第21話 勉強会
第21話 静かに積もる雪の想い~勉強会~①
「まこ兄、今日はどこ行くの?」
「霜雪と図書館で期末テストの勉強をしてくるよ。毎回霜雪にこっちの家に来てもらうのは申し訳ないから、霜雪の最寄り駅まで行ってくる」
「了解! じゃあ、家の鍵は美玖が持っていくね」
つい最近、家の鍵が一つ壊れてしまったので、合鍵ができるまで、二人とも外出する時は早く家に帰る方が今唯一の鍵を持って出るというルールになっている。美玖も外出するようだが、昼過ぎに帰ってくる予定なので、今回は美玖が鍵を持つことになった。
四季祭が終わってから数週間、忙しかった生徒会は通常運転に戻り、ごくごく普通な学校生活が続いた。
あの最後の花火の時のことを夏野に聞いても答えははぐらかされるばかりで、最後には忘れてと言われた。忘れることはないが、そう言われた以上蒸し返すことはできない。
今日は土曜日の午前、夏休みに霜雪といつか一緒に勉強をしようと言っていたので、数週間後の期末テストのために二人で勉強することになった。
「おはよう」
「おはよう、今日はこっちまで来てくれてありがとう」
霜雪の最寄りの駅まで着くと、霜雪が迎えに来てくれていた。そのまま近くの図書館まで向かう。
「期末テスト、秋城君に勝ちたいわね」
「ああ、だがその前に俺は霜雪にも勝たないといけない。さらに上には星宮がいるし、夏野とは同点だったから、今回はリードしたいな」
「そのモチベーションなら大丈夫よ。まだ試験まではかなり時間はあるしね」
「そう願うよ」
五分ほど歩くと図書館に着いたが、何やら張り紙がしてあった。
「『書庫整理のため臨時休館』……運が悪かったな」
「……ごめんなさい」
霜雪はよくここに来て勉強しているらしいので、まさか今日に限って休館だとは思わなかたっただろう。
「ちゃんと確認しておくべきだったわ。本当にごめんなさい」
「気にするな。それよりどうする? さっきも話したが、俺の家は今日、美玖が帰ってくるまで入れないんだ。それに学校の図書館も今日は開いていない。このまま解散するか?」
隣の霜雪に尋ねてみると何やら悩みだした。そして、スマホを少し触って、口を開く。
「……私の家じゃ駄目かしら?」
「……それは俺が霜雪に確認するべきことだな」
「なら大丈夫ということね。では行きましょうか」
歩き出した霜雪についていくと一軒家に着き、玄関に入る。
「……ただいま」
「真実―! お友達を連れてきたって本当⁉ え⁉ まさかの男の子⁉」
霜雪が靴を脱いで家に上がると、霜雪のお母さんが走って玄関までやってきた。そのテンションの高さは霜雪からは全く想像できないものだった。俺が知っているところだと、夏野と紅葉さんと戦国のテンションを足して割らなかったくらいの明るさだ。
「突然申し訳ありません。生徒会の冬風誠です」
「冬風⁉ ……失礼なのは承知でお聞きしたいのだけれど、ご両親のお名前を教えてもらっても大丈夫?」
この反応はなんだ? 親父とお袋が霜雪の名前を聞いてした反応と関係があるのか?
「父は冬風太陽、母は冬風沙織、旧姓だと氷室沙織です」
「きゃー! やっぱり太陽と沙織の息子さんね!」
霜雪母がいきなり玄関の俺に抱きついてくる。
「お母さん⁉」
「ちょっと⁉ マ……お母さん⁉」
強く突き放すわけにはいかないので、ゆっくりと距離をとる。
「うちの親とお知り合いなんですか?」
「高校の時の親友よ。太陽と沙織、それに私と夫は四季高校の生徒会で一緒だったの。最近は忙しくてあまり連絡できてなかったけど、まさか二人の子どもが真実と一緒に生徒会にいるなんて、世間は狭いねー」
親父も同じことを言っていた。それならそうと早く言っておけよ。
「お母さん、そろそろ冬風君から離れてよ……」
「ごめん、ごめん。じゃあゆっくりしていってね。お昼ご飯も作るから誠君食べていってねー」
霜雪母はまた勢いよく奥の方に消えていった。
「……いきなり母がごめんなさい」
「気にしないでくれ。それよりまさか親が同級生だったとはな」
「ええ、驚いたわ。……リビングは母がいて、多分ちょっかいを出してくる……。……私の部屋で勉強しましょう」
そのまま霜雪に案内をされて階段を上がって部屋に入る。霜雪らしい落ち着いた色で統一された部屋だ。
「飲み物を取ってくるわ。ゆっくりしていて」
霜雪が部屋を出ていき、俺が手持ち無沙汰にどうしていようかと思っていると、何やら視線を感じたのでその方向を向いた。
視線の主は体長五十センチほどのグラペンのぬいぐるみだった。相変わらず、そのサングラスの奥の表情が見えない。お前はいつも何を考えているんだ。そのサングラスの奥にはつぶらな瞳があるのか?
「……何を見てるの?」
霜雪の声に振り返ると、かなり痛い目線を向けられていた。
「……いや、グラペンってどんな目をしてるのかなって」
「……そう」
霜雪がテーブルにコップを置いた後、グラペンを抱えて俺の隣に座った。
「この子の目はこんな感じよ。可愛いでしょ?」
霜雪がグラペンのサングラスを取ると、その下には確かにサングラス姿からは想像ができないほどつぶらな瞳をしていた。
「そんな目をしてたのか……」
動物はドキュメンタリー番組を欠かさず見るほどには好きだ。俺の中のグラペンの評価がかなり上がった。
「というか、なんでグラペンのぬいぐるみなんて持ってるんだ?」
「美玖さんからキーホルダーを貰った後からどうにも気に入ってしまったの。さあ、勉強を始めましょうか」
「そうだな」
気持ちを切り替えてテスト勉強を始める。俺はどうにも数学が苦手なので、霜雪にコツを教えてもらい、代わりに俺は社会科目や英語のコツを教えた。四季高校はある程度の成績を保ってさえいれば、受験なしに関連校である四季大学に入学できるので、普段の勉強を怠るわけにはいかない。
そろそろ昼という時間になったところで、部屋のドアが激しく開いた。
「真実、誠君! お昼ご飯だよ!」
「ママ! 入る時はノックをしてよ……」
霜雪母は娘の抗議をものともせずに鼻歌を歌いながら下に降りて行った。
「驚かせてごめんなさい。マ……、こほん、母は騒がしい人なの」
「大丈夫だ。夏野もいつもこんな感じだろ。呼び方もわざわざ直さなくていいぞ。別に親のことをなんて呼んでいようが気にしない。……いや、それは嘘だ。霜雪にも可愛い所があるんだな」
「もし口外したらそれなりの報復はするから気を付けることね」
「ああ、覚悟しとくよ」
いつものように言い合いながらも、霜雪の顔は少し赤くなっていた。
昼食を霜雪母と一緒に頂き、それからまた夕方まで勉強を続けた。
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