第20話 落ちる星空、霧を晴らす風~四季祭・秋~②

 スマホを見ると秋城からメッセージが来ていた。


「戦国、トラブルがあったみたいだ。俺は行かなきゃならない。待っててくれるか?」


「……うん、待ってるよ。早く行かなきゃ」


「ありがとう。必ず戻ってくる」


 俺は秋城から送られてきた集合場所まで生徒をかき分けて進む。まずいな。このまま照明がないと、パニックになるし、もう既に何か異変に気付いた生徒がざわめきだしている。


 なんとか唯一灯りが点いている屋外ステージ近くまで行くと、生徒会のメンバーが既に揃っていた。


「みんな揃ったね。状況を整理すると、装置を起動させる時に負荷がかかってブレーカーが落ちたらしい。ステージの照明が無事なのはあそこだけ引いている電源の場所が違うからだ。そこで先生方がすぐにブレーカーを上げてくださったんだが、照明は点かなかった。どうやらブレーカーが落ちた時の生徒の動きで、どこかのケーブルが外れたらしい。だから先生方と協力して今からその場所を探す。そしてこのまま放送だけで生徒の動きをとどめておくのは無理だ。だから電源が無事なステージを使い、生徒の注目を集めて、その間になんとか復旧させる」


「どうやって注目を集める? ステージの上で話すだけとかだったら余計上手くいかないぞ」


「……考えがある。空、咲良、それぞれギターとキーボードを弾けるね。僕がドラムをするから、僕たちがステージに上がって演奏をする。生徒会のバンドで僕も出るなら十分生徒の注目を集められるはずだ。それにこの方法なら演出とも結びつけられる」


「私はいいけど、ベースもボーカルもどうするの?」


「ベースは心当たりがあるから大丈夫だ。ボーカルは咲良で行こう。僕はドラムだし、空の歌は酷いからね」


「政宗、終わったら殴るから覚悟しておきなさい」


 星宮の言葉に秋城は肩をすくめるが、そのまま話し続ける。


「大地には軽音部の友達がいたね。連絡してステージの準備を手伝ってもらえるようにしてくれ。奏と真実と誠は先生方と協力してどこのケーブルが外れているか確認してくれ。朝市先生から見て欲しい場所の目安は聞いておいた。それじゃあ、みんな頼んだよ」


 秋城からその場所を聞き、全員がそれぞれのやるべきことにかかる。



 まずいな。照明がなく辺りも暗いうえに、何より人が多すぎる。演出のために普段点いている照明を切ったのがあだになっている。コードは校舎に沿わせて配線されているはずだが、どこまでも生徒がいて延長のための区切り部分を確認どころか見つけるのも難しい。このままでは秋城たちの準備が終わる前に崩壊してしまう。


 考えろ。秋城たちの準備はあとどれくらいで終わる? 解散してから五分は経っている。ステージには音響設備が片付けられずに残っていた。大掛かりな準備は必要ないはずだ。それならあと少しで準備は終わる。


 今は何が足りない? 光だ。辺りが暗いせいでそもそものこの問題の解決に戸惑っている。全てを繋ぐんだ。トラブルなんて元々なかったように。


「冬風先輩、大丈夫ですか」


 声の方向を向くと、龍井と虎岡がいた。


「丁度良かった。今トラブルがあって先生と生徒会で解決しようとしているところなんだが、このままだと自体が進展しないのに加えて、ちょっとしたパニックになる。だから一つ頼まれてくれないか。スマホのライトを点けて振って欲しい。そしてそれを周りの生徒に伝えて広げてくれ。そして一分後に三十秒のカウントダウンをして欲しい。その後はなんとかなるはずだ」


「分かりました! 任せてください!」


 二人は快諾してくれ、周りの生徒がスマホのライトを点け始める。これで配線が分かりやすくなるはずだ。人のいる場所も光のおかげで確認でき、進みやすくもなった。秋城、勝手に設定したが一分後がタイムリミットだ。お前なら間に合わせるだろ。


