第22話 聖夜に重なる想いは切なく~クリスマス~②

「皆さん、こんにちは!」


 夕食の買い物に行かなければならないが、ケーキをそのまま持ち歩くわけにはいかないので一度家に帰る。


「美玖、俺と月見と秋城で買い出しに行ってくるよ」



 美玖にケーキを渡して、秋城たちを連れてスーパーに行き、買い出しを済ませた。


「誠、僕も何か手伝おうか?」


 美玖たちがリビングでゲームをして盛り上がっている中、夕食の準備をキッチンでしていた俺に秋城が話しかけてきた。


「いや、大丈夫だ。客らしくゆっくりしてろ」


「そうか、何かあったら言ってくれよ」


「ああ、分かった」


 メインとしてはピザなどを買ったが、それだけでは物足りないので、その後も取り敢えずクリスマスっぽい料理を作っていく。


「冬風君、手伝うわ」


「いや、一人でできるよ。向こうで遊んでていいぞ」


「いえ、もう十分遊んだわ。それに私が手伝いたいから手伝うの」


「……そうか。じゃあ、そっちの野菜を切ってくれるか」


「ええ」


 霜雪は手を洗って野菜を切り始める。


「あ、美玖がいつも使ってるエプロンがある。制服が汚れたらまずいから着てくれ」


 俺はキッチンにキレイにたたまれていたエプロンを取り出し、もう一度手を洗おうとした霜雪を制す。


「何回もめんどくさいだろ。ほら手を上げろ」


「……ええ」


 俺の言う通りに手を上げた霜雪にエプロンを聞かせて、後ろの紐を結ぶ。


「……ありがとう」


「ああ、それを切り終わったら、こっちも頼むな」


「……うん」


 俺は霜雪の顔がその時、赤くなっているとは気が付かなかった。




 政宗君がさっきまこちゃんを手伝いに行ったけど、すぐに帰ってきた。多分まこちゃんが断ったのだろう。でもずっと一人で準備をしてくれているし、手伝わないといけないよね。まこちゃんが断ってきても無理やり一緒に準備するんだから。


 キッチンの方を振り向くとまこちゃんと真実ちゃんが二人でいた。真実ちゃんはお手洗いに行ったのだと思っていたけど、まこちゃんを手伝いに行ってたのか。


 まこちゃんが真実ちゃんにエプロンを着させてあげている。なんで? なんでこんなに胸がざわつくの? 


