第15話 囚われた二人は嘘をつき、別れを告げる~さよならの修学旅行~⑤
ホテルの部屋で着替えを済ませた班から、夕方までホテル周辺で自由時間になる。夕食も今日からどこで摂るのか班の自由で、レストランで食べてもよし、売店で買ってもよしだ。
「よーし、連絡用の携帯も朝市先生からもらってきたから出発だ!」
三上は班長なので定期的に先生に連絡するなどの仕事がある。
「じゃあ、今日食べる場所はもう決めてあるから、丁度いい時間になるまで、どんな店があるのか適当に回ってみる?」
「うん! 賛成!」
「じゃあ行くか」
ホテルを出発して、様々なお土産屋を見て回る。
「大ちゃんや咲良ちゃんにお土産買わないとだけど、今じゃない方がいいかな?」
三上と下野は同じ店にはいるが、二人でどこか違う方へ行ったので、俺は夏野と二人でマカダミアナッツなどを見ている。
「そうだな、早めに買うと荷物になるし、後から買いたいものが出たら困るから急がなくていいだろ。それに明後日は大きいショッピングセンターに行くんだろ?」
「だね! 色々見て回った方がいいもんね。あ、これ可愛い!」
夏野が様々なキーホルダーが並べられている場所を見ながら、その中の一つを指さす。リーズナブルな値段ながらも、サンゴのような綺麗な細工のキーホルダーだった。
「日本の観光地のキーホルダーと同じくらいの値段なのに、これだけかなり凝って作ってあるな。結構俺も好みだ。買おうかな」
「……じゃあ、あたしとお揃いは嫌?」
「夏野も買うのか? というか夏野こそ俺と被るのが嫌じゃないか? それなら俺はやめるけど」
「嫌じゃないよ。まこちゃんが真実ちゃんとお揃いのキーホルダーを持ってて、羨ましかったの。……だめかな?」
「夏野がいいならいいよ。じゃあ買うか」
俺と夏野はそれぞれキーホルダーを買って、三上と下野と合流して店を出る。
次に入った土産屋でもそれぞれが自由に品物を見て回る。
「あら、誠君。いつも会ってるはずなのに、修学旅行だとなんだか変な感じがするわね」
「星宮か、確かにそうだな」
当たり前だがいつも生徒会のメンバーとは制服でしか会っていないので、私服姿を見るのは新鮮だ。
「星宮がいるってことは同じ班の霜雪もいるよな?」
「ええ、真実ちゃんもどこかにいるはずよ。何か用?」
「ああ、ちょっとな。なあ、話は変わるが今日そっちの班はどこで夕食を食べる? 俺たちの班、明日以降、食べる所をまだ決めてないんだ」
「今日はここの近くにロコモコが有名なお店があるからそこで食べるわね。明日もし会えたらどうだったか教えるわ。というか、誠君の部屋番号を教えてくれれば電話するわよ」
「そうか、助かる」
俺は星宮に自分のお部屋番号を教えて、星宮の部屋番号もメモした。
「私の部屋は真実ちゃんと私の二人だけだからいつでも電話してね。待ってるわよ」
星宮がいたずらっぽくウインクしながら去っていった。
その後少し店内を回ってると霜雪を見かけたので声をかける。
「霜雪、今なら少し時間あるぞ」
俺がそう言うと、霜雪は少し俺の顔を見た後、目を逸らして、違う方へ歩いていく。
「何か話があるんじゃないのか?」
「……ごめんなさい。まだだめ……」
もしかして霜雪から避けられてるか? 理由は思い当たらないが、今は追いかけない方がいいだろう。そんなことを思いつつも、俺はただどうすればいいか分からないだけだった。
その後、ぶらぶらと歩いていたら夕食の時間になったのでレストランに入る。ここはケーキが有名らしいので、テイクアウトしてホテルで食べる予定だ。
「うわー! こんなに量が多いの⁉」
俺たちはそれぞれサンドイッチなどを頼んだが、確かにボリュームたっぷりで、付け合わせにポテトなども大量に入っていた。
