第18話 そよ風の囁きと紅に染まる二人~一つ目の選択肢・誠~②
「お、お待たせ。結構待たせちゃった?」
「いや、さっき来たところだ」
日曜日、俺は戦国から連絡があった通りの時刻にいつものショッピングセンターに来ていた。
「で、どうする? 最近、迷惑をかけてばっかりだったから今日はとことん戦国に付き合う」
「あ、ありがとう。じゃあ、取り敢えず映画館でも行ってみる?」
「そうだな。行こう」
俺と戦国は上の階にある映画館に行くために近くのエスカレーターに乗る。
「突然、生徒会室に押しかけたりしてごめんね」
「いや、驚きはしたが、部活帰りの奴を追っかけまわして無理やり家に連れて行く奴がいるような生徒会だから気にしなくていい」
秋城にニヤニヤされるのはもう慣れっこで何も気にならなくなった。
映画館に到着して、今上映しているラインナップを戦国と確認する。
「誠、何か観たい映画ある?」
「そうだな……戦国が観たい映画でいいが、これはどうだ?」
俺はラブコメ映画を指さす。
「え⁉ 誠ってこういう映画観るの?」
「ん? 戦国こそこういう映画が好きなんじゃないのか? 夏休みに俺とここで会った時、恋愛映画のチケットを握りしめてたろ」
「よ、よく見てるし、よく覚えてるね。……うん、好きだし、ちょっと気になってる映画だった……。けど誠がつまらなかったら意味ないよ?」
「これな、この前美玖から借りて読んだ漫画の実写化なんだよ。だから俺もちょっと観てみたい。これでいいか?」
「う、うん。じゃあそうしよ」
観る映画が決定し、二人分のチケットを買って、シアターに入る。
「誠って美玖ちゃんから漫画を借りて読んだりするんだね。ちょっと意外」
「まあ、美玖が無理やり読ませてくるんだけどな。けど最近は漫画でもちょっとは勉強になるんじゃないかと思って、少しずつ美玖のおすすめのを読んでる。俺は人間関係も恋愛も全く分からないから」
「全く分からないってことはないと思うよ。だって……。あ、もう始まるね!」
場内が暗くなり、予告やお決まりの注意事項の映像の後、甘々な本編が始まった。
「いやー、すっごく面白かったね!」
「ああ、原作を読んでても納得の出来だった。それと、残念だったな」
「え? 何が?」
「俺の家に来た時、戦国は物語のヒロインはみんな背が低くて、私はヒロインになんてなれないとか言ってたが、この作品のヒロインは戦国と同じくらいの身長だった。よってその思い込みは戦国の間違いだ。残念だったな、お前はヒロインになれる」
「……誠。もう馬鹿っ!」
戦国は俺を叩いて「ご飯食べよ!」とフードコートに向かって歩き出した。確かに別に残念なことではなかったな。後で戦国に謝ろうと思い、俺は遅れないように戦国の後ろを歩いた。
「この後はどうする?」
「んー、申し訳ないけど、私も誠を誘うことだけに集中し過ぎて何も決めてなかったの。色々お店を見て回りたいけど、誠ってそういうの大丈夫な人?」
「連れまわされるのは美玖のおかげで慣れてるから大丈夫だ。さっきも言ったが、今日はとことん戦国に付き合うよ」
「ありがとう! 新しいお洋服をちょっと見てみたかったんだ!」
お互い食事を終えて、ショッピングセンターの散策が始まる。雑貨屋、本屋などを適当に見て回り、洋服店が立ち並んでいる区画に入った。
「誠、ここ、入ってもいい?」
「ああ」
夏に来た時は店先で霜雪と美玖を待っているだけだったが、今日はそういうわけにもいかない。俺は覚悟を決めて、女性向けの服屋に入った。
戦国は色々と手に取って、俺に似合うかどうか聞いてくる。相変わらずファッションについてはよく分からないが、スタイルの良い戦国はどんな服を着ても似合うと感じた。事実、戦国は店員さんに「モデルさんですか?」と聞かれ、照れながら否定している。
