第18話 一つ目の選択肢・誠
第18話 そよ風の囁きと紅に染まる二人~一つ目の選択肢・誠~①
「今年も一年、二年が出し物や催し物、三年が外での模擬店だ。二年も飲料や自分たちでの加工のない食事の提供は可能。外でのステージ発表、体育館でのステージ発表の希望者は俺か小夜先生、生徒会に申し込みな。じゃあ後は文化委員を中心に自分たちで決めてくれ。俺はできるだけ口を挟まないようにするよ。じゃあ、尾道と松本、頼んだ」
金曜日の午後のロングホームルームの時間、朝市先生がそう言って教室の後ろに向かう。そして入れ替わりに文化委員の尾道と松本が前に立って、資料を見ながら進行を始める。
「じゃあ、取り敢えずみんな何をやりたいか候補を出してもらえますか」
「僕は黒板にみんなが出してくれた案を書いていくね!」
一年の時は何をしただろう。そうだ、迷路だ。四季高校は予算が豊富なおかげで高校の文化祭にしてはかなりしっかりとしたものを作っていたな。段ボールなどを使いつつも最後には壊すのがもったいと思うくらいにはよくできたものだった。
そこで受付をずっとしていた。受け付けは二人一組だったはずだが、もう一人は誰だ? そうか、俺と同じように霜雪もずっと受付にいた。その頃は知り合いでもなんでもなく、お互いに相手に話しかけるような奴じゃないから全く会話なんてしなかった。霜雪もその時のことを覚えているだろうか。当時は何も思わなかったが、今思ってみるとこれも一つの思い出のような気がした。
「よし! じゃあ三組は取り敢えずお化け屋敷が第一候補ということで。他のクラスと被ってなかったらこれで決定だから、みんな土日の間にどんな風にお化け屋敷を作るか簡単でいいから考えて欲しい。だめだったらまた月曜日に多数決して決めよう!」
「じゃあ今日のこんな感じで終わりかな。放課後の文化委員会でまた色々聞いてくるね!」
尾道と松本が最後にまとめてロングホームルームの時間が終わった。
放課後は夏野と俺、霜雪が生徒会の代表として文化委員会に出席して、各クラスの調整をする。
「うー、資料多すぎだよ。あたし、もうわけわかんないー」
放課後、委員会が始まる前に昨日準備した資料を取りに一度生徒会室に立ち寄る。
「夏野、まだ始まってもないぞ。各クラスの催し物が決まったら、去年までの類似例の資料をコピーして文化委員に渡さないといけないし、暗幕や仕切り板とかの備品のチェックもまだだ。今で一杯いっぱいになってると本当に頭が爆発するぞ」
「夏野さん、私と冬風君も精一杯力になるわ。一緒に頑張りましょう」
「まこちゃんー、真実ちゃんー、二人が一緒にいてくれて良かったよー!」
みっともない顔ですがりついてきた夏野を突き放して、資料を持って委員会が開かれる教室に入った。
既に各クラスの文化委員は揃っているようだ。
「お待たせしました。生徒会、文化委員長の夏野奏です。至らぬ点もあると思いますが、精一杯頑張りますので、これからよろしくお願いします。では早速、一回目の文化委員会を始めたいと思います。今日は各クラス、本日のロングホームルームで決めて頂いた催し物を共有してもらい、他のクラスと被りがないかを確認していきます。では一年一組からお願いできますか?」
こいつ、さっきまで俺と霜雪の前ではポンコツだったくせに急にできる女みたいな顔をしてやがる。今度から録画でもしてやろうかと思いながら、委員会の進行を見守った。
運よく、クラス同士での内容に被りはなく、その日の委員会は、各クラスの文化委員にその場で過去に同じ催し物をしたクラスの資料を渡すだけで終わった。
生徒会室に三人で戻りながら話す。
「霜雪と星宮の二組はカフェなんだな。どんなコンセプトでやるかとかは決まってるのか? ただ飲み物やお菓子を出すだけだったらあんまり人は来ないと思うが」
「いいえ、まだ決まってないわ。けどカフェなら色々なテーマを持たせられるからそこは大丈夫なのではないかしら」
