第20話 落ちる星空、霧を晴らす風~四季祭・秋~③

「よし、なんとか解決したな。人を待たせてるから俺はもう行くな」


 夏野と霜雪に伝えてさっきまで戦国といた場所に向かう。スモークで見えにくくはなっているものの、暗いよりはましだ。





 誠、問題があったみたいだけど、解決できたんだね。


 戦国は一人、人混みにもまれながら冬風を想う。


 けど多分今日はもう一緒にいられないな。誠と別れた位置からはかなり流されてきてしまったし、スマホの充電も切れてしまった。


 全てが自分の思い通り上手くいくわけではない。でも少なくとも誠と一緒に四季祭を回ることができた。


けど……けど……この光景を誠と一緒に見られたらなって思うのは贅沢なの? 


「きゃっ!」


 生徒のアンコールの声に応えて秋城君たちの二曲目の演奏が始まり、生徒が全体的にステージに寄って、また流される。


 誠のことはもう諦めよう。戻ってくるとは言ってくれたけど、こんなに大勢の中だととても見つけてもらえないよ。


 人の流れに身を任せようした時、突然誰かに左手を掴まれ、そのまま引っ張られて人混みを抜けた。


 開けた場所で一体誰だろうと確認するために顔を上げる。


「誠⁉」





 人混みの中から戦国を少し強引に引っ張りだす。


「誠⁉」


「何驚いてんだ? もしかして誰か友達といたか? それなら申し訳ないことをした」


「ううん、一人だったけどどうして……?」


「どうしてって、必ず戻ってくるから待ってろって言っただろ。俺は約束を守る。連絡してもつながらない時は焦ったけどな」


「ごめん、スマホの充電切れちゃって……。でもどうやって私を見つけたの? 別れた場所とは全然違う所にいたのに」


「どうやってって、それはなんとなくだ。俺にも分からないが、周りに人がいても、スモークで遠くまで見えなかったとしても、なんとなく戦国のいる場所が分かった」


「そ、そんなの答えになってないよ……」


 戦国は校舎の壁にもたれかかっている俺の隣に来て、同じように壁にもたれかかる。


「そんなのどうだっていい。今俺たちは一緒にいる。それだけで十分だ」


 戦国がまた肩が触れ合うほどの距離まで近づいてきて、俺の右手と戦国の左手の指が軽く触れ合う。だがなぜだか分からないがお互いにそれ以上、指を絡めようとも離そうともしなかった。


「綺麗だね」


「ああ、秋城もここまでのことは想像してなかっただろうな。照明は陸上部が手伝ってくれたから、この数を用意できた。何回でも言う。本当に助かった、ありがとう」


「もー、本当に何回でも言うんだね。じゃあ、お返しに私も何回も言うね……」


 戦国が俺の耳元で少し息を吸ったのが聞こえる。



 演奏も歓声も、全ての音が鳴りやんだのではないかと感じるほど、俺は戦国の言葉が鮮明に聞こえる。




「誠……大好き……」




 その言葉と共に戦国の唇が耳に触れて、俺はとっさに耳を押さえる。


「戦国、それはさすがにだめだろ⁉ というか目測を誤りましたって顔してるな⁉ なら二度と耳打ちするなよ⁉ 心臓が止まると思った……」


「な、なんのことかな? もしかして耳へのキスくらいでど、ど、動揺しちゃった? ま、誠もまだまだ子どもですなー」


「明らかに戦国の方が動揺してるだろ。今度こそ、お前のその真っ赤な顔の写真を撮ってやる」


「いやー、やめてよー!」


 そしてそのまま俺と戦国の四季祭の一日目が終わった。





「紅葉先輩! なんであなたがいるんです! 紅葉先輩のことを知ってる校長や他の教師がゲラゲラ笑ってたからいいものの、一応あなたは学外者なんですよ!」


「輝彦くーん、怒らないでー! ねえ、涼香ちゃん、助けてよー。政宗がいきなりベースを弾けって言ってきたんだもーん!」


 生徒は解散して帰宅となり、いきなり使った屋外ステージの片付けを生徒会がしていると、遅れてきた朝市先生がやってきて、一緒に片づけを手伝ってくれていた美人というか、可愛いらしい女性を怒る。聞くところによるとこの女性が秋城の姉の紅葉さんで、秋城に頼まれて即席バンドに参加していたらしい。


「それに生徒の間で噂になってましたよ! あのアイドルみたいな人は誰かって! 自分のスペックを確認したうえで人前に出てください! 僕たちが学生の頃にやったバンドで十分どんな反応を受けるか分かってたでしょ⁉」


「えーん、涼香ちゃーん、輝彦君がいじめてくるよー」


「輝彦、紅葉先輩は私たちのミスをカバーするために協力してくれたんだからそのくらいで十分よ。けど明日からも四季祭に来るなら気を付けてください。男子に追っかけられると思います」


 秋城は秋城家の中でも特別だと夏合宿の時に聞いたが、本当にこの人が秋城の姉なのか本当に疑わしくなるほどのキャラをしている。


「ふー、これであらかた片付いたわね。みんな、遅くなっちゃったけど帰りましょうか。それと、今日はありがとう。あなたたちの機転のおかげで一日目を無事に終われたわ」


 小夜先生の言葉の後、簡単に明日の打ち合わせをして、帰宅となった。


 明日は四季祭二日目。冬と春だ。

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