第14話 三つ目の相談

第14話 鏡写しの過去と気付けぬ誠~三つ目の相談~➀

「じゃあ、今日の放課後までにこの紙に修学旅行の班を書いとけよー。人数は一班につき四、五人で男女の偏りがないようにな」

 

 対抗戦の後、二年生が修学旅行に浮足立ち始める頃に朝市先生は朝のショートホームルームでそう言って、教室から出ていった。


 班決めか。小学校、中学校の時もそうだったが、人数の足りない班に調整として入れられるのがこういう時の俺のクラスの中での役割だ。まあ、俺も班決めに自分の意志などないので、お互いに損などはない。帰りのショートホームルームの前、大体の人間が班を決めた後に人数の足りない班に入れさせてもらうかと考えて、俺は一限の授業の教室に向かった。



「よし、じゃあ修学旅行の班、全員決まってるか確認するから読み上げるぞ」


 帰りのショートホームルームで朝市先生が朝、後ろの掲示板に張っておいた班決めの紙を回収してそれぞれの班のメンバーを読み上げ始める。


 しまった、あまりに関心を持ってなかったので、自分の名前を書くのを忘れてしまった。まあ、朝市先生がチェックしているのだから、そこで適当に人数の足りない班に入れてもらえばいいだろう。


「……末吉すえよし鉄平てっぺい尾道おのみち将太朗しょうたろう松本まつもとはじめが四班な。で、五班が三上みかみ一二三ひふみ下野しもの曜子ようこ夏野なつのかなで冬風ふゆかぜまこと。六班が…………」


 三上の班に俺が? 自分では名前を書いていないので三人のうちの誰かが書いたのだろう。その後、朝市先生は名簿のチェックを終えて、解散となった。


 生徒が部活や下校のために教室から出始めるなか、俺は三上、下野、夏野が話している所へ向かった。この三人は席が近い。


「なあ、誰が俺の名前を紙に書いたんだ? というか俺がお前らの班にいていいのか?」


「ん? 誠の名前を書いたのは俺だけど、誠を班に入れようって言ったのは俺と曜子と奏。つまり全員だ。誰かと班を組むって話してなさそうだったから勝手に名前書いたけど、誠こそこれで良かったか?」


「ああ、自分で名前を書くのを忘れてたから助かった。……ありがとな、よろしく」


「いやー、修学旅行楽しくなりそうね。なんて言ったってハワイだし」


 下野が興奮しながら言う。


 私立の高校では珍しくないかもしれないが、四季高校の修学旅行は毎年ハワイだ。四泊六日の修学旅行で毎年生徒からの評判もいいらしい。海外旅行なので事前の準備が少し手間だが、高校の修学旅行で海外に行けるというのは魅力的だ。


「そうだね! ひふみん、曜子、まこちゃん、よろしくね。じゃあ、一緒に生徒会に行こ!」


 教室で少し用事があるという三上と下野を残して、俺と夏野は教室を出た。


「修学旅行楽しみだねー」


「班なんてどうでもいいと思ってたけど、なんだかんだで夏野や三上、下野だと安心した。ありがとな」


「お礼なんて言わなくていいよ! あたしたちもまこちゃんと一緒になりたかったんだから。……海外かー、子どもの頃は自分の周りだけが世界の全部って思ってたけど、いつの間にか色んな所に手が届くようになっちゃった。夏野奏、ついに世界進出!」


「大層なことだな」





 ――あたしの世界はなんでこんなに寂しいんだろう。まこちゃんに会うまで白黒みたいだった――


 ――俺たちの周りだけが世界の全部じゃないはずだ。もっと色んな所に手が届くようになったら、それに気付けると思う。その時は俺がもっとの見える景色を鮮やかにする。だから一緒に、お互いに真実に生きていよう。広い世界を真っ直ぐに見ていられるように――






「夏野、お前が俺と初めて会ったのはいつだ?」


 俺は廊下で立ち止まって夏野に尋ねる。夏野がだなんて馬鹿げた考えかもしれない。だが、なぜかそれを確かめないといけないと感じた。俺は自分の直観を信じる。


「急にどうしたの? あたしとまこちゃんがお互いに初めましてってなったのは、あの時。あたしがまこちゃんにぶつかった時だよ?」


「その前だ、もっと昔。お前が俺の話してたなんじゃないのか?」


「だから急にどうしちゃったのー⁉ あたしがまこちゃんの初恋の相手なわけないよー。ほら、早く行かないとみんな待ってるかも! 班決めで他のクラスより終わるの遅くなっちゃたからねー」


 そう言うと夏野は、小走りで生徒会室に再び向かい始めた。


 なぜ俺は夏野がだと感じた? なぜ今更になってのことが頭に浮かぶ? 夏野がだとしても俺はどうするんだ?


 自分でも考えが整理しきれないまま、俺も夏野に置いていかれないように生徒会室に向かった。

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