第11話 戦国の疾きこと誠に風の如し~学校対抗戦~④
色々あった夏休みが終わり、二回目にして本番前最後の季節高校との共同の調整作業も順調に終わった。今日は対抗戦本番、あとは上手く運営できるように働くだけだ。
朝食を食べるために着替えなどを済ませて美玖と一緒にダイニングのテーブルに座る。
「あれ、まこ兄の顔ちょっと赤くない?」
「ん? 気のせいだろ」
少し体は疲労気味だが、今日が終われば仕事もひとまずは落ち着くし、明日は土曜日でゆっくり休める。
「うーん、そうだといいんだけどな。あ、そういえば明日だけど奏さんにうちに来てもらっていい? 勉強教えてもらう約束したんだ……」
「ああ、俺のことは何も気にしなくていい」
「ありがとう! 今日って対抗戦ってやつがあるんだっけ? 生徒会大変だと思うけど頑張ってね」
「ありがとう」
朝食を食べ終わり学校へ行く準備をする。今日はいつもより早く登校して最終確認をしなければならない。
「じゃあ、いってきます。戸締りは忘れないようにな」
「はーい、いってらっしゃい!」
美玖に見送られて少しだけ涼しくなってきた通学路を歩き始めた。
学校に着いた後は教室に荷物を置いてすぐにグラウンドに行く。
「秋城、おはよう」
「おはよう。今日は天気に恵まれて本当に良かったよ。雨だったらとてもじゃないが生徒を分散できない」
「そうだな、あれだけ準備して中止にならなくて良かった。テントとか会場の準備をしてくれた部活に感謝しなくちゃな」
グラウンドには複数、観客用のテントが建てられている。昨日、サッカー部や陸上部などが協力して建ててくれたものだ。
「そうだね、様々な人の協力があったからこその実現だ。もちろん生徒会のみんながいなければ不可能だったよ、ありがとう」
「まあ、お前もお疲れ。ってこういうのは終わってからにしないか? 気が抜けそうで怖い」
「確かにそうだね」
秋城が笑いながら俺を振り返る。
「誠、顔が少し赤くないかい?」
「美玖にも言われたよ。日焼けしてそう見えるだけだろ。体調は別に悪くない」
「無理は禁物だよ。最近は体育祭の時並みに忙しかったからね。今日が終わったらしっかり休んでくれ」
「ああ」
「遅れてすみません!」
月見と春雨もグラウンドに出てきた。
「全然遅刻じゃないよ。じゃあ季節の皆さんが来るまで音響の確認でもしておこうか」
季節高校に行く部活や生徒会のメンバーは今日はこっちの学校にそもそも登校してこないので、今日の四季高校側の生徒会はこれで全員だ。
秋城の指示通り、俺たちは音響設備の調整を始めた。
「おはよう。今日はよろしく頼む」
十分ほどすると八王子を先頭に、季節の生徒会の奴らもグラウンドに出てきた。
「八王子副会長、それに双田君に奈世竹君、こちらこそ今日はよろしく頼みます」
それぞれが挨拶を交わす。
「グラウンドの準備はもう少しで終わりそうだ。誠、大地、奈世竹君と双田君を連れて体育館の方を確認してきてくれないか?」
「分かった。その後はどうする? もう教室に直帰するか?」
「そうだね、それで頼むよ」
秋城の指示通り後輩三人を連れて体育館に向かう。双田望とはもともと矢作と的場関係でそれなりに交流はあったが、月見は奈世竹ともしっかりと仲良くなったらしい。
体育館もