第19話 崩れる秋の城と降り続ける春の雨~四季祭準備~⑦
「お、誠! シフト決まったからあとでメッセージで送っとくよ」
「ああ、ありがとう」
午後、クラスの見回りをしていると三上に呼び止められた。
「かなり準備が進んだな。ちゃんと時間以内に終わりそうだ」
「だな、会場も衣装も、音源もばっちりだ。相当なお化け屋敷になるぜ。あ、そういう言えば仕切り板と暗幕をもう一つずつもらいたいんだけど、まだ余ってる?」
「ああ、霜雪が倉庫にいるはずだから直接取りに行ってくれ」
「そうか! ありがとな」
三上は順調に準備が進んでとても教室には見えない教室に入っていった。
星宮たちの方も何も問題はないらしく、ステージの設営も業者や文化委員の奴らが手伝ってくれているので大丈夫だろう。
結果として、準備に手間取ったクラスも何とか普段の部活の下校時間までに準備を終わらせ、生徒会のメンバーは生徒会室で四季祭当日の確認をすることになった。
「……以上がこれから三日間の僕たちの仕事だ。メインの演出で使う大規模な機械は業者さんが動かしてくれるし、照明などは朝市先生と小夜先生や他の先生方に調整して頂く。だから何かトラブルがない限りは僕たちも純粋に四季祭を楽しむことができるよ。奏からは何かあるかい?」
「うん。たくさん人が来る関係上、ごみとかもたくさん出るから、模擬店の周りのごみ箱の状況もよく見ていて欲しいの。後は迷子になっちゃう子とか、目的の場所が分からない人もいると思うから、だいたいの催し物の位置は覚えておいてくれたら助かります。あとはみんな、ありがとね! 無事に準備が終わって嬉しい! 明日からも頑張ろう!」
夏野が挨拶をして生徒会は解散となった。
「じゃあみんなは先に帰ってて。私は一応学校を見回ってから帰るね」
「じゃあ、俺も付き合うよ」
秋城たち他のメンバーは帰宅し、俺と夏野は校内を一通り見て歩いた。
「うわー、夜の学校ってだけでも不思議なのに、どこのクラスも廊下も飾り付けがしてあって、なんか落ち着かないー」
「そうだな。毎日来てるはずなのにな。まあ明日からはもっと違って見えるだろうな。……こんなもんか。じゃあ、俺たちもそろそろ帰ろう」
「うん! 一緒に来てくれてありがとう!」
校門にも学外者用の案内所や食券売り場のテントが建てられている。そして俺と夏野が丁度校門から出ようとした時、急に強い風が吹いた。
「ひゃー、すごい風!」
「だな……って待て! 何か飛んでるぞ!」
「え⁉」
飛んできた紙の一枚をキャッチしてみると、四季祭の案内用のチラシだった。それが何百枚もさっきの風のせいで辺りに散らばっている。
「くそ、誰かがテントの机にチラシを置きっぱなしのまま帰ったんだな。……拾うしかないよな。かなり時間はかかるだろうが、先生も前日ってことで他の仕事で手一杯だろうし」
「……だね、やっぱりお家に帰れないー!」
夏野は笑うが、やはりその顔は疲れている。
「夏野、今日はうちに泊まるといい。せっかく泊まるための荷物を持ってるならそっちの方が気が楽だろ。明日も朝が早いし、これを拾い切るまでどれくらい時間がかかるか分からないからな」
「……まこちゃん、本当にいいの?」
「ああ、夏野がそれでいいなら親に事情を話して連絡しとけ。俺も美玖に連絡しとく」
夏野が家に電話をして親の許可をもらったのを確認して、俺も美玖に連絡を入れて、チラシの回収作業に移った。
「まこちゃん、ごめんね。あたしと一緒に残ったせいでこんなことになっちゃって」
「夏野が謝ることじゃない。むしろこれを見つけられてよかった。時間が経ったらもっと散らばったかもしれないからな」
