ってくれてる!」


「せっかく貰ったからな。かなり寒さが和らぐ。ありがとな」


「えへー、よかったー」


 俺が到着してから数分後に霜雪もやって来た。


「ごめんなさい。遅くなってしまったわ」


「ううん! みんな集合時間より早く来ちゃったね! じゃあ色々お店を回ってみよう!」





「そう言えば美玖が昨日の朝マフラーをどっかに引っかけて裂いたんだ。クリスマスプレゼントはマフラーと何かにしようかな」


 取り敢えずいつもとは違うショッピングセンターに入って適当に歩きながら俺が言う。


 美玖は何でも喜んではくれるだろうが、せっかく女子が二人もいるんだ。意見を聞くに越したことはない。


「それなら取り敢えずマフラーを見て回ろう!」


 三人で店に入って悩む。


「うーん、美玖ちゃん、可愛いから何でも似合っちゃうんだよねー。逆に難しいよー」


「そうね、明るい色のマフラーも落ち着いた色のマフラーも似合うでしょうね。……どっちの美玖さんも見たいわ」


 夏野と霜雪が唸りながらお互いにマフラーを首にあてたりする。


「うー、決まんないよー。あたし、長くなりそうだしあたしちょっとお手洗いに行ってくる!」


 夏野がそう言って、店から出ていく。確かにこの調子なら長くかかりそうだな。





 店の中で冬風君と二人きりになる。美玖さんへのプレゼント選びは夏野さんが帰ってきてから再開しよう。


「冬風君もせっかくならマフラーを買ったら?」


「そうだな。ついでだしそれもいいな。適当に選んでくれ」


 美玖さんのマフラーを見ながら、ついこのマフラーは冬風君に似合うだろうなと何個か候補を自分の中で出してしまっていた。


「これとこれとこれ、私のおすすめよ」


「そうか、じゃあその中ならどれがいいかな」


「順番に巻いてみたら?」


 候補の一つを手に取って、冬風君に巻く。


「……似合ってる」


「……ありがとう。他のも試してみよう」


 その後、残りの二つも試している途中で夏野さんが戻ってきた。





 店に戻ってきて二人の所に行こうとしていたら、真実ちゃんがまこちゃんにマフラーを巻いていた。それは美玖ちゃんのためのマフラーではなく、まこちゃんのための物だろう。あたしがいない間に二人で仲良く選んでたの?


「夏野、霜雪に俺のマフラーを選んでもらってたんだ。この三つの中ならどれがいい?」


 それをあたしに決めさせるの? まこちゃん、そんなの辛すぎるよ。


「うーん、あたしには難しいー。真実ちゃんが選んであげて!」


「……それならこれかしらね」


「じゃあ、これにする。ありがとう」


 駄目だ。昨日から何かおかしい。こんなこと考えちゃ駄目。まこちゃんを独り占めしたいなんて……。





 美玖へのマフラーを選び終わってラッピングをしてもらう。ついでに買った俺のマフラーはそのままタグを切ってもらって、首に巻く。


「あ、アイスクリーム屋さんがある! 行ってみようよ!」


「夏野、お前こんな寒いのにアイスなんか食べるのか」


「えー、寒い時のアイスってなんか美味しくない? 行こうよー」


「ええ、行きましょう。私もなんだか食べたくなってきたわ」


 結局三人でそれぞれアイスを買って、ベンチに座って食べる。


「冬風君、そのアイスは何?」


「ん? はちみつゴマバニラチョコミックスだ。意外と美味しいぞ」


「全く味が想像できない名前ね」


「食べてみるか?」


「いいの? じゃあ少しいただくわ」


 霜雪がスプーンで少しだけ俺のアイスをすくって食べる。


「何とも言えない味ね」


「いや、美味しいだろ。夏野、食べてみてくれ」


「やったー! いただきます!」


 夏野にも一口分けるがすぐに微妙そうな顔をした。


「全部の味の主張が強すぎるよー」


「そうか……。どの味も主張するからこそ美味しいと思ったんだけどな」


 どうやら俺の味覚はマイノリティらしい。




 その後、適当に買い物や休憩をしていると、辺りがすっかり暗くなってきた。イルミネーションがある並木道に向かうと点灯はまだにも関わらず、かなりの人がいた。





 クリスマスの夜にイルミネーションを見ることなんてこれまでなかった。私の初めてはいつもあなたと一緒なのね、冬風君。


「そう言えば、手袋はちゃんと買っていたのね。マフラーは今日やっと買ったのに」


「ああ、これか。これは昨日夏野からもらったんだ」


 ああ、これは聞かない方が良かったかもしれない。こんなに些細なことで胸が締め付けられる。夏野さんも戦国さんにもずっとこの感情を抱いてしまう。嫉妬……。自分は何も冬風君に気持ちを伝えていないのに、何て勝手な感情なんだろう。


「そう、良かったわね」





 そろそろ点灯の時間だ。まさかまこちゃんとクリスマスのイルミネーションを見ることができるなんて。生徒会に入った頃のまこちゃんなら、人が多い所はごめんだとか言って、来なかっただろうな。それを言うなら真実ちゃんもあの頃はまこちゃんと息ぴったりで、お出かけしようと誘っても断られることが多かった。二人とも変わったなー。私は何も成長なんかできていないのに……。


 やっぱりまこちゃんとお似合いなのは真実ちゃんだ。それに六花ちゃんもまこちゃんに告白してる。六花ちゃんはまこちゃんと一緒にいる時間で言ったら生徒会の私と真実ちゃんより断然少ないはずなのに、かなり仲が良い。二人の相性が抜群なんだろう。


 イルミネーションが点灯した。光り輝く景色が目の前に広がる。




「綺麗だな」

 目の前に点灯したイルミネーションは思っていたより壮大で目を奪うものだった。

 夏野と霜雪からは何も返事がない。二人もこの光景に圧倒されているのだろうか。





 最近、涙脆くなったなー。まこちゃんと一緒にいる時ばかり泣いている気がする。けど今回の涙はまこちゃんには気付かせない。少しまこちゃんの後ろに下がる。





 綺麗だわ。こんな光景をあなたと、夏野さんと一緒に見ることができてよかった。今年は数え切れないほどの思い出ができた。生徒会に入って良かったと思える。


 ふと気付くと夏野さんが三人で並んでいたところから一歩後ろに下がった。


 どうしたのだろう? 私も一歩下がって、夏野さんの顔を覗くと、その目からは涙がこぼれていた。


 どうして? その涙は何? 私はどうしたらいいの?





 真実ちゃんと目が合う。真実ちゃんのこともまこちゃんと同じくらい大好きなはずなのに、胸が痛いよ。


 真実ちゃんが優しくあたしの手を握ってくれたが、あたしはその手を振り払った。





 少し落ち着いてもらえるかと思い、夏野さんの手を握ったが、その手は振り払われた。


その瞬間、夏野さんは大きく傷付いたような、そして後悔を浮かべているような表情をした。





 真実ちゃんはハッとしたように手を引いた。その顔で分かる。私は真実ちゃんを傷付けた。





 どうして?


 どうして?




 私は冬風君を独り占めしたい。




 あたしはまこちゃんを独り占めしたい。




 けど私は、同じくらい大好きな夏野さんにとって……



 けどあたしは、同じくらい大好きな真実ちゃんにとって……




 邪魔者なんだ……。

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