「奏は大丈夫だろうけど、私にはちょっと多すぎるわね。三人とも私の分も一緒に食べて」
「任せろ、曜子!」
早めの夕食を終えて、テイクアウトのケーキをホテルに持って帰って、二日目が終わった。
三上がシャワーを浴びている間に星宮から電話がかかってきた。
「今日、私たちが行ったお店とても美味しかったわよ。もしどこで夕食を食べるか迷ってるんだったらお勧めするわ」
「そうか、わざわざありがとな」
「それより、真実ちゃんに用事があるって言ってたわね。他の人は気付いてないと思うけど、さっきお土産屋さんで誠君と別れてから、真実ちゃん、心ここにあらずって感じがするわ。というか修学旅行が始まってからずっとかも。話せないことならいいんだけど、真実ちゃんと何かあった?」
「修学旅行の前は何も心当たりがないな。修学旅行中も昨日霜雪にちょっと話があるって言われて、今日お土産屋で話を聞こうと思ったら避けられたような気がする」
「つまり全く分からないってわけね。まあ、私の気のせいかもしれないからさりげなく確認しとくわ」
「頼むよ。というか今霜雪は部屋にいないのか?」
「真実ちゃんは今シャワーを浴びてるわ。あ、丁度浴び終わったみたい、じゃあまたね」
「ああ、またな」
三上に続いて俺がシャワーを浴び終わって、テイクアウトのケーキを食べ始めた頃にまた末吉と尾道が部屋に来た。
「なんだそのケーキ! でかくね⁉」
二時間前の俺たちと同じ反応を末吉がする。
「さっきご飯を食べてきたレストランでテイクアウトしたんだけど、まさかこんなに大きいとは思ってなかった!」
三上がケーキをフォークで切って末吉に食べさせる。
「うわー! めっちゃ美味しい! 明日俺たちもそのレストラン行こうぜ!」
「尾道もちょっと俺の食べてくれ」
俺も三上と同じように尾道にケーキを分ける。
「お、サンキュー! 確かに美味いな。明日行ってみるか」
その後、昨日と同じようにトランプ大会が行われた。
「今日も誠は弱かったけど昨日よりかは成長してたな」
「まあ、これだけやればな」
そしてこれまた昨日と同じように雑談タイムに移行する。
「なあ、冬風って松本と仲良かったっけ? 今日姉妹校でよさこい教えてる時に話してたよな」
末吉が俺に聞いてくる。
「修学旅行前からちょっとな。それがどうかしたか」
「俺って修学旅行中に松本に告白しようと思ってるんだよね」
「「「ぶっ!」」」
俺と三上、尾道が末吉の言葉に全員が丁度飲んでいた水とジュースを吹き出しかける。
「鉄平、お前って松本のことが好きだったのか⁉」
「え⁉ 告白すんの⁉」
「え? そんな驚くこと? 俺ってお前らに言ってなかったけ?」
「初耳だよ」
三上の言葉に尾道がうんうんと頷く。
「そうか。まあそれは置いといて修学旅行中に告白するのってやっぱり良くないかな? うちの学校って修学旅行前にカップルが急に多くなって、修学旅行が終わったらすぐ別れるっていうじゃん。そんな風に軽い気持ちって思われたくないんだよね」
「いつから松本のことが好きなんだ?」
尾道が末吉に質問する。
「いつからって、それは難しいなー。実は俺と松本って短い間だったけど昔、近所に住んでたことがあって、小学校は違ったけど毎日遊んでたんだ。それから松本が引っ越して、もう会うことはないかなって思ってたら、まさかの今年同じクラスになって気付いたらまた好きになってた」
「松本はそのこと知ってんの?」
「いや、昔のことだからなー。覚えてないかも。というか本名知らなかったし」
「昔の松本って今の松本みたいに男前だったのか?」
「それがよー、昔の松本ってマジで可愛い女の子って感じだったんだよ! まあ、今も俺は可愛いというか美人だと思うけど」
