第21話 静かに積もる雪の想い~勉強会~②
「そろそろ帰るよ。霜雪の説明、分かりやすかった。ありがとう」
「いえ、私も助かったわ。駅まで一緒に行く」
霜雪の部屋を出て、リビングに降りて霜雪母に挨拶しようすると、何やら霜雪母が悩み始めた。
「どうかしましたか?」
「んー、誠君! 今日はうちに泊まっていこう!」
突然のことに霜雪と目を合わせ、俺より先に霜雪が反応する。
「駄目よ。絶対に駄目」
「いいじゃん! お母さん、もっと誠君とお話ししたい!」
「お母さん、嬉しいお誘いですが、妹と二人暮らしなので妹だけ家に残しておくわけにはいきません。今日のところは帰らせ……」
「じゃー、妹さんも呼ぼう! 沙織の娘さんなんて絶対に可愛い! 妹さんに着替えを持ってきてもらえば誠君は何も問題はないでしょ?」
まずいな。美玖は霜雪の家に泊まると聞いたらたとえそこが地の果てでも来るだろう。美玖にこの提案を知られないようにしなければ。霜雪、何とかしてく……。駄目だ。こいつ、美玖も泊まるならとまんざらでもない顔をしてるぞ。霜雪、裏切るなよ。
「美玖さんに聞いてからにしましょう。美玖さんが駄目だと言ったら今日は諦めて」
霜雪が霜雪母にそう言うが、どうやら俺にもう決定権はないらしい。
結局俺の予想通り美玖も霜雪の家に来ることになった。
「美玖さん、急にごめんなさいね」
「いえいえー、真実さんの家に泊まらせてもらえるなんてすごく嬉しいです。ね、まこ兄」
家から最速で来た美玖を最寄り駅まで迎えに行き、三人で霜雪の家に戻る。
「何をどうされるか不安でしかないよ。泊まるのはもう別にいいが、どうしてあんなにテンションが高いんだ?」
「おそらく娘の友達が泊まりに来るというシチュエーションに憧れていたのね。これまでそんなことは一切なかったから。それにそれが親友の子どもとなったら、興味が湧くのも無理ないわ」
「確かにな。美玖、霜雪のご両親は親父とお袋の同級生で、生徒会で一緒だったらしい」
「へえー、なんだか不思議な感じー」
「どうにか上手くしたら美玖さんを私の妹にできないかしら」
「どうやっても無理だろ。俺と結婚でもしない限りな」
「……そうね」
「おい、なんだ今の間は」
そうこう言っているうちに霜雪の家に着いた。
「お邪魔します。今日はお世話になります。冬風の妹の美玖です」
「きゃー、沙織の若い頃にそっくりね! 突然なのに来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます!」
霜雪は美玖と自分の母親の絡みに悔しそうにしている。
「美玖さん、私の部屋に行きましょうか」
「はい!」
「あ、お風呂はもう沸かしたから、夕食の前にもうみんな入っちゃってね」
俺が先に風呂を頂くことになり、その後に、美玖と霜雪が二人で風呂に向かった。
「誠君、少しお話しましょう」
霜雪の部屋に戻る前に霜雪母から呼び止められたので二人でテーブルに座る。
「急に泊めちゃってごめんね」
「いえいえ、こちらこそお世話になります。妹も真実さんのことが大好きなので喜んでいます」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。……誠君、あなたは真実の何かしら?」
霜雪母が優しく微笑みながら聞いてくる。どんな答えを期待しているのかは知らないが、俺は本当のことを言うだけだ。
「友達です。大切な」
「……そう」
霜雪母の目に少し涙が浮かぶ。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう。突然ごめんね。真実に友達ができたって思うと、つい嬉しくなっちゃって。真実はこれまで人との関わりを避けてきていたから……」
「ええ、知っています。僕も真実さんと同じでした。僕もこれまで人と関わらないようにしてきたんです」
「……そうなのね。けどそれは過去形?」
「はい、生徒会に入ってから僕は様々な人と関わるようになりました。それは真実さんも同じはずです。そして僕たちは友達になった。お互いに分からない事ばかりですが、これから、色々なことを知っていくのだと思います」
「しっかりしてるね。さすが沙織と太陽の息子さん。……けど誠君と真実は普通の人が言うところの友達という関係とは違うのかもね」
「……どういうことです?」
「真実はね、生徒会に入ってから、他の人のことを私に話してくれるようになった。生徒会やクラスで話す人のことをね。けど、その時は友達なんて言葉を使ってなかった。けど、今日、誠君を家に連れてくる前に私に連絡してきたの。友達と家で勉強していいかって。それが真実が初めて私に友達という言葉を使った瞬間。そしてそれは誠君、あなたのこと」
「……」
「誠君も真実も薄々かもしれないけど分かっているんじゃない? お互いに友達と言う関係じゃ説明がつかない意識を持っているということを。そしてそれは儚く切ないものだっていうことも」
「……俺と霜雪……」
「……なーんてね! 難しく考えちゃ駄目! いやー、誠君の顔を見てたらなんだか昔を思い出しちゃったなー。高校生ぐらいの年齢って、色々複雑で必要ないことまで答えを出そうと考えちゃうよねー。けどお互いに傷付けたり、傷付けられたり、上手くいかなくて悩んだり。それら全てが青春だよ。だから後悔がないように誠君は誠君なりに真実と関わってくれたら嬉しいな」
お袋と同じことを今言われた。二人も学生時代に何かあったのだろうか。
「……俺は目の前のことに、人に向き合うだけです」
「うん! それがいい! あ、女の子の家に泊まるからといって、一線は超えちゃいけないぞー。いくら親同士が知り合いでも順番は守らないとねー」
「そんなことしませんよ」
まずい。本当に夏野、戦国、紅葉さんと同時に話してるように感じてきた。それに向こうの方が大人な分、俺より何枚も上手だ。
ニコニコと微笑まれる中、俺がどうやってこの状況を打開しようか考えていると、玄関のドアが開く音がして、ドタバタという足音がした。どうやら霜雪父が帰ってきたのだろう。
「太陽と沙織の子どもが泊まりに来てるって本当か⁉」
「ええ、彼が誠君よ。妹の美玖さんは真実とお風呂に入ってるわ」
「そうか! 君が太陽の息子か。よく見ると確かに太陽の面影を感じるな。よし! 今日は男同士語り合おう!」
「ちょっと、私も入れてよー。ね、誠君、いっぱいお話ししましょうね」
完全に向こうのペースだ。確かに俺の親も霜雪が来たらこんな反応をするだろうが、まさか霜雪父までこんなにテンションが高いとは。俺の親父もテンションお化けなのに、よくお袋はこの三人がいる中で生徒会にいられたな。
俺は霜雪の助けを心の中で待ちながら覚悟を決めた。
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