 俺は人をかき分けながら配線をたどり続けた。





「よし、ほとんど準備は終わったね。軽音部の皆さん、本当にありがとうございます」


 秋城は軽音部の備品のギターを肩にかけながら、感謝の言葉を伝える。


「いえいえ! 楽しみにしてます!」


「紅葉お姉ちゃん、いきなりで大丈夫ですか?」


「うん! というかみんなもいきなりでしょ? 緊張すると思うけど頑張ろうね!」


 紅葉姉さんがいて助かった。軽音部の人にベースをやってもらうこともできたが、空と咲良も面識がある紅葉姉さんの方がいくらかやりやすいだろう。


「咲良、いきなりの大役だけど頼んだよ」


「本当に私で大丈夫ですか? 紅葉お姉ちゃんがいるならお願いしたほうが……」


「紅葉姉さんも歌は壊滅的なんだよ。困ったことにね」


「もう! 政宗、そんなこと言われたら傷付いちゃうー」


「ステージの準備も終わりました! これでいけます!」


 ステージから軽音部の一年生と共に大地が降りてきて声をかけてくれる。


 よし、行こう。そう思った瞬間にどこからかカウントダウンの声が聞こえだした。それに多くの生徒がスマートフォンのライトを点けて本物のライブ会場のようになっている。こんなことをするのは誠だね。もしカウントダウンに僕たちが間に合わなかったらどうするつもりだったんだい? そんな疑問、抱くだけ無駄か。


「よし、図らずも僕たちの舞台はこれ以上ないほどに整ったようだね。行くよ」





 カウントダウンが終わる。秋城、少しの間、頼んだぞ。


 ドラムの音と共に生徒たちが大きな歓声を上げ、演奏が始まり、春雨の透き通る声が学校に響く。あいつ、こんなに歌が上手くて、堂々と人前で歌えたんだな。生徒会に入って半年近くが経つが初めての発見だ。それに星宮は歌が下手ならしい。これも初めての発見だ。今度カラオケにでも誘ってみよう。


「春夏秋冬 巡る季節 高揚する想いを君に……」


 高揚する想いか。紅葉と上手くかかっている。春雨のその歌は誰のためか。秋城はその背中を見て何を想うのか。二人にとっての特別が今まさに聞こえる音にのっている。


 後はここだけだ。生徒がステージの方へ少し移動してできたスペースに丁度、外れた延長コードがあった。


「まこちゃん!」


「冬風君!」


 夏野と霜雪も同じタイミングで合流した。どうやら外れたコードはここだけではなかったようだが、他の場所は全てチェックが終わったらしい。俺はコードを繋げて、ブレーカー付近にいるはずの朝市先生に連絡する。


「朝市先生、もう大丈夫なはずです。演出を始めてください」


「よくやった! 秋城たちのライブの途中だが、そのままやってやった方が良さそうだな!」




 

 後ろから咲良の背中を見て感じる。君はいつの間にこんなに凛として美しくなっていたんだい? 今まで自分が振り返らなかったばかりに、どれほどのものを見逃していたんだろう?


 曲が終盤に差し掛かったところで辺りに霧が立ち込め始める。正確にはライブなどの会場に炊かれているスモークだ。


 誠、奏、真実、間に合わせてくれたんだね。生徒が異変に気付くなかで、校舎の壁に設置している壁の照明も点灯した。


 地面には生徒のライト、上には照明、そしてスモーク。まるで星空がそっくりそのまま下に落ちてきたみたいだ。


 生徒はその幻想的な風景を写真に撮ったりする。そのフラッシュの光さえも輝く星に見える。


 本来の予定とは少し違うものになったが、これもいいだろう。いや、むしろこちらの方がいい。生徒全員で作り上げる演出。四季祭にぴったりだ。


 一曲歌い終わり、咲良が一言言った後、ステージから降りようとしたが、どこからともなくアンコールがかかる。演出のトラブルを解決するまでの繋ぎのつもりだったが、どうやら僕たちの突発ライブも演出と思われているらしい。それならその期待に応えるだけだ。


 こちらを見てきた咲良に合図を送る。あれだけ準備を頑張ったんだ。少しくらい僕たちが主役になったっていいだろう?

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