第21話 静かに積もる雪の想い~勉強会~③
「おい、なんでお前たちは俺を置いて逃げたんだよ」
「だって、巻き込まれると長そうだったもの」
「そう思うなら助けてくれよ。色々面白い話を聞けてありがたかったが、途中からは親父とお袋、それに霜雪のご両親の恋愛話だったぞ。何が悲しくて親の恋愛を聞かなきゃならないんだ」
俺は夕食の後、霜雪の両親と一対二で話し続け、なんとか霜雪の部屋に戻ってきた。
「えー、美玖はお母さんの話聞いてみたいけどなー」
「冬風君、母も父も私には止められないの。ごめんなさいね」
霜雪は眼鏡をしていて、いつもとは雰囲気が違う。いつもはコンタクトらしいので、眼鏡姿の霜雪を見るのは初めてだ。
三人で美玖が持ってきたトランプをしていると、また部屋の扉がいきなり開けられた。
「三人とも、お布団を敷くから少し避けてもらえるかしら?」
霜雪母が部屋に入って来て、素早く布団を二つ敷く。
「じゃあ、お母さんはもう寝るし、お父さんはリビングで寝落ちしちゃってどうにもならないからあとはご自由にー」
そして嵐のように過ぎ去っていった。
「ちょっと待て、霜雪は自分のベッドで寝るとして、なんで布団が二つなんだ?」
「美玖と……まこ兄の分?」
「……美玖ならまだしも、さすがに俺が霜雪と同じ部屋で一緒に寝るってことはないよな……? 別の場所があるだろ?」
「しまったわ。冬風君にはリビングに布団を敷いて寝てもらおうと思っていたのだけれど、父がそこで寝ているってことはもうスペースがないわ。母は父がリビングで寝落ちすると、布団を敷いた後にそこに父を転がして放っておくの」
「ずいぶん扱いがひどいな」
「それに他の部屋は物置に使ってしまっていて布団を敷ける場所がもうないの。冬風君、申し訳ないのだけれど、今日だけは我慢してもらえるかしら?」
「……霜雪がいいならそれでいいが……」
「そう、私なら大丈夫よ。美玖さんもいるしね」
「うん! 今日は三人で仲良く寝よ!」
暗くなった部屋で改めて思う。なんで自分のベッドで寝ずに霜雪も布団で寝ているんだよ。まあ、そうなった原因はもちろん美玖にあるんだが。二つの布団を繋げて三人で使っているので、隣の美玖の静かな寝息も鮮明に聞こえる。美玖を挟んでいるとは言え、霜雪がすぐ隣にいる状況で快適な睡眠はできそうにないな。
「……冬風君、まだ起きてる?」
霜雪が美玖を起こさないように小さな声で囁く。
「……ああ、起きてるよ」
「まさかあなたと同じ部屋で寝ることになるとはね」
「同じ部屋ならまだしも、隣の布団なんてな。霜雪は美玖に弱すぎるぞ」
「ごめんなさい。美玖さんに頼まれるとどうしても断れないの」
「……んっ」
美玖が自分の名前に反応したのか、一瞬声を漏らし、また静かな寝息に戻る。
「霜雪は寝ないのか?」
「……眠れないの。どうしてかしらね」
「……どうしてだろうな」
姿勢を変えて美玖の方に体を向けると、暗闇の中だが目が慣れていたので、霜雪と向き合ったのが分かった。
「……いっそのことずっと私の家に泊まる? 美玖さんも一緒なら私はやぶさかではないわよ」
「……無理だな。体がもたない。今日は眠れる気がしないしな」
「お望みなら朝まで付き合うわよ」
「……ありがたいが遠慮しとくよ。明日が日曜でも睡眠は大切だ。霜雪ももう寝た方がいい」
「そうね。……おやすみなさい」
「おやすみ」
霜雪も俺も逆を向いて、目を閉じる。
この胸の鼓動、霜雪には聞こえていないよな?
この胸の鼓動、冬風君には聞こえていないよね?
今日は……長い夜になる。
「まこ兄、真実さん、起きて」
「美玖、もうちょっと寝かせてくれ……」
「……んっ、私ももう少し……」
美玖の声でなんとなく目は覚めるが、完全に寝不足だ。もう少しだけ、目を閉じていたい。
「真実、誠君、朝よ。なんで二人揃ってそんなに寝不足なのかなー? 今すぐに起きないと、夜に何をしてたか話すまで逃がさないぞー」
霜雪母の声に俺も霜雪も飛び起きた。何もやましいことなんてしていないが、黙っていれば、真実を捏造されて、それでからかわれてしまう。
「……おはようございます」
「うん! おはよう! さあ、朝ごはんの準備はもう少しでできるから、顔とか洗ってきてー」
結局、その日は美玖が霜雪母と霜雪父の相手をし続け、俺と霜雪は勉強を続けた。
「二日もお世話になったな。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ母と父が暴走してしまって悪かったわ」
「真実さん、今度はうちに泊りに来てね!」
「ええ、美玖さん、ありがとう」
「じゃあ、また明日な」
駅で霜雪と別れて家に帰る。
今年もあと一か月と少しだな。期末テストが終わると、すぐに冬休みになる。
だんだん肌寒くなってきた道を歩きながら、今年の冬はどうなるだろうと考えた。
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