第19話 崩れる秋の城と降り続ける春の雨~四季祭準備~③

「うー、今日という日がやっと終わった……」


「これ、俺たちだけじゃ絶対間に合わない……」


 放課後、生徒会が終わった後、夏野と月見がげっそりとして生徒会室を出ていく。


「みんなお疲れ、戸締りは僕がしておくから先に帰ってくれ」


「……じゃあまた明日」


「さようなら」


 星宮と霜雪も最初に出ていった二人ほどではないが、疲れが顔に出ている。


 昼間の今なので春雨がこちらを見てくるが、俺は春雨にうなづき、先に帰らせる。これで生徒会室は俺と秋城の二人だけだ。


「誠、早く帰った方がいい。明日も明後日も忙しいよ」


 秋城は微笑みながら俺にそう言ってくるが、自分は書類も何も片付けをしていない。


「秋城、お前は嘘つきで正直者だ」


 解決策は思い浮かばなかった。そもそもどうやっても俺にはこの問題は解決できないだろう。これは春雨と秋城、二人にしか踏み入れられない。


「変なことを言うね。どうしたんだい?」


 秋城が再び笑う。


「俺はお前の正体が少しだけ分かったんだ」


「だから急に何だい? 何か言いたいことでもあるのかい?」


「……お前の全てが嘘だ。そしてお前の全てが真実だ。なぜならお前は嘘を真実にするからな。お前はできると言ったことは全て成し遂げる。春雨から聞いた。昔のお前は勉強も運動も得意じゃなかったとな。そして陰で努力を重ね、今のお前になった。たとえ怪我をしようが、体調を崩そうが、お前は自分を覆う嘘の全てを実現させる。そしてその嘘は、真実は誰のためか。それは春雨のためだ」


「咲良のため? 完璧を追い求めるのに何か理由がいるかい? 僕は僕のなりたい自分になるために変わった。それは誰のためでもない。何のためでもない。それに物事を努力して成し遂げるのは何も悪いことじゃないだろう?」


「確かにな。春雨のためって言うのも、俺が言うには説得力がなさすぎる。お前と春雨の関係は俺には踏み込めない。だが俺は生徒会で、お前はその生徒会長だ。だからお前の無茶をやめさせなければならない。お前、四季祭の準備が始まってから、休日にも一人でここに来ているだろう?」


「そんなことはないよ。僕だって休日くらいは休むよ」


「いや、嘘をついても無駄だ。もう昼に職員室でこれまでの休日の教室使用届を確認してきた。そして四季祭の準備が始まってからの全ての土日にお前の名前が書かれていた」


「……そうか」


「それに平日に俺たちを帰らせた後、お前は一人で生徒会室に残って作業している。今みたいにな。どう考えても、いくらお前だとしても一人がやれるような仕事量じゃないからおかしいと思っていた。学校に来ないとできない作業もあるのに、いつこの仕事をしたのか不明な仕事もたくさんあった。なぜ俺たちを頼ってくれない? なぜ自分一人でこなそうとする?」


「今年、四季祭の準備がこんなに忙しいのは、僕が無理を言って最終日の花火以外に特別な演出を作ってもらっているからだ。その言い出しっぺが最大限の努力をしないなんて、学校にも、君たちにも筋が通らない」


「お前がやっているのは努力じゃない。無理だ。必ずそのツケが回ってくる」


「だけどそれで成立している!」


 秋城が声を荒げる。まさか秋城からこんな声を聞くことになるとはな。だがこれが秋城が初めて俺に見せた真実かもしれない。


「それでいいと思っているのはお前だけだ! 星宮も夏野も霜雪も月見もこんなことは納得しない! お前の生徒会だぞ。いざって言う時に、お前が頼ってくれなくてどうする! そして何より、春雨だ。お前のことを誰よりも心配している。お前の力になれずに誰よりも悔しがっている!」


「君に咲良の何が……」


「何も分からねえよ! だからお前が分かってやれよ! 俺にはどうやってお前を説得できるか、どうやってこの問題を解決できるか結局分からなかった。お前の過去に何があって、どうしてそんなに自分を偽るのかも俺は分からない。生徒会初日、お前は俺が必要だと言ったな。違う。お前に必要なのは春雨だ。春雨もお前を必要としている。だからお前は勝手に自分を傷付けるな! ……もうお前だけに無理をさせない。遅くなって悪かった」



「……とてもじゃないが分担してできるとは思わない」


「お前にその言葉をそっくり返してやる。ほら、帰りの支度をして、生徒会室から出ろ。俺はお前が帰るまで帰らない」


「……分かったよ」



 秋城の帰り支度を待って、一緒に生徒会室から出る。


「……誠、さっきは声を荒げてすまなかった」


 帰り道、秋城からは考えられないほどの小さな声が聞こえた。


「お互い様だ」


「それと……ありがとう」


 この問題は解決していない。いや春雨と秋城の問題はともかく、秋城と四季祭についても問題は既に手遅れだった。


 俺はそのことに次の日まで気付くことができなかった。

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