「……さん! 奏さん! もう一回やろうよー」


 美玖ちゃんの声にハッとして意識が戻る。


「うん! というか政宗君強すぎー! ちょっとは手加減してよー」


「じゃあ、僕の代わりに咲良にやってもらうよ。ほら、僕が教えるから咲良が奏を倒してやってくれ」


「えっ、わ、私はこういうの苦手で……」


 駄目だ。考えちゃ駄目だ。


 ……あたしより真実ちゃんの方がまこちゃんにお似合いだなんて……。




「よし、何とか間に合ったな。霜雪、お前が手伝ってくれなかったらもっと時間がかかっていた。ありがとう」


「いいのよ。じゃあ運びましょうか」


 霜雪と一緒にリビングのテーブルまでピザと料理を運ぶ。


「えー! 誠君、こんなに料理が得意だったの!」


「何年も自炊してるからな。それなりだ。あまり遅くなると雪が降って帰り道が危なくなる。早めに食べよう」


 その後、大いに盛り上がりながら、クリスマスイブの夕食が終わった。


 まさか高校生だけで夜遅くまで遊ぶわけにはいかないので、八時前にはもう全員帰り支度を始めた。


「みんな、今年はこれで会うのは多分最後だね。色々と迷惑をかけてしまったが、助けてくれてありがとう」


「素直な政宗なんてレアよ。これは雪が降るわね」


「僕が素直にならなくたって雪は降るさ。誠、今日は楽しかったよ。ありがとう」


「ああ、また来年な」


 バスを使う月見と星宮と別れ、俺は駅まで秋城たちを送り、秋城、春雨、霜雪の電車が先に来たので、俺は夏野と二人で改札前のベンチに座る。


「なんか今年ってあっという間だったなー。まこちゃんはどうだった?」


「俺もあっという間に感じたな。生徒会で色々忙しかったから」


「だね! あっ! 雪が降ってきたよ!」


 夏野が駅の外に出たので俺も一緒についていく。


「雪なんて毎年降ってるだろ」


「もー、まこちゃんは情緒がないなー」


「お前に情緒がないと言われる日が来るとは思ってなかったよ。……綺麗だな。四季祭の時の人工雪も綺麗だったが、自然の雪もなかなかだ」


「そうだね。雪は綺麗……」


 夏野がリュックを開けてラッピングされた袋を取り出す。


「まこちゃん、あたしからのクリスマスプレゼントだよ!」


 少し無理をしたような声で夏野が袋を渡してきた。


「なんでまた俺なんかに……」


「今年はまこちゃんに色々とお世話になったからね。今のうちに賄賂を渡しといて来年もたくさん働いてもらわなきゃ!」


「クリスマスっていうのに、賄賂って言い方をするなよ。……ありがとう。お返しは明日するよ」


 俺は夏野からプレゼントを受け取る。


「今開けてみていいか?」


「うん! 今まこちゃんに必要なものだよ!」


 袋を開けると、中身は手袋だった。


「まこちゃん、なんだかんだで手袋もマフラーも買ってなかったでしょ? どう? あたし、男の人の物とかあんまり分からなくて……」


「ありがとう。大切にするよ」




プレゼントを見たまこちゃんが分かりやすく嬉しそうな顔をする。素直なまこちゃんといえども、こんな顔は普段は見せない。そんな顔をあたしの前でしてくれた。それだけで散々プレゼントを悩んだ甲斐があったと思える。


「あ、そろそろ電車が来ちゃう。じゃあまた明日ね!」


「ああ、気を付けて帰れよ」


 まこちゃんに見送られながら改札を取ってホームに向かう。


 よし、プレゼントは渡せた。今日のところは及第点だろう。


 また明日もまこちゃんに会える。今日あげた手袋をしてきてくれたらいいな。サンタさん、明日のプレゼントはそれでお願いします……。





 家に帰ってから美玖と一緒に今日作ったケーキを食べた。そして少しゆっくりしていると祖父母の家に帰省しているという戦国から電話がかかってきた。



「誠、今日は何してたの?」


「今日は家庭科部のイベントでケーキを作って、その後は生徒会の連中と俺の家で色々遊んだ」


「えー、いいなー。おばあちゃんの家に帰ってなかったら、あたしもケーキ作りに行きたかったー!」


「まあバレンタインが近くなったらまた同じようなことをするって言ってたからそれに参加すればいいさ」


「バレンタインかー。誠はチョコとかもらうの?」


「俺が誰かにチョコを貰えるような人間だと思うか? 美玖にもらうだけだよ。しかもそのチョコは俺が一緒に作ったチョコでラッピングもなしだ」


「えー! なんかごめん」


「憐れむなよ。そんな声をされるとむなしくなってくる。けどせめてラッピングくらいはして欲しいよな」


「気にするところそこなの⁉ ……でも今回のバレンタインは大丈夫だよ」


「ん? 何がだ?」


「……私が誠に特別なチョコをあげる」


「……」


「おやおや? 電波が悪いふりかな?」


「そんなことはない」


「えへー、ごめん。からかいすぎちゃったね。クリスマス本番の明日は何するの?」


「明日は夏野と霜雪と一緒にイルミネーションを観に行くことになった」


「えー⁉ ずるいー!」


「ずるいってなんだよ。イルミネーションの写真撮ったら送ろうか?」


「いらない……。送ってもらっても嫉妬するだけだし……」


「嫉妬?」


「誠、女の子も男の子も好きな人が誰かといたら嫉妬するものだよ。だからあんまり鈍い反応ばっかりしてるといつか痛い目を見ちゃうよ」


「嫉妬か……。難しいな」


「まあ、好きになった側としては避けては通れない道だね。……私もよく分からないけど」


「お前も分からないのかよ」


「だってまさか自分がこんな風になるとは思っていなかったんだもん。それに相手が奏ちゃんと霜雪さんだから……」


「その二人だと何か違うのか?」


「……それは私の口から言うことじゃないからノーコメントね。あ、もう行かなきゃ。誠、電話取ってくれてありがとう」


「ああ、風邪ひくなよ。こっちは雪も降ってるからな」


「うん! おやすみ」


「おやすみ」


 電話を切って考えてみる。嫉妬か。難しい感情だ……。

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