第15話 囚われた二人は嘘をつき、別れを告げる~さよならの修学旅行~⑩

 ホテル周辺で最後の自由時間を過ごし、貸し切りレストランで昼食後、帰国の途についた。


「飛行機マスターのまこちゃん、この飛行機の中であたしはどうすればいいですか? 寝ても大丈夫でしょうか?」


 離陸した後の機内で夏野が尋ねてきた。


「いや、日本に到着すると夕方で、その後夜に解散だからここでは寝ない方がいいな。映画三本分、付き合ってやるよ」


「やったー! ねえ、何観る?」


 行きとは違って夏野は大分落ち着いている。どうせ違う画面で観ることになるのに、俺は夏野と観る映画を選び始めた。



 日本に到着すると主要な駅までバス、そこから新幹線に乗り換えて移動する。これで四季高校近くのターミナル駅まで行ってそこで解散だ。寝ない方がいいとは言ったものの、多くの生徒が疲れからか新幹線の中で寝ている。俺の隣に座っている夏野も例外ではない。


 これから俺と夏野はどうなっていくのだろう。俺がしたことは正解だったのか。誰にも分かるはずのない質問がつい頭に浮かぶ。


 嘘のベールで覆われていた俺とそうの関係はもう終わった。だからと言ってこれからの夏野との関係が真実とは限らない。


 だけど今だけは、今感じるこの体温だけは真実のはずだ。


 というかなんでこいつはさぞ当たり前かの如くまた俺の肩を枕にして寝てやがるんだ? 次同じようなことがあったら、思いっきり突き返してやろうと思いながら俺も目を閉じた。



 駅に到着してそのまま解散となる。生徒の保護者もかなりの数が迎えに来ているようだ。


「まこ兄! こっちこっち!」


 聞き慣れた声の方を向くと美玖とお袋が迎えて来てくれていた。


「ただいま」


「誠、おかえり」


 お袋が微笑みながら俺のスーツケースを持ってくれる。新幹線で寝たせいでかなり体が疲れているのでその気遣いに感謝し、甘えることにした。


「美玖さん、久しぶりね」


「わー、真実さん!」


 美玖が声をかけてきた霜雪に抱きつく。


「あら、あなたが霜雪さんね」


「はい、こんばんは。生徒会の霜雪真実です。美玖さんにはお世話になっています」


「なんで俺じゃなくて美玖なんだよ」


 お袋に自己紹介した霜雪につっこむが霜雪は美玖の頭を撫でて何も言ってこない。


「霜雪さんのご両親は今日ここに来るかしら?」


「いえ、今日は忙しいから来れないと言ってました。何か御用でしたか?」


「ううん、いいの。気にしないで」


 お袋はなぜそんなことを聞いたのだろう。親父が霜雪の名前を聞いてした反応に何か関係があるのか?


「美玖さんにお土産を買ってきたの。受け取ってもらえるかしら?」


「え⁉ いいんですか⁉ 真実さんから頂けるなら美玖、何でも欲しいです!」


 そんなことを言うと増々、霜雪が美玖を可愛がるようになるに決まっている。


「あ! 美玖ちゃん! お土産買ってきたよ! あ、まこちゃんのお母さんですか? 美玖ちゃんにいつもお世話になっております、生徒会の夏野です」


 お前も俺じゃなくて美玖にお世話になってんのかよ。家族が二人もいるにも関わらず完全にアウェーとなった場所で俺は自分の立ち位置を見失う。


「夏野さんね。霜雪さんと同じく美玖からよく話を聞いてるわ。二人とも美玖と仲良くしてくれてありがとう。なかなか私は家にいないけど、今度お礼をさせて頂戴ね」


「いえいえー、お礼なんてー。あ、真実ちゃん、あたしが先に美玖ちゃんにお土産渡す!」


「夏野さん、これは譲れないわ。はい、美玖さん」


「あたしも譲れない! はい、美玖ちゃん!」


 霜雪と夏野はお互いをけん制しながら美玖に同時にお土産を渡す。


「奏さんも真実さんも喧嘩しないでー。二人とも本当にありがとうございます。また美玖と一緒に遊んでね!」


「きゃー、美玖ちゃん、可愛すぎ!」


 美玖が二人からお土産を受け取ると、すぐさま夏野と霜雪は美玖にまた抱きつく。


「ふふっ。こんなに可愛がってもらえてるのね。夏野さん、霜雪さん、本当にありがとう」


 霜雪と夏野は照れくさそうにしながら美玖から離れて挨拶をした後、それぞれ帰路につく。



「じゃあ、私たちも帰りましょう」


 電車に乗って家まで帰る。


 本当にこれで修学旅行は終わりだ。


「誠、お母さん、明日までこっちにいるから今日はゆっくり休んで、明日いっぱい思い出を聞かせてね」


「美玖も明日はずっと家にいる! 三人でいっぱいお話しよ!」


「ああ……色んなことがあったよ。一日じゃ話しきれないほどな」


 そうだ。一日だけじゃ何も分からない。俺たちはこれからまたお互いに傷付け、傷付けられながら関わり続けるのだろう。お袋が言ったことが正しいならそれが青春だ。




 ……これからが俺の初めての青春だ。



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