第15話 囚われた二人は嘘をつき、別れを告げる~さよならの修学旅行~④
「ぐっ、何だこれ?」
部屋に戻って末吉たちを待っている間に先ほど買ったパイナップルジュースを一口飲んだ。濃厚過ぎて匂いもきついし、味も何とも言えない。美味しそうなのは見た目だけだったのか。
「外れだったのか?」
「……おすすめはしないな」
俺の苦い顔を見て三上が爆笑する。俺は何の罪もない松本を恨みながら口直しに水を飲んだ。
程なくしてドアがノックされる。
「やっほー、点呼まで遊びまくろうぜ!」
三上が開けたドアから末吉と尾道が部屋に入ってくる。そして椅子やベッドに座って、トランプ大会が始まった。
「冬風……お前、とんでもない弱さだな……」
尾道が俺の方を憐れむような目で見てくる。
「……くそ、何で上手くいかないんだ」
「ま、誠、正直過ぎー!」
尾道とは違って三上と末吉は手を叩きながら笑う。
生徒会で霜雪と共にボコボコにされて以来のトランプだったが、どうやら成長はできてないらしい。
「この修学旅行でどこまで誠が強くなるか楽しみだな」
そう言いながら三上がトランプを片付けて、雑談に移行する。
「誠って今まで引っ越しばっかりって言ってたけど、これまでどこらへんに住んでたんだ?」
「ん? まあ色々県外とかも行ったが、県内でいうと小学校四年生くらいの時は雨が丘に住んでたな。
そうだ、その時にそうに出会って別れた。
「雨が丘かー。ん? 奏も丁度その頃に雨が丘の近くに住んでたって聞いたことあるけど、同じ小学校だったのか?」
夏野も同じ時期に雨が丘の近くに住んでいた?
「いや、夏野の名前を小学校で聞いたことはないな」
「へー、じゃあ通ってた学校は違ったんだな。まずいっ! 鉄平、そろそろ点呼の時間だ!」
「ええー、まじか⁉」
尾道が時計を見て焦り、末吉と共にドタバタと部屋を出ていく。
「一二三、冬風、また明日な!」
「おう!」
少しすると朝市先生が点呼を取りにやってきて消灯となった。
「三上、起きろ。遅れるぞ」
「…………お、おう」
次の日の朝、予定通り起きた俺は一向に目覚める気配のない三上に声をかける。
今日はホテルでの朝食を食べた後、姉妹校にバスで移動して、交流。そしてそのまま姉妹校の食堂で昼食を摂って、午後はホテル周辺での自由時間だ。
「いやー、よく眠れた。けどこのベッドに掛布団はやっぱりないのか? それともこれが掛布団なのか?」
昨日の夜、寝る前に三上と共にベッドに掛布団らしきものがないことに気が付き、結局、部屋の隅の丸テーブルに置かれていたバスタオルサイズの布を仕方なく掛布団代わりに使ったのだ。
「分からないな。まあ、取り敢えず朝ごはん食べに行くぞ」
「だな」
三上が急いで準備を済ませて、朝食の会場に向かう。どうやらバイキング形式のようだ。パンや果物、飲み物などが会場の真ん中や端のテーブルの上に所狭しと並べられてなる。
生徒が座るテーブルはクラスと班ごとに分けられていたので、三上と一緒に座って、夏野や下野を待つ。
「まこちゃん……ひふみん、おはようございます……」
「奏、ちゃんと起きなさい。敬語になってるわよ。二人ともおはよう」
下野が明らかに寝不足のような夏野を連れてきて、椅子に座らせる。
「おはよう。夏野は今日も寝不足なのか?」
「そうみたいね。全然起きないし、起きてもぼーっとしてたから、うちが何とか髪を整えたのよ」
「うー、一日目は飛行機だったし、ホテルのベッドもあたしと相性が悪くてあんまり寝れなかった」
夏野が目を擦りながら話す。
「ほら、あんまり目を擦っちゃだめよ。早く目を覚まさないとその寝不足な顔の写真撮るわよ?」
「だめー! 起きる、起きるよ!」
夏野が両手で自分の頬を叩き、笑う。
「全く……。明日はちゃんと自分で髪を整えるのよ」
「はーい。あれ? 曜子、あたしの髪を結んでくれてる⁉」
夏野が頭に手を乗せて、興奮する。こいつは鏡も見ずにここに来たのか。
「なんとなくねー。そんなにうちは上手い方じゃないけど」
「おお、何か普段と違うと思ったらそうだな。奏、似合ってるよ!」