その後、夏野と一時間ほどチラシを拾い続けて、ぼろぼろになったチラシと、そのまま使えるチラシを分けた。
「駄目になった分は明日の朝に印刷しよう。よし、ちゃんとチラシを箱に入れたからもう大丈夫だな。……今度こそ帰ろう」
ずっとしゃがんでいたので体が少し痛むが、なんとか夏野と一緒に俺の家まで帰った。
「奏さん! まこ兄、お帰りなさい! お風呂湧いてるから先に入ってきて! 疲れてるでしょ?」
玄関まで美玖が走ってきて迎えてくれる。
「美玖ちゃん、突然泊まりに来てごめんね」
「ううん! 美玖はいつでもウェルカムだよ!」
俺も夏野も先に風呂を済ませて、美玖が作ってくれた夕食を三人で食べた。普段からするとかなり遅めの夕食になってしまったな。明日からが本番なので今日は早く寝ようと思いながら、俺は皿洗いを終わらせた。
「美玖、夏野、俺は自分の部屋にいるから何かあったら呼んでくれ」
俺は自室に入って、ベッドに寝転んで三上から送られてきたクラスのシフトを確認する。どうやら俺に生徒会の仕事もあることを考慮してくれた上で作ってくれてるのが分かった。この気遣いは誰のものか分からなかったが、そいつに感謝をしつつ、俺は急に重たくなってきた瞼を閉じた。
「ねえ、まこ兄、ちょっと来て」
美玖の声に目を覚ますと一時間ほど寝てしまっていたらしい。
「どうした?」
「奏さんがリビングで寝ちゃったから美玖の部屋まで運んであげて欲しいの」
「……起こせば良くないか?」
「だめだよ。もうぐっすり寝ちゃってるし、奏さん、四季祭のことでかなり疲れてるんでしょ? このまま寝かせてあげようよ」
「分かったよ」
俺が美玖と一緒に階段を下りてリビングに向かうと、確かに夏野がテーブルに突っ伏して寝ていた。
「さすがにお姫様抱っこは無理だぞ。俺の腰が壊れる。背負うから手伝ってくれ」
「もー、失礼! 次、そんなことを女の子に言ったら一週間口きいてあげないからね」
美玖と協力して力の抜けた夏野を背中に背負う。
「お布団はもう美玖の部屋に敷いてあるから。あ、電話かかってきちゃった。まこ兄、あとはよろしくね!」
そう言って美玖は自分のスマホにかかってきていた電話に出る。このまま俺一人で階段を上って美玖の部屋までたどり着けるだろうか。とにかく俺は階段に向かった。
耳元で夏野の吐息が漏れる。それに夏野は短パンを履いていたので、夏野の脚に腕が直接触れてしまっている。このまま夏野が起きたら、俺は変態呼ばわりされるんじゃないか? 修学旅行の時も散々夏野の寝顔は見たが、俺は肩に乗っかっている夏野の顔を今は見れない。なんでドキドキしてるんだ。本当に訴えられるぞ。
何とか美玖の部屋までたどり着き、夏野を下ろそうとすると、力のなかった夏野の手が急に俺を抱きしめてきた。
「……夏野、お前、起きてたな」
「……起きてないよ。夏野奏、ただいま就寝中です。これは寝言だよ……」
夏野が耳元で囁いてきたので振り落とすことも考えたが、俺にはまだ道徳心が残っていたらしい。
「……まこちゃん、四季祭の最終日、一緒に回りたい……。あたし、まこちゃんと色々楽しみたいの……」
「……分かったよ。一緒に回ろう。ほら、下ろすぞ」
「……だめ、もうちょっと……」
夏野がさっきよりも強く腕を巻き付けたかと思うと、その後、すっと力が抜けたように腕が垂れ下がった。
「……こいつ、俺の背中で二度寝したな」
俺は今度こそ、夏野を布団に寝かせて、毛布を掛ける。
胸の鼓動が早くなって落ち着かない。これで今日、あまり寝られなくなったら何か模擬店で奢らせようと思いながら、俺は美玖の部屋から出た。
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