第19話 崩れる秋の城と降り続ける春の雨~四季祭準備~⑥

 四季祭の準備は助っ人のおかげで順調に進んだ。今日は四季祭の前日、一日かけての学校全体の準備だ。


「うー、うー」


「夏野、呻くな。倉庫からそんな声が聞こえたら何事かと思われる」


「夏野さん、もう少しよ。頑張りましょう」


 午前中からどのクラスもそれぞれの催し物のために教室や廊下の飾りつけや準備をしており、俺と夏野、霜雪は備品倉庫で各クラスの対応に追われている。その他のメンバーはメイン演出の準備を業者と行っている。


「備品を出すのは午前中で落ち着くはずだ。それからは生徒会の仕事は各クラスの最終確認とメイン演出の手伝い。ステージ発表設備の設営だから、今よりは楽なはずだ」


「全然楽じゃないー! どうしよう。今日、お家に帰れるかな。一応泊まり込むための荷物は持ってきたんだけど」


「どれだけ残るつもりだったんだよ。泊まり込みなんてさすがにたとえ合宿所が使えたとしても泊まり込みなんてありえないし、させない」


 その後も倉庫に唸り声を響かせながら絶え間なく備品を取りに来る生徒に対応し続けた。


「少しは落ち着いたな。今の間に休憩しよう」


 俺たちは適当に椅子を出して、倉庫の開けた場所に座る。


「四季祭、準備も忙しいけど、本番も大忙しだね」


「まあ、色々楽しむくらいの時間はあるはずだ。見回りしてる時に模擬店で何か買って食べたりもできるしな」


「そうね、クラスでのシフトもあるはずだから、それが分かり次第、四季祭中の仕事を割り振りましょう」


 うちのクラスのお化け屋敷の準備にはあまり関われていないが、男子と女子が協力してなかなかのものを作れているらしい。尾道に話は通してあるので、俺は受付の仕事をまわしてもらえるはずだ。


「そういえばまこちゃん、忙しくて聞けてなかったんだけど、六花ちゃんとのデートって何をしたの?」


「何って、普通に映画を観たり、ご飯を食べたり、買い物したりだ。……それに告白もされたな」


「告白⁉ え、まこちゃんと六花ちゃんって付き合ってるの?」


 夏野が倉庫に響く大声を出す。


「いや、返事はいらないと言われた。それに霜雪と夏野にはこのことを言っていいともな。どういう意図かは知らないが……」


「……冬風君は戦国さんのことを好きなの?」


「それはどういう好きを言うかに依るな。少なくとも俺の戦国に対する好きは、今の段階で恋愛感情というわけではない」


「……そう」


「そっかー、まこちゃんにも遂にモテ期が来たんだねー」


「どこをどうもってモテ期なんだよ。よし、じゃあ昼ご飯までもうひと踏ん張りするか」


 倉庫の入り口に人が来たのが見えたので休憩を切り上げ、何とか昼を迎えることができた。



 教室はどうせ机も何もないので、俺はいつもと変わらずに生徒会室に弁当を食べに行く。

そしてその道中、二年一組の前を通ると丁度、教室から出てきた戦国に呼び止められた。


「一組、大分準備が進んでるな」


 二年一組は脱出ゲームをすることになっている。回転を上げるために教室を何個ものブースに区切ったり、ちゃんとしたストーリーと内容を作りこむなど、なかなかのできだと準備を見回っている時に思っていた。


「うん! 誠も遊びに来てね! というか、明日一緒に四季祭を回らない?」


「ああ、どうせ生徒会の仕事とクラスのシフト以外は暇だからいいぞ。いつに空いてるかはまだ分からないが、またその時に連絡する」


「うん、待ってるね!」



 戦国と別れて生徒会室に行くと、生徒会室には秋城と霜雪がいた。


「秋城、お前……」


「そんな怖い顔しないでくれよ。ちょっと書類を取りに来ていただけさ。じゃあ、僕は行くね」


 そう言って秋城は笑いながら生徒会室から出ていった。


「なんで今日はここで弁当を食べてるんだ?」


 俺はいつも仕事に使っている机に座りながら、ソファで弁当を食べている霜雪に尋ねる。


「教室はすでにカフェ用のテーブルが運び込まれているから、机がなかったの。星宮さんもどこか別の所で食べているようだし。……なぜそっちでご飯を食べるのかしら? もしかして邪魔だった?」


 確かに、なんで俺はたとえ他の奴がいてもこれまでソファで弁当を食べていたのに、今日はこっちの机で食べ始めたんだ?


「いや、そんなことはない。そっちに行く」


 俺は、霜雪が自分の隣を座りなおしてあけてくれたので、そこに座る。いや、対面にソファがあるのに、なぜ霜雪は自分の隣をあけた? なぜ俺は隣に座った? 自分の行動も霜雪の行動もよく分からない。自分たちが思っている以上に疲れているのかもしれない。


 このままもう一度立ち上がるのは不自然なので、俺は霜雪と隣同士で弁当を食べる。


「冬風君、夏野さんを助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら夏野さんの頭が本当に爆発していたわ」


「お前もずっと一緒に仕事してただろ。爆発を防げて良かったよ」


「いいえ、あなたがいたから夏野さんは文化委員長としてあんなに頑張っていたし、やり遂げたのよ。冬風君と夏野さんの関係が特別なことは私が見ても分かる。戦国さんとあなたの関係も違う意味で特別ね」


「急にどうした? 夏野とは最近友達になった。戦国とはいつも間にか友達になっていた。確かにその関係は俺にとっては特別だ。だがな、俺と霜雪も友達になったはずだ。言葉だけかもしれないが、俺にとってはお前も特別だ」


「いえ、私は……」


 霜雪が何かを言いたそうにするが、結局最後まで言葉を出さなかった。


「最近、お前は悩んでばかりだな」


「……だって初めてのことばかりで何も分からないのっ……」


 霜雪は俺のブレザーを掴むが、ハッとしたようにすぐに離す。


「ご、ごめんなさい」


「何も気にしなくてもいい。……霜雪、四季祭の二日目、お互いに仕事がない時、四季祭を一緒に回らないか。お互いに去年はつまらないものだったしな」


「……ええ。……覚えてたのね。去年二人でずっと受付をしていたこと」


「ああ、振り返ってみるとそうだったなって思い出したよ。隣にいるっていう状況はその時と一緒なのに、俺たちも変わったもんだな」



「変わったわけではないわ。気付いたの……」



 その後は俺と霜雪は午後について予定を確認しながら昼食を終えた。

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