「そ、そう……? まこちゃんはどう思う?」
「ん? 似合ってるぞ。下野に感謝しとけよ」
「やったー! 曜子、本当にありがとう! 明日はあたしが曜子の髪、結ってあげる!」
「そのためには早起きしてもらうからね」
「うう……頑張ります」
そうこう話していると生徒が全員揃い、担当の先生からこの後の予定が告げられて食事が始まった。
「これから毎日朝はバイキングかー。夢のようだー!」
「果物もたくさんあっていいわね」
俺も三上や下野に続いて、パンやフルーツを皿に取ってテーブルに戻った。
「そういえば俺と三上の部屋に掛布団が見当たらなかったんだが、夏野たちの部屋にはあったか?」
「掛布団? 掛布団というか、ベッドのシーツに切れ目が入ってたでしょ。そこに体を入れるのよ」
「あー! 確かに謎の切れ目があったな。あれってそういうことだったのか!」
「一二三はともかく冬風も気が付かなかったの? 案外冬風も可愛い所あるのね」
「俺はともかくってなんだよ⁉」
「全く気が付かなかったな」
あの切れ目に体を入れて寝るなんて想像もしなかった。
「じゃあ昨日二人ともどうやって寝たの?」
夏野がフルーツジュースを飲みながら聞いてくる。
「丸テーブルにあったバスタオルみたいなやつをかけて寝たぞ」
俺の返答に下野が笑う。
「それはバスタオルみたいなやつじゃなくてバスタオルよ」
「つまり洗面所にあったタオルはバスタオルじゃなかったのか……」
三上がそう呟き、今度は夏野が爆笑する。
「ひふみんもまこちゃんもお馬鹿さんだねー!」
「あんたは昨日うちがシャワーを浴びてる間にカードキーを持たずに外に出て締め出されたでしょ。全員、お馬鹿よ」
下野の一言に三人がうなだれて、朝食の時間が終わった。
姉妹校に出発するまでの時間の間に部屋に戻って制服に着替える。基本的に修学旅行の間は私服だが、この姉妹校訪問の時だけ日本の学校から来たというのが分かりやすいように制服だ。ハワイの気温でブレザーはかなり暑い。
「よし! じゃあ行くか!」
生徒がバスに乗り込んで姉妹校に向かう。季節高校とは運営が同じという意味での姉妹校だったが、ハワイの姉妹校は運営元などは全く関係ないが、お互いの海外交流を促進する目的で姉妹校になっている。
姉妹校に着くと、体育館でセレモニーが行われ、フラダンスや行進、楽器の演奏などの発表を披露された。その後、四季高校がよさこいを披露し、今度は両校生徒が入り乱れて、姉妹校の生徒に即興でよさこいを教える時間になった。
「ここをこうしてっ、こう!」
たまたま末吉や尾道、松本の班と同じグループで教えることになり、つい松本の指導を目で追ってしまう。
「どう? 僕も教えられるようになったよ!」
一段落したところで松本が話しかけてくる。
「ああ、安心したよ」
「けどね、修学旅行が近くなってから末吉君が僕を見る様子がおかしい気がするの。もしかしたら昔会ってるってもうバレてるのかな?」
「それは分からないな。けどそうだとしても松本は確認する気はないんだろ?」
「……うん。まだ怖いよ。あっ、そろそろ時間だ!」
姉妹校の生徒とよさこいを踊り、学校見学と昼食の時間になった。
「これって何だ?」
三上が食堂で提供された昼食のプレートに乗っているオレンジ色っぽい、丸みを帯びた円柱状の食べ物を指さす。座る席が少なかったので、二人掛けのテーブルに俺と三上だけだ。
「さあ、ウインナーか?」
やわらかい食感を期待して一口かじると、かなり硬かった。
「……人参だ」
「まじか⁉ 人参ってこんな風に食べるものだっけ⁉」
「分からない。というか俺の牛乳凍ってるんだが、三上のはどうだ?」
「俺は普通だぞー。冷蔵庫の下の方から取ったから凍ってたんじゃないか」
「そんなことがあるのか?」
俺はシャーベット状の牛乳をなんとかストローで吸いながら日本の給食とはまた違ったタイプの昼食を楽しんだ。
最後に姉妹校の生徒とお土産交換をして、四季高校はバスに乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます