第2章 第16話 デートの見守り

第16話 星空の想い、月の想い~デートの見守り~①

 修学旅行が終わった後、数日間の休日を挟んで、普段通りの学校生活に戻った。本来ならこの後の行事として生徒会長選挙があるが、今年は前生徒会が突然解散して、五月に秋城が選挙で会長に就任しているので、生徒会の解散も選挙もない。よって次の大きな行事は文化祭だ。


 放課後、お土産を持って生徒会室に向かうと、二年生は修学旅行のアンケートを答えていたので、生徒会二年が全員生徒会室に向かう道中で揃った。


 扉を開けて同時に部屋に入ると、既に来ていた月見と春雨が立ち上がる。


「先輩! お帰りなさい!」


「皆さん、お帰りなさい」


「ただいま。今日からまたみんなで頑張ろう。その前に二人にお土産を渡すよ」


 秋城がそう言って、手にもっていた袋からマカダミアナッツの箱を取り出して机の上に置く。それに続いて星宮がハチミツ、霜雪がコーヒーを、そして俺と夏野がクッキーを机に置く。


 ん? 俺と夏野がクッキー?


「おや、奏と誠のお土産が被ってるね。じゃあ罰ゲームだ」


「政宗先輩、罰ゲームって何ですか?」


「せっかくだからお土産が被った人は負けのゲームをみんなでしていたんだよ」


「奏ちゃん、誠君、残念ね。じゃあ二人で仲良くこのジュース飲んでね」


 そう言って星宮が笑いながら、あのパイナップルジュースを袋から出してきた。日本に帰ってきてまでこのジュースを飲まないといけないのか。というかこの感じだと星宮は秋城とグルで最初からこのゲームの考案側だったな。秋城と同じく食えない奴だ。


「このゲームが有効だったのは意外だが、それはまあいい。星宮と秋城がこんなことで談合をするような奴じゃないってのも分かっている。フェアな勝負なら何も文句はない。だがな、夏野」


 俺はわざとらしく目を逸らしている夏野を睨む。


「お前は俺がクッキーをお土産に買ったのを知っていたよな。そして俺はお前がマカダミアナッツを月見と春雨へのお土産に買ったのを知っている。なぜなら俺と夏野は一緒に買い物したからだ。ならなんでお前はクッキーを持ってきてるんだ? 俺と被ること分かってたよな?」


「は、はい。えーっとね、マカダミアナッツを持ってきたら絶対誰かと被っちゃうじゃん? だから違うのにしようと思ったんだけど、あたし、他の人へのお土産もマカダミアナッツとクッキーしか買ってなくて他に選択肢がなかったんだ。だから死なばもろともと思ってクッキーを持ってきました! まこちゃん、負けは負けだよ。一緒に飲もう!」


 そう言って夏野はパイナップルジュースの蓋を開けて、ぐびぐびと半分まで一気に飲む。そして引きつった笑いで俺にペットボトルを渡してきた。


「なんで俺が道連れなんだよ。くそ、そのまま夏野が持ってきてればこれを飲むのは秋城だったのに」


 不満はまだ収まらないが、このまま駄々をこねてもどうにもならないので、俺も一気に残りのジュースを飲み干す。


「誠君! すごい顔!」


 星宮が爆笑しながらこっちを見てくるが、もう咎める気も起きない。よりによってこのジュースを選んでくるとは。しばらくパイナップルは食べられないかもしれないな。


「一体どんな味なんですか⁉」


「奏さん、誠さん、二人とも凄い顔してますよ。大丈夫ですか」


「ああ、大丈夫だ。月見、気になるなら来年まで楽しみにしてるといい。ちなみにおすすめはしないからな」


 俺がそう答えた後、少ないながらもあった生徒会の仕事を全員で終わらせ、残りの時間はお土産を食べながらゆっくりすることになった。


 霜雪のお土産のコーヒーを淹れて、みんなでクッキーとマカダミアナッツを食べる。


「なあ、春雨と月見の二人だけで生徒会の仕事を処理できたのか?」


「いや、どう考えても無理そうだったので的場と矢作、それに双田夢ちゃんに手伝ってもらいました。三人とも冬風先輩への恩に報いるためならって、部活がない時は毎日顔を出してくれたんです」


「どんな恩だよ。まあ、今度お礼を言わないといけないな。月見からもよろしく言っといてくれ」


「はい!」


 その後もそれぞれ特に中身がない話が続く。

「ねえ、さっき冬風君と夏野さんが飲んだジュースってそんなに美味しくなかったの?」


 普段通り俺の隣の定位置に座っている霜雪が聞いてくる。


「なんというか、とにかく濃厚なんだ。匂いもきついし、味もかなり癖がある。炭酸水とかで割ったらもしかしたら美味しいかもな」


「そう。冬風君の面白い顔が見れて良かったわ」


「夏野のもっと面白い顔で記憶を上書きするか忘れてくれ」


「ちょっと、まこちゃんー。女の子になんてこと言うのー!」


「食べ物の恨みは怖いからな。夏野、覚えとけよ」


「うー、真実ちゃん、助けてよー」


 霜雪は抱きついてきた夏野の頭を撫でる。


「というか、大地。私たちがいない間に何かあった? やけにソワソワしてるけど」


「え⁉ 俺、そんな感じしてる⁉」


 そう言われて目の前の月見の方を見るが、特に今までと変わった様子には見えない。星宮には何か分かるのだろうか


「何か嬉しいことでもあったのかい?」


 秋城がそう尋ねると月見は恥ずかしそうに話しだす。


「いや、それが……今週の土曜日、女の子と遊びに行くことになったんです。俺、今まで女の子と二人きりで遊びに行くって空以外に経験がなくて……」


「同じクラスの子?」


「いや、季節の奈世竹さん」


 星宮の質問に答えた月見からは知った名前が出てきた。季節高校の生徒会一年の奈世竹かぐやだ。確かに、対抗戦の準備で月見と奈世竹は俺と同じく四季高校の担当で、仲良さそうに話していたな。


「ねえ、どこ行くの⁉」


「しょ、ショッピングセンターです」


「二人は付き合ってるの⁉ それともこれから告白⁉」


「いや、付き合ってないですよ! 二人だけで遊びに行くのも今回が初めてです」


 その後も夏野の質問攻めは続いた。


そしていつの間にか話題は変わり、途中から朝市先生と小夜先生もお土産を持って生徒会室にやってきて、久しぶりに全員が揃った生徒会は下校時刻になるまで、何でもないようなことを話し続けた。


 あのジュースを飲まされたこと以外は平和だったな。久しぶりの学校からの帰り道でふと思う。次は文化祭か。また忙しくなるだろうが、あいつらと一緒ならその忙しささえも楽しめるではないかと、柄にもないことを感じながら、俺は段々と涼しくなってきた帰り道を歩いた。

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