「真実ちゃんもコスプレとかするのかなー。真実ちゃん、美人で可愛いから何でも似合いそう!」
そうこう話しながら生徒会室に入ると、星宮と月見、春雨が唸り声をあげて真っ白な紙を睨み、秋城は自分の机に書類を山積みにして作業していた。
「どうしたんだ? その紙に何か恨みでもあるのか?」
「いやー、それがね、最終日は花火があるからいいとして、一日目と二日目をどうするか迷っていたのよ。さすがに花火ほどのものをこれから用意できないしね。それに何もテーマもなしに派手にするのも何か違う気がするし……。ねえ、何かアイデアはないかしら?」
「アイデアか。テーマが欲しいなら四季祭って名前にちなんで、一日ごとそれぞれの季節をテーマにするとかか? 照明や飾りつけなら工夫すれば何とかなりそうだしな。それに最終日が花火なら、例えば一日目に秋がテーマのもの。二日目は冬と春がテーマのものを何か探してみるか? かといってこの時期に雪なんて降らないし、桜もないけどな」
「季節をテーマって言うのはいいアイデアね。その方向性で考えてみるわ。ありがとう。さあ、大地、咲良ちゃん、他校の実例やイベントの演出を片っ端から調べるわよ」
「おう!」
「はい!」
三人がまた唸りだしたので、秋城に声をかける。
「秋城。……秋城?」
「ん? ああ、誠、何だい?」
いつもならすぐに返事をするのに、秋城は俺が何度も呼ぶまで気が付いてなかったようだ。
「委員会が早く終わったから、俺と夏野と霜雪で倉庫の備品をチェックしてくるよ。各クラスの内容が分かったから大体の必要な物は分かるだろ」
「ああ、よろしく頼むよ。いってらっしゃい」
「……仕事、無理そうなら俺とか他の奴に回せよ」
「誠、僕を誰だと思っているんだい? これくらいは平気だよ」
秋城は今週から四季祭関連の仕事以外を一人で引き受け、その上、四季祭の準備にも同じように関わっている。
「……じゃあ行ってくる」
俺は夏野と霜雪を連れて備品倉庫に向かった。
倉庫の備品は何がどれくらいあるのかの個数は記録してあったものの、その状態は資料だけでは分からなかったので、ある程度把握しておく必要がある。
各クラスの内容を見ながら三人で手分けして、テーブルや椅子など使えそうなものを確認していく。さすがに私立なだけあって、倉庫も大きく、備品はそれなりに揃っているし、綺麗なものが多い。
「……これは二組に使えるな。照明も色々ある。星宮に後で教えとくか……」
「きゃっ」
メモに夢中になりすぎて、前にいた霜雪に気付かずに軽くぶつかってしまった。
「大丈夫か? すまない。前を見ていなかった」
「こちらこそ。私も注意不足だったわ」
ぶつかった距離のまま霜雪は俺を見上げる。
「……デートって何?」
「デート? ああ、昨日戦国が言っていたことか。俺も何が何だか分からない。そもそもデートって恋人同士が行くものだろ?」
「私に聞かれても分からないわよ。冬風君は戦国さんと付き合っているわけではないの?」
「違うな。そう考えるとデートじゃない。ただの休日のお出かけだ」
「……ずいぶん急に誘われていたけど行くのね」
「まあ、俺も先週無理やり戦国を家に連れ込んだしな。自分が同じようなことをしているのに、いざ自分は断るって言うのはつり合いが取れていない。陸上部の件で戦国には迷惑もかけてるしな」
「そう……」
霜雪が俺の制服のブレザーをそっと指でつまんでくる。霜雪がこれをする時はいつも何か言いたいことがある時だ。
「どうした?」
「……気にしないで。続けましょう」
そう言って霜雪は手を離した。
「まこちゃーん! 真実ちゃーん! ちょっと来てー!」
倉庫のどこからか俺たちを呼ぶ声がしたので、俺と霜雪は響く声の持ち主の元へ向かった。
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