第15話 さよならの修学旅行
第15話 囚われた二人は嘘をつき、別れを告げる~さよならの修学旅行~①
別れがあったとしてもそれは新たな出会いの始まりである。そんなことを言うことができる奴は今までどんな出会いと別れを繰り返してきたのだろう。
どんなものでも終わりが来るのは分かってる。分かってはいるが、この出会いに別れを告げて終わらせるのは、あまりに残酷だ。それほどの時間を共有した。それほどの感情を持っていた。
だがもう選択肢はない。もう終わりだ。これで……お別れだ。
修学旅行に出発する前の夜、俺は夕食を食べた後、リュックの荷物を改めて確認した。スーツケースは予め空港まで輸送されているので、明日はこのリュックだけを持って学校に登校し、そこからバスで空港、空港からハワイまでという行程だ。飛行機は夜に出発するので一日目は飛行機の中で寝なければならない。
忘れ物はなさそうなので美玖と一緒にリビングでくつろいでいると、玄関の鍵が開く音がした。
「お母さん!」
美玖がはしゃぎながら玄関に駆け出す。合宿の時と同じく俺が家を空けてしまうので仕事を休んでお袋が帰ってきてくれたのだ。
俺も玄関まで出迎えに行く。
「お母さーん!」
美玖が玄関でお袋に抱きついて、お袋は美玖の頭を撫でている。美玖の性格は親父似だが、顔はお袋似でそっくりだ。そんなお袋の性格は騒がしい親父と逆で、まるで霜雪のようにいつも落ち着いていて冷静だ。
「お帰り、荷物持つよ」
「誠、ただいま。ほら、美玖、もう離れて。後でゆっくりお話ししましょう」
「えー、もうちょっとー」
俺が合宿に行っている時、親父は美玖にこんな反応はされなくて、さぞ悔しがっただろうなと思いながら、俺はお袋のスーツケースを中に運び込む。美玖は昔からお袋にべったりだ。
お袋は先に風呂に入って、食事を終え、リビングに三人が揃った。
「誠、美玖、最近学校はどう?」
「美玖は変わらずだよー」
「まあ、俺も生徒会でそれなりにやってるよ」
「それなら良かったわ。誠、生徒会の皆さんとの写真とかってある? お母さんに見せてよ」
お袋が興味津々に言ってくる。
「そんなに見たいか?」
「意地悪しないで。楽しそうな誠が見たいの」
俺はスマホをお袋に渡して美玖と一緒にお袋の両脇からのぞき込んで色々これまであったことを話した。
「……ありがとう。色んな話が聞けて楽しかった。……お母さんね、誠がこれまで学校は楽しそうじゃなかったから心配だったの。と言ってもお母さんも四季高校で生徒会に入るまで友達と呼べる人はいなかったのだけど。それでも生徒会でお父さんに出会って、かけがえのない仲間にも巡り合えた。誠も同じように大切な人たちに出会えたようで良かった」
お袋がにっこりと笑いかけてくる。
「大切な人たちか。それがどういう存在かまだ分からないけど」
「今は分からなくていいの。いつか分かる時が来るわ。だから誠は誠が思うがままに人とたくさん触れ合って。たとえ人を傷付けたり、自分も傷付くことがあったとしても、それが青春よ」
色々話している間に美玖がお袋に膝枕の状態で寝息を立てている。お袋はそんな美玖のお袋譲りの綺麗な黒髪を優しく指ですいていく。
「美玖にも誠にも寂しい思いをさせてごめんね」
「親父にも言ったけどそんなに気にしなくていい。美玖も俺もそれなりに二人で楽しくやってるよ」
「ありがとう。お正月には必ず家族が揃うようにするわ。……明日から修学旅行ね。いっぱい楽しんで、たくさん写真を撮って、また思い出を聞かせて」
「ああ、楽しんでくるよ」
「明日は飛行機であまり寝れないと思うから今日はもう寝た方がいいわ。美玖、起きて」
お袋が美玖の肩を優しく叩く。
「……いや……お母さん……今日は一緒に寝よ?」
美玖が寝言かどうか分からないぐらいの声を漏らす。
「分かったわ、一緒に寝ましょう」
「…………やった。……んっ、まこ兄、おやすみなさい」
美玖はのそっと起き上がってペタペタとお袋の部屋に向かった。
「いつまでも甘えん坊ね」
「まあ、甘えてもらえる時に甘えられとけば?」
「ふふっ、そうね。じゃあ誠もおやすみなさい」
「おやすみ」
俺もお袋もそれぞれの部屋に戻って電気を消した。
「じゃあいってきます」
「いってらっしゃい。海外だし色々気を付けてね。それからいっぱい楽しんできて!」
美玖は朝から普通に学校なので俺はお袋に見送られて昼前に家を出る。
学校には昼過ぎに集合なので、昼ご飯は三上と学校近くのラーメン屋に行くことになった。修学旅行中ずっと一緒にいることになるだろうに、三上にどうしても一緒に学校に行こうと頼まれたのだ。
学校から近いということは俺の家からも近いということだ。徒歩十分もかからずラーメン屋に着くと、三上が店先で待っていた。
「お、誠。おはよう! 今日から長い付き合いになるけどよろしくな」
「全くその通りなのになんで初っ端からお前となんだよ」
「別にいいだろー。最後に日本っぽいもの食べたかったし、昼過ぎまで一人で待ちきれなかったんだよ」
「まあ、ラーメンが日本っぽいかどうかは置いといて、最後にラーメンを食べるのは賛成だ。じゃあ、入るか」
「おう!」
店に入るとまだ平日の昼前なので店内にはあまり人はいなかった。俺と三上がどこに座ろうか見てると、先に店で食事していた同じ四季高校の制服の男子から声がかかった。
「一二三、冬風! こっちに来いよ!」
声の主は末吉だった。同じテーブル席で食べているもう一人は尾道だ。
「誠、あいつらと一緒でいいか?」
「ああ、別に気にしない」
末吉も尾道も体育祭のクラス対抗リレーの選手で、それ以来、少しだけ俺と話すようになっていた。二人が三上と仲が良いというのもその要因だろう。
「やっぱり、ラーメン食べときたいよな!」
末吉がテンション高めに話す中、俺と三上はそれぞれ何を食べるか決めて注文する。
「一二三の班の班長って誰?」
「俺だよ」
尾道の質問に三上が答える。
「鉄平の班は?」
「へへーん、なんと俺です!」
末吉が自信満々に答えるが、三上は不安そうな顔をする。
「えー、一二三その顔はなに―。ね、冬風は俺が班長にぴったりだって思うよね?」
「どうだかな」
「まじかー。俺ってみんなからどう見られてんのー?」
「気を落とすなよ、班長。ぷぷっ」
ラーメンを食べ終わった尾道が笑いながら末吉の肩を叩く。
「いや、お前は笑っちゃダメだろ!」
騒ぐ末吉を傍らに、俺と三上は注文したラーメンをすすり始める。末吉は明るくて、集団の中においてその場の雰囲気を和らげる存在だ。松本の相談を受けた後だったので、末吉は昔からこうだったのかと少し考えてしまった。
食事を終え、集合場所である体育館に向かった。そして時間になると出発前の最終確認と出発式が行われ、それぞれがクラスごとにバスに乗り込んで空港までの数時間の移動が始まった。
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