第15話 囚われた二人は嘘をつき、別れを告げる~さよならの修学旅行~⑨
「よーし、じゃあホテルに帰りますか!」
三上と下野に合流した後、それぞれが大量にお土産を購入して、タクシーを使ってホテルに帰った。
一旦荷物を部屋に置いた頃にはもう夕食を外で食べる時間は無くなっていたので、ホテル近くのハンバーガーチェーン店でテイクアウトして、それぞれの部屋で食べることになった。
「チーズバーガーセット頼んだらチーズバーガー二つ入ってたんだが」
俺はテイクアウトした袋の中身を確認していく。
「まじか! というか普通にパイナップル入ってんだけど。ハワイに来てから毎日パイナップル食ってる気がするよ」
「確かに」
適当にテレビを流しつつ、三上と一緒に夕食を食べる。
「最後の夜ご飯がこれってのも悪くないな」
「これも海外っぽいしな」
ハンバーガーを食べ終わり、先に三上がシャワーを浴びていると、電話がかかってきた。星宮だ。
「誠君、真実ちゃんとのこと、ちゃんと解決できたみたいね。真実ちゃんから嬉しさオーラがにじみ出てるわ」
「どんなオーラだよ。気を遣わせてすまなかった。ありがとな」
「いえいえ。それで電話をかけた用件だけど、明日って午前中が自由時間で昼食を食べた後はもう帰国するじゃない?」
「そうだな」
「それでね、自由時間の前のホテルでの待機時間の時に少しだけ集まって欲しいって政宗が言ってたわ」
「分かった。どうせ時間になるまでホテルから出られないしな」
「よろしくね。奏ちゃんにはもう連絡してあるから。じゃあまた明日」
「ああ、また明日な」
秋城のことだからみんなで写真を撮ろうってことだろう。そういえばこの修学旅行中秋城に一回も会ってなかったな。いつも生徒会では好き放題されているので新鮮な感じがする。
喉が渇いたので何か飲もうと思ったら部屋にはあのパイナップルジュースしかなかった。下に買いに行くか。
三上に声をかけてから俺は部屋から出て売店に向かった。
初日に来た時と同じようにドリンクコーナーで何を買おうか悩む。あのジュースと同じ轍は踏みたくないが、せっかくのハワイで日本でも飲むことのできる炭酸飲料ばっかり飲むのももったいない気がする。
「誠、迷ってるならこのジュース美味しかったよ!」
横を向くと戦国がいた。
「……戦国、それ本気で言ってるのか?」
戦国は俺も夏野も一口しか飲めなかったパイナップルジュースを指さしている。
「え? それってどういう意味? すっごく濃厚でおすすめだよ」
どうやら純粋に勧めてくれているらしい。
「戦国、どうやら俺とお前は分かり合えないらしい。これをお勧めって言われて信じた奴が気の毒だ」
「えー、本当にどういうこと⁉ 何笑ってるの⁉ からかわないでよー」
結局俺はごくごく普通な見た目のオレンジジュースを買った。
「ねえー、誠。二人で写真撮ろうよ」
売店を出た先で戦国が提案してくる。戦国は俺や霜雪と違って写真を撮ることに慣れてそうだ。
「ああ」
「やった!」
そう言うと戦国はデジカメを取り出して、俺に近づく。
「やっぱり女の子と撮る時と違ってあんまり身長差ないと写真って撮りやすいね。はい、チーズ!」
戦国が器用にデジカメのシャッターを切る。
「デジカメでも自撮り上手いんだな」
「私って背が高いからいつも任されてるんだよ」
「なるほどな」
「あ、まこちゃん! 六花ちゃん!」
戦国と話しながら部屋に戻ろうとしていると、丁度買い出しに来た夏野が声をかけてきた。確か星宮が夏野と戦国は去年クラスが一緒だったと言っていたな。
「やっほー、奏ちゃん!」
二人は手を取り合ってはしゃぐ。そういえば夏野がクラスではかなりの陽キャだってことを忘れていたな。
「あれ? まこちゃんと六花ちゃんって友達なの?」
「そうだよー。フォークダンスの入場で一緒になってから、誠と色んな所で会ったり、対抗戦の時にお世話になったりしたんだー」
「へえー、そうなんだ! ねえ、三人で一緒に写真撮ろう?」
