第16話 星空の想い、月の想い~デートの見守り~②

「ねえ、まこ兄―。ゲームしよー?」


 金曜日の夜、夕食を食べ終わってリビングでゆったりしていると、美玖が俺の返事を待たずにテレビゲーム機の電源を入れた。最近、美玖はなぜかレーシングゲームにはまっており、よく俺も相手をさせられる。


「まあ、暇だしな」


 どうせ勉強以外はやることなんてないし、明日は学校もないので今日はとことん付き合ってやるかと、美玖が色々と設定している間に、二人分のジュースなどを用意する。


「あれ? まこ兄! 電話かかってきてるよ!」


「ん? 星宮? ごめん、ちょっと電話してくるな」


「はーい、ゆっくりお話ししてきてー」


 俺は星宮からの電話に出ながら二階の自室に入る。


「もしもし?」


「あ、誠君、夜なのにいきなりごめんなさいね」


「気にするな。何かあったのか?」


「……ねえ、誠君。明日って何か予定はあるかしら?」


「いや、何もない」


「誠君、ハワイで私に何か悩みができたら力になってくれるって言ったわよね」


「ああ」


「じゃあ、明日二人でショッピングセンターデートしましょう! いやー、大地の話を聞いてたら私もデートしたくなっちゃったのよ。ということで明日十時半に現地に集合ね! 楽しみにしてるから!」


「おい! そんないきな……」


 俺の返事を待つまでもなく電話は切られていた。


 いきなり何だったんだ。抽象的な言い方だが、生徒会で一番誰のことが分からないかと言われれば、それは星宮だ。星宮からは秋城と似たような、そして全く違う悲しい何かをその心に抱えている感じがするが、それを外に全く出さない。


 そう言えば、月見が明日奈世竹とショッピングセンターに遊びに行くと言っていた。全く同じ日に全く同じ場所ということは、この星宮の行動はその二人と何か関係があるのだろう。


 悩みか。星宮は誰かがデートをするからと言って、それを羨ましがるような奴じゃない。だが、短い電話ではあったが、俺は確かに星宮なりの悩みを感じたような気がした。


「あれ? もう電話はいいの?」


 リビングに降りると美玖が既にあらかたの準備を済ませていた。


「ああ、明日出かけることになったから昼はいない。夜ご飯には帰ってくるよ」


「はーい」


 俺はソファに座りコントローラーを握る。


「美玖、俺たちは引っ越しが多いから小学校からずっと一緒ですっていう幼馴染はいないけど、幼馴染ってどんな存在なんだろうな」


「急にどうしたの?」


「いや、生徒会でいうと秋城と春雨、星宮と月見が幼馴染だけど、高校までずっと一緒だとお互いどういう感情を持つのかなーと思って」


「んー、幼馴染かー。美玖が読んだラブコメや恋愛漫画だと、本当にずっと一緒にいる幼馴染は相手が近くにいることが当たり前になってて、もう相手のことを意識してないっていうのが多いかなー。けど何かのきっかけで相手を意識し始めてそこから始まる恋! 自分でも気付いてなかった気持ちに段々と気付く! うー、たまんないねー」


「意識できないか……。お互いにそれならいいけど、片方だけだと辛い現実だな」


「けど長い時間を過ごしてる分、簡単には他の人がどうこうできる問題でもないんだよねー。どう? まこ兄ももっとラブコメとか少女漫画読んで研究しとく?」


「ありだな」


「ありなの⁉」


 だが星宮に頼まれたのはあくまで明日一緒にショッピングセンターに行くことだけだ。それ以上に何か俺ができることはないし、そもそも星宮が俺に何かを望んでいるかも分からない。それに月見と奈世竹の邪魔になっても申し訳ない。明日は大人しく星宮に付き合おうと思い、俺は美玖との対戦を始めた。





「なあ、こんなことやめないかって言ったらどうする?」


「だーめ、ちゃんと先輩として大地がデートをできるか見守ってやらないと。ほら、移動するわよ」


 待ち合わせ場所に着くとすぐに星宮に物陰に隠れさせられ、同じように以前、夏合宿前の買い物の時に霜雪と合流した場所にやってきた月見と奈世竹の尾行が始まった。


「うーん、このままじゃさすがにいつかバレそうね。あ、帽子屋さんがあるじゃない。あの二人も服屋さんに入ったし、私たちも色々見て回りましょ」


 そう言って、月見たちが入った服屋の隣の店に星宮が入って様々なキャップを見比べ始める。


「ねえ、どれが似合う? ちょっとはデートらしいことしましょうよ」


「何がデートだよ。完全にストーカーだろ。……こっちのが似合ってるぞ」


「こんなことに付き合わせてごめんなさいね。どうしてもいても立ってもいられなくて。ほら、私って大地の保護者じゃない? じゃあ、これにするわ」


 星宮はそう言って笑うが、どこまで本当でどこまで嘘かは分からない。


「……俺もバレたら月見たちの迷惑になる。似合いそうな帽子を選んでくれ。せっかくだから俺も買うよ」


「じゃあ張り切って選ばせてもらうわ!」


 星宮が帽子を手にとっては俺に被せて悩み始める。


「……誠君、急にこんなことに付き合わされてるのにあまり何も聞いてこないのね」


 普段よりもワントーン落ち着いた声で星宮が特に俺を見ることなく話し始める。


「月見とお前の問題だ。何も相談がないなら俺は何も言わない。ただ一つだけ……こんな風に離れたままだと何も分からないぞ。俺も偉そうなことは言えないが、やはり何か問題がある時は取り敢えず向き合ってみないと何もできない。うわっ」


 星宮が俺の目まで帽子を被せてきた。


「それ、一番似合ってる。お会計に行きましょ」


 そう言ってレジに向かう星宮の背中はいつもと違って弱々しい。いつもは大笑いばかりしている星宮にも笑えないことがあるのだという当たり前のことを俺は実感した。


 レジでタグを切ってもらい、そのまま二人でキャップを被る。


「なんだか本当のカップルみたいね。いっそのこと付き合っちゃう? 私と誠君ならそれなりに上手くいくと思うけどなー」


「ないな。俺もお前もお互いにそういう目で見てない」


「えー、振られちゃったー。しかも眼中にないって言われましたー。泣いてもいいですか」


「そんなことで泣くような奴に副会長が務まるかよ。ぶりっ子ぶるのもやめとけ」


「誠君、ずばずば言い過ぎよ。こんな誠君とやり合うなんて真実ちゃん、やるわね」


 尾行はその後も続いて、フードコートで昼食を摂った後、月見と奈世竹は映画館に向かった。

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