「ねえ、誠はどっちが好き? 店員さんにおすすめされた奴と自分で選んだ奴なんだけど……」
戦国は二つのパンツを持って俺に聞いてくる。
「この二つの中だったら、こっちの方がいいと俺は思う」
「そう! じゃあ、こっちにするね!」
「待て、戦国が本当に気になっているのは別にあるんじゃないか? さっきこのスカートをことずっと見てたろ?」
「え⁉ 見てたの? いや、そのスカートすっごく可愛いけど私には似合わないかなーって……」
「そういえば、スカートは自分に似合わないとも言ってたな。けどそれも間違いなのかもしれないだろ。ほら、鏡で見てみろ」
戦国はしぶしぶ、スカートを鏡の前で腰に当てる。
「それが一番似合ってる。戦国の私服は修学旅行の時も合わせて、パンツのコーディネートしか見たことがないが、十分いけてる。まあ、俺のセンスだけじゃ不安だろうからちょっと待ってろ」
俺はさっきまで戦国を応対していた店員さんに来てもらって、戦国を見てもらい、お墨付きを得た。
「で、どうする?」
「こ、これにします……」
戦国は赤い顔をしたまま店員さんとレジに向かった。
「中学に上がって以来初めて私服でスカート買ったかも」
「そうか。それ、気に入ることを祈ってる」
「……もう一番のお気に入りだよ……」
「ん? なんか言ったか?」
俺は横で何かつぶやいた戦国に聞き返す。
「ううん! ねえ、色々歩いて疲れたから何か甘いもの食べたい!」
「じゃあ、どっかのカフェに入るか」
その後、カフェで四季祭のことについて話したり、あれからの陸上部について聞いて話していると、あっという間に日が落ちる時間になった。
「そろそろ帰るか」
「だね」
ショッピングセンターを出て駅に向かって歩き始める。
「ねえ、ちょっとだけそこで話そ?」
公園を通ったところで戦国が提案してきたので、二人でブランコに座る。丁度赤く染まる夕日が見え、地面には影が長く伸びる。
「……誠、私はね、誠のことが好き」
戦国の言葉に胸の鼓動が早くなる。夏合宿の時、霜雪にも同じことを言われた。戦国のその気持ちは何だ?
「……どういう好きだか教えてもらっていいか」
「うん、誠って他の人のことには敏感なのに、自分のことになると途端に鈍感になっちゃうからはっきり言うよ。私は誠と付き合いたい。彼女と彼氏になって、もっと色んなことを話したり、もっと一緒に楽しいことをしたい。誠に可愛いって言ってもらいたい。誠と恋がしたい。今全部話せないほど一杯やりたいことがあるの。こんな気持ち初めてなの」
「……そうか。だが……」
「だめ……。その先はまだ言わせないよ。誠が私のことをそういう目で見てないことは分かってる。けどね、私、誠のことを追いかけるって決めたの。それでいつの日か追いついて、誠を振り向かせてみせる。ううん、誠を追い越して、誠に私のことを追いかけてもらう。その後に私が笑顔で振り向いてみせる。だって私、足の速さは誠にだって負けてない! 今は私より前にいるからって、油断しちゃだめだよ!」
ブランコから立ち上がった戦国と夕日が重なる。その姿がまぶしいのは決して真紅に染まっている太陽だけのせいではないだろう。
「……そうか」
「……私はもう止まらないよ。他の誰にも負けない……」
戦国が急にかがんで俺の耳元で囁く。
「っ⁉」
「おやおや? こんなことで赤くなっちゃうとは、案外すぐに追いついちゃうかも?」
「……お前に鏡で自分の顔を見てもらいたいよ。……じゃあ帰るか」
「うん、今日はありがとね!」
帰りの電車に揺られながら、窓に映る自分の顔を見る。
夕日に焼かれたようなこの顔の火照りをどうやって家に着くまでに冷まそうか。考えれば考えるほど、俺にはその答えが分からなかった。
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