「うん!」
「またかよ」
「まこちゃん、酷いー。六花ちゃんとはもう撮ったのかもしれないけど、あたしはまだだよ! 二人での写真もちゃんと撮ってもらうんだから、まだお部屋に帰っちゃだめ!」
そう主張する夏野から逃れられるはずもなく、結局三人で何枚か写真を撮り合った。
部屋に戻ると三上はもうシャワーを終えていた。
「誠、鉄平と将太朗呼んでいいか?」
「ああ。……三上、昨日は気を遣わせてすまなかった。それとありがとな」
「気にすんなって! 誠は俺を助けてくれたんだから、俺が誠の力になるのも当然! まあ、何もしてないんだけどな!」
三上が笑いながら電話を手に取る。もし俺が生徒会じゃなかったらこんな風に三上と話すこともなかっただろう。いや、この修学旅行自体、全く楽しめなかったはずだ。この状況を作ってくれた恩を返すためにも、最後まで修学旅行を楽しもう。
俺がシャワーからあがると、既に部屋に末吉と尾道が来ていて、初日に買ったはいいものの、量が多すぎて全くなくならないポテトチップスをつまんでいた。
「よーし、じゃあ修学旅行最後のトランプやるぞ!」
白熱したトランプ大会は点呼ギリギリまで続いた。
「冬風、お前成長したなー! 師匠として嬉しいぞ」
尾道がわざとらしく目を抑えながら言う。
「ちょっと、冬風の師匠は俺だって! な?」
「それは聞き捨てならないな。誠は俺が育てたんだぞ」
末吉と三上も尾道に続く。
「お前らの弟子になった覚えはねえよ。ほら、点呼に遅れるぞ」
「うわ! やべえ! 鉄平、早く戻るぞ! じゃあな!」
「またねー!」
相も変わらず慌ただしく部屋から二人が出ていった。
「ここで寝るのも今日で最後かー。なんか短かった気もするし、長かった気もするな」
「そうだな。それだけ楽しかったよ」
点呼を終えて、修学旅行最後の夜が終わった。
次の日の朝、朝食を食べて荷物を整理した後、約束通り生徒会の待ち合わせ場所に夏野と向かった。
「やあ、なんだかみんなと会うのは久しぶりな気がするね。僕だけ同じクラスに生徒会の人がいないから寂しかったよ」
秋城が朝からにこにこと表情筋を豊かに使って笑ってくる。
「秋城君に会うのはこれくらいの頻度でいいわね」
「確かにな」
「真実、誠、それは言い過ぎだ」
「政宗は二人をからかい過ぎなのよ。私くらいなら恨まれなくて済むわよ」
霜雪と星宮も合流して生徒会二年生が全員揃う。
「じゃあ、みんなで写真撮ろ! ほら、並んで!」
「「…………」」
「なあ、まさかこの人数で自撮りなんて言わないよな。さすがに誰かに撮影頼んでるだろ?」
「……じゃあ、みんなくっついて」
「おい、秋城。お前が俺たちを呼んだんだろ。何か言ってくれよ」
黙ってデジカメを構えだした秋城を見て全員諦めたように体を寄せ合う。
「ちょっと誠君、どこ触ってんの⁉」
「……冬風君、最低ね」
「違う! 今のは夏野が俺を押したんだよ!」
「まこちゃん、もっと寄ってよー。ここままじゃあたし入んないよー」
「おい! 倒れるって!」
「ほら、みんな笑って。撮るよ。はい、ピース!」
「「うわぁぁぁ!」」
その場にもみくちゃに倒れる前になんとかシャッターは切れたらしい。
「ふふっ。酷い写真ね」
「後ろが大変だって時になんで秋城はこんなに笑顔なんだよ」
「真実ちゃん、いい笑顔!」
「夏野さんも素敵よ」
「よし、取り敢えずみんなで写真を撮れて良かった。そういえば言い忘れてたけど、大地と咲良へのお土産、誰かと被ったら罰ゲームを用意してるよ。みんな他の人と被らないように気を付けるんだよ。じゃあまた」
秋城はそう言い残して颯爽と立ち去っていった。
「嘘……だよな?」
「分からないわ。政宗のことだし」
全員がきょとんとした後、誰がどのお土産を持っていくのかけん制し合った。
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