「それでよく同一人物って気付いたな」
「まあー、一回そうかもって思ったら、どんどん共通点が見えてくるもんだよ。だって時間は立っても同じ人物だからね」
「そんなもんなのか」
三上と尾道の質問攻めを俺は黙って見守る。松本も末吉のことを想ってると伝えるわけにもいかないし、同様に末吉のことを俺が松本に伝えることもできない。
「けどなんで今なんだ?」
「他の学校行事は来年もあるけど、修学旅行って当たり前だけどもうないじゃん。それを考えたらこのまま何もなく終わっていくのは寂しい気がして。やっぱり俺も一過性の気持ちに囚われてるのかなー。冬風はどう思う?」
俺が言えるのはただ俺が感じること、それだけだ。
「修学旅行が今回しかないというのは事実だ。だからこそ最大限楽しむためにこの時期にカップルが増えるんだろう。けど周りがどうなのかは末吉に関係ないだろ? 大切なのはお前が松本とどうなりたいか、どんな修学旅行にしたいかだ」
「だよなー。他の人がどうかなんて関係ないもんな」
「鉄平がこれからどうするかまだ分からないけど俺は応援してるぞ!」
「俺もだ!」
「三人ともありがと! 俺自身もどうするか分かってないけど自分なりに考えてみるよ!」
「やべっ! また点呼の時間だ!」
これもまた昨日と同じように末吉と尾道はドタバタと自分たちの部屋に戻っていった。
「掛布団の謎も解けたし、今日はぐっすり眠れそうだな! というか明日は何するんだっけ?」
「明日は午前からクルージングと観光、その後自由時間だな」
「それで明後日は登山とショッピングセンターか!」
「そうだ。そういえばショッピングセンターはカップルで回ることが多いって聞いたけど、末吉は告白するなら明日くらいしか時間がないな」
「だな。鉄平がどうするか分からないけど、俺たちは見守ることしかできないな」
そう言って三上が電気を消して、明日のために早めに就寝した。
星宮、霜雪の部屋。冬風との電話が終わった直後。
「星宮さん、誰かと電話してた?」
「うん、誠君とね」
少し濡れた髪のまま洗面所から顔を出した霜雪に星宮が答える。
「冬風君と……」
この反応は誠君関係で何かあるかもしれないと感じる。
「明日の夕食を食べる所を決めてなかったみたいだから、今日私たちが行ったお店をお勧めしてあげたの」
「そう……」
このままストレートに質問すれば真実ちゃんの考え事が分かるかもしれないが、これは私があまり口を出すべき問題じゃないと、他の人よりは察しが良いと自負する直観が告げた。
夏野、下野の部屋。点呼後、消灯前。
「奏、やけに嬉しそうね」
下野はベッドの上で嬉しそうに財布を触っている夏野を覗き込む。
「えへー、可愛いキーホルダー買っちゃった」
「へー、確かに細工が細かくて綺麗ね。けどそれだけじゃないわね」
「え⁉ 何が?」
「なんでそんなに嬉しそうなのか白状しなさい!」
下野は夏野に覆いかぶさってお腹をくすぐる。
「いやー! 曜子! やめてー、言うから! 言うからー!」
激しく息をする夏野を残して、下野は自分のベッドに戻る。
「で、なんでそんな嬉しそうなの?」
「このキーホルダー、実は……まこちゃんとお揃いなの……」
「だと思ったわ。良かったわね」
「その冷たい反応なに―⁉」
「ほら、今日は早めに寝るわよ。おやすみ」
そう言って下野は部屋の電気を消す。
「うー、おやすみなさい、曜子」
この触れたらすぐに溶けてしまいそうな恋が上手くいくことを祈ってるわよ。
下野はそう思いながら目を閉じた。
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