第17話 四つ目の相談

第17話 六つ花は冬の風に吹かれ、舞う~四つ目の相談~①

「『四季祭をもっと面白くして』『四季祭が長すぎてつまらない』『最終日以外にも何かやってください』……最近は四季祭のことばっかりだな。そんなにつまらないのか? 俺は去年色々回るのめんどくさくてクラスのシフトにずっと入ってたから特に何も思わなかったが」


 俺は放課後の生徒会室で目安箱に入れられていた投書をチェックする。どれも文化祭、この学校でいうところの四季祭に対する不満や改善を求める声ばかり書かれている。


「去年までは木、金、土、日の四日間の開催だったからねー。最初の二日は生徒だけ、残りの二日は学外の人も入れての開催だったけど、さすがに四日も同じことをしたら飽きるわよ。目玉と言えるのも最終日の花火だけだしねー。けど今年は祝日を利用しての三日間の開催にしたんでしょ?」


 星宮が俺の質問に答えた後、秋城の方を見る。


「ああ、予算はそのままに開催日だけ減らしてもらったよ。事後アンケートでも毎年不満の声が多かったみたいだしね。それに四季祭がつまらないと言われているのは生徒会も関係してるんだ。今まではこの時期に会長選挙が行われて、まだ右も左も分からないうちに生徒会は文化祭の運営を任される。それで四日間ずっと見どころを作れと言うのは酷な話だ」


「けど、今年は去年までと違うんだろ? 何しろお前が会長だしな」


 秋城がつまらないと言われている四季祭に対して何も考えていないわけがない。


「もちろんさ。みんな、これから忙しくなるよ。三日間の四季祭、一日一日をみんなのかけがえのない思い出にしてみせる。早速だけど本題に入ろう。奏は文化委員長として、各クラスの出し物や模擬店の調整などの全体の運営をしてもらうよ。誠と真実も奏の補佐として、文化委員会などに参加してくれるかい?」


「ああ」


「ええ、分かったわ」


「真実ちゃん、まこちゃん、よろしくね。一緒に頑張ろう!」


 夏野が明るく声を出す。これから体育祭の比にならないほど忙しくなるだろうが、俺は全力で夏野をサポートするだけだ。


「空と大地、咲良はステージ発表のタイムテーブルの作成や取りまとめ、一日目と二日目の最後に最終日の花火と並ぶほどのメイン演出作りを担当してもらうよ」


「ええ、頑張りましょう」


 花火と並ぶほどの演出作りか。予算は去年と同じままと言っていたので、開催日が少なくなった分、金銭的には余裕はあるだろうが花火と同じくらい人を引き付ける演出をどうやってするのだろう。


「秋城は何をするんだ?」


「僕は全部だよ。奏たちも手伝うし、空たちも手伝う。文化祭と関係のない日々の仕事もあるからそれも全て僕がやるよ」


「そ、そんなの無理です!」


「ああ、いくらお前でも無茶だな」


 珍しく春雨が一番に声を出すが秋城はいつも通り笑うだけだ。


「大丈夫、その気になればできないことはない。僕の心配をするより、みんなもこれから手を休める暇がないほど忙しくなるよ。絶対にみんなが楽しめる文化祭にする。どんなことがあってもこれは譲れない。そのためには少しくらいの無茶なんて無茶の内に入らないよ」


 秋城は普段から自分の決めたことは突き通すタイプの人間だが、普段以上に強い意志を感じた。少し心配になるほどの強い意志を。


「来週から本格的に文化祭の準備が始まるだろう。その前に去年までの資料を見て、使えるものはどんどん使っていこう。変えるべき所は変えるが、今までの蓄積は決して無駄じゃない」


 そう言って秋城は棚から去年の文化祭の資料を取り出して机に広げ、俺たちはそれを手分けして確認し始めた。




 五分ほど経った後、生徒会室のドアがノックされる音が聞こえたので、俺がドアを開けると二人組の女子が立っていた。三年生ではないだろうし、同級生としても見覚えがなかったので一年の女子だろう。


「誰かに用事か?」


「ふ、冬風先輩に助けて頂きたいことがあって来ました! 話だけでも聞いてもらえませんか?」


 女子の一人が俺を見てくる。どうやら目安箱委員長としての俺に用事があるらしい。今までの直接の相談者はなんだかんだ俺や生徒会の誰かと関りがある奴だったので、少し新鮮な気持ちになる。


「分かった。生徒会室でも大丈夫か?」


「はい、よろしくお願いします」


 二人にいつも通り生徒会室のソファに座ってもらい、話を聞く。


 二人は陸上部の龍井たついすず虎岡とらおかれいで、どうやら双田夢と同じクラスなことから俺に相談に来たらしい。


「で、相談って何だ?」


 俺の質問に龍井が事情を話し始める。


「この前、私たち女子陸上部の三年生の先輩が引退したんです。それで新しい部長を決めないといけなくなったんですけど、一年生の部員は多いのに二年生の部員は戦国六花先輩と大和やまとらん先輩の二人しかいないんです」


 戦国と大和か。となると対抗戦のリレーの後、俺の目の前で派手にこけた戦国に駆け寄ったのが二年生の大和だったのか。


「それの何が問題なんだ? 誰もいないならまだしも、その二人のどちらかが部長になればいいだけだろ」


「それが、二人ともキャプテンになりたがらなくて全く決まらないんです。それだけならまだしも、お互いがお互いにキャプテンをやってもらおうとしてる間にかなり喧嘩になっちゃって。元々二人はすっごく仲が良かったからとても今の雰囲気に一年生は耐えられないんです。それに二人ともを尊敬してるからどちらか片方の味方とかができなくて」


「顧問の先生はそのことについて何か言ってるか?」


「顧問の先生は納得のできない生徒に無理やり部長をやらせるわけにはいかない。時間をかけてもいいから自分たちが納得できるように話し合いなさいと言って、介入していません」


「確かに、無理強いをしないことは大切だ。ただ二人は話し合ってるのか?」


「いえ、さっきも言った通り、最近は連絡事項以外は部室でもお互いに話さないんです。だから陸上部の中では部長についての話はタブーみたいになっちゃってて。それでどうしようか困ってたら、夢ちゃんが生徒会の冬風先輩なら何か力になってくれるかもって教えてくれたんです。二人のうちのどちらかが納得して部長になって、元通り仲良くしてもらうために協力してもらえませんか?」


 龍井も虎岡もかなり不安そうな顔でこちらを見てくる。部活に二人しかいない先輩が深刻な喧嘩をしているままでは安心して部活に集中できないのだろう。


「ああ、お前たちの相談は分かった。できるだけのことをしてみることにする。だが陸上部のことも、というかそもそも部活のことは俺は全く分からないから二人も俺の力になってくれると助かる」


「はい! 一年生全員同じ気持ちなので何でも言ってください!」


「戦国先輩と大和先輩が元通り楽しそうに部活に来るためならどんなことでも!」


 二人は少しだけ明るい顔になって、張り切りだす。戦国はいい後輩を持ってる。


 ただ俺が知っている戦国は部活の部長になることを断るような奴ではないし、ましてや同級生とそのことで喧嘩して後輩に心配をかけるような奴でもない。


 俺と戦国はまだお互いのことを何も知らない。そう言った修学旅行の時の戦国の言葉が強く頭に浮かんできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る