第15話 囚われた二人は嘘をつき、別れを告げる~さよならの修学旅行~②
バスは俺が通路側、夏野が窓際、そして通路を挟んで下野、三上という席になった。
「それにしても空港まで何時間もバスで移動なんて勘弁して欲しいよな」
「帰りは一応途中までは新幹線を使うようになってるわね。まあ、色々トラブルがあって飛行機の手配が遅くなったのが原因らしいわ」
「へえー、そうなのか」
隣で三上と下野が話す。確かに今日はバスの移動と飛行機での移動で大分ハードになりそうだ。
「夏野、昨日あまり寝れなかったのか?」
「どうして?」
「明らかに眠たそうな顔してるぞ」
「え⁉ あたしそんな顔してる? うー、昨日の夜わくわくし過ぎてあんまり寝れなかったのー」
「小学生かよ」
「まこちゃん、ひどいよー。それだけまこちゃんとの修学旅行が楽しみってことなのにー」
「そうか。眠たくてもバスの中では寝ない方がいいぞ。飛行機で寝れないと向こうでの生活リズムが完全に狂うからな」
「じゃあ、まこちゃんが楽しいお話いっぱいして、あたしを寝かせないでね!」
「無茶な」
結局夏野とそれなりに話しながら、なんとか夏野を寝落ちさせないチャレンジを俺は達成した。
空港に到着し、先生や同行するガイドさんに言われるがままチェックインや荷物の預け入れを済ませて飛行機に乗り込む。もちろん、三上と下野が隣同士に座る関係上、俺の隣は夏野だ。
離陸の時間が迫ると夏野がいつも以上に静かになって下を向いている。
「飛行機は初めてなのか?」
「うん、大丈夫って分かってるんだけど怖い。飛行機に乗るの初めてだし、あたし高い所苦手なんだ」
夏野がこれまで聞いたことのないような弱々しい声を出す。夏野がこんな風になるということは余程苦手なのだろう。
「大丈夫だ。高い所と言っても外は暗いから下は見えたりしない。それに離陸の時に揺れるくらいで、後は電車より基本的に揺れは少ないぞ」
「まこちゃんは飛行機乗ったことあるの?」
「ああ、海外に行くのは初めてだけど何回も引っ越しとかしてるからな」
話すことで少しでも夏野の気を逸らそうと思ったが、離陸のアナウンスが流れて、機体が滑走路に移動し始めると、夏野はまた下を向いて黙った。少し震えているように見えるのは機体の揺れのせいではないだろう。
「大丈夫、気休めにもならないかもしれないが俺が隣にいる」
俺は左手を震える夏野の右手に重ねる。
「ずっと一緒だ」
――うう……――
――そう、どうした? もしかして高い所苦手なのか?――
――う、うん。怖い――
――どうして先に言わなかったんだ?――
――だってまこちゃんと一緒にいたかった――
――俺といる時に無理なんてしなくていい。そんなことしなくても――
――しなくてもなに?――
――ずっと一緒だ――
飛行機が離陸し、揺れが収まると夏野も段々いつもの調子を取り戻してきた。
「まこちゃん、これって前の画面で映画観れるの⁉ まこちゃん、一緒に観よ!」
「なんでだよ」
「えー、いいじゃんー。ね、お願い? 色々何ができるか教えてよ?」
「機内食を食べた後ならな」
程なくしてドリンクサービスや機内食が出て、夏野はその一つずつに感動した。
そしてその後一つ洋画を選んで、俺と夏野が同時にそれぞれの画面で再生して鑑賞するというシュールな光景になって、観終わる頃に丁度消灯の時間になった。
夏野は寝不足プラス昼寝はなしだったので、すぐに隣で静かに吐息を漏らし始める。相変わらず忙しい奴だ。
俺も寝ようと目を閉じると左肩に重みを感じ、爽やかなシャンプーの匂いが香ってきた。突き返すわけにもいかないので、俺は快適な空の旅を諦め、ゼロ距離で聞こえる呼吸音が少しでも機体の音に紛れてくれることを祈った。
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