第16話 星空の想い、月の想い~デートの見守り~③
「どんな映画を観に行ったかまでは分からなかったわね。せっかくなら私たちも何か観る?」
「そうするか。星宮の観たい奴でいい」
「うーん、じゃあこれが観たい」
星宮は爆発や映像が激しそうなアクション映画を選んだ。
「星宮はこういう映画が好きなのか?」
「あれ? 確かにこれを観たいって今思ったのだけど、特に好きとかは感じたことがないわね。まあ、これにしましょう」
そう言って二人分のチケットを購入した後、ごくごく普通に映画を楽しんだ。
どうやら月見と奈世竹も同じ映画だったらしい。二人ではしゃぎながら出てきたところをまた尾行し始める。
「あら、ずいぶんと可愛い店に入ったわね。奈世竹さんの買い物かしら」
確かに二人は女性向けのお洒落な雑貨屋に入って親しげに話している。そして一時間ほどそこで買い物してやっと外に出てきた。
「かなり長かったな」
「ええ、余程悩む買い物だったのかしら」
その後は月見と奈世竹はショッピングモールの中をぐるぐると回るだけで夕方になり、二人はベンチに座って話し始めた。
「いい感じに話してるわね。誠君、行くわよ」
「ちょ、それはさすがに……」
星宮に手を引っ張られて月見、奈世竹と背中合わせにベンチに座る。かなりの至近距離で二人の会話が聞こえる。
「奈世竹さん、今日は付き合ってくれてありがとね」
「いえいえ、買い物も映画も楽しかったです。月見君はよくアクション映画を観るんですか? 私はストレス発散になるから大好きなんですけど」
「俺も好きだよ。やっぱり爆発とかって派手で観てて面白いし。そういえば小さい頃から空はミステリー映画とか観たいって言ってたのに、毎回無理してアクション映画とか怪獣の映画とかに付き合ってもらったなー。今思うと申し訳ないな」
だから星宮はさっきアクション映画を選んだのか。月見と付き合っているうちにいつの間にか星宮の癖になっていたのだろう。
「ふふっ、月見君って本当に星宮さんのことが好きなんですね。月見君が何かを話すたびに星宮さんが絶対に登場します」
「え⁉ 俺ってそんなに空のこと話してた⁉ ごめんね、奈世竹さんと来てるのに」
「いえいえ、いいんですよ。そもそも今日の目的は星宮さんの誕生日プレゼントを買うためじゃないですか。けどこれまでの星宮さんの誕生日ってどうしてたんですか?」
「……これまでは普通にお菓子とかあげてたんだ。クラスの男子にあげる感じみたいに。けど、高校に入って、生徒会で仕事をするようになってから、俺って今まで意識してなかっただけで空にずっとお世話になってるなーって思って。だから今年の誕生日のプレゼントはちゃんとしたものをあげようって思ったんだ。いつまでも空に子どものままって思われたくないしね。けど今までそんな経験がなかったから、どうしようか困って。生徒会の皆さんに相談するのは何か恥ずかしかったから奈世竹さんに相談しちゃった。迷惑だった?」
「そんなことはないですよ。大切な人への大切なプレゼントを一緒に選ぶことができて光栄でした。ペンケースや髪留め、気に入ってもらえることを祈ってます。幼馴染かー。そんな風に思ってくれる人がいるなんて星宮さんに嫉妬しちゃいそうです」
「そんな言い方されるとなんか恥ずかしくなるな。それに向こうは俺のことなんて小さい弟みたいに思ってるよ。今日は本当にありがとう。助かったよ」
「ふふっ、何かあったらいつでも連絡してください。私、こういうの得意なんですよ。この前も九姫先輩が八王子先輩への誕生日プレゼントを迷ってたから、一緒に…………」
星宮が無言でベンチから立ち上がり、その場から離れる。
「……誠君、今日はありがとね」
「ストーカーなんてするもんじゃないな。途中から聞いてられなかった」
「普段、誠君も奏ちゃんや真実ちゃんと一緒になって見たり聞いてられないことしてるわよ……」
パシッ!
「ふー! なんかすっきりした! 帰りましょうか!」
星宮は両手で自分の顔を叩いて、普段通りの調子になる。
「だな」
「あ、ちょっと待って、あのたい焼き食べたい! ほら、行くわよ!」
「お前、帰ったらすぐ夕食だぞ。今食べて大丈夫か?」
「細かいことはいいの! ほら、彼女が先に行っちゃうわよ」
「いつからお前が俺の彼女になったんだよ」
そう言って笑いながら星宮は走って、たい焼き屋の方へ行く。
今日のことがあったからと言って、特に星宮と月見の何かが変わるということはないだろう。それだけ二人は長い時間を過ごしている。だが二人の関係がただの幼馴染ではないことは今日の、この短い時間が証明した。
美玖にたい焼きを買って帰るか。俺も星宮に置いていかれないように少し早足になった。
後日、星宮が嬉しそうにペンケースを開けたり、今まで体育の時以外はほとんど結んでなかった長い髪を時々束ねるようになったのは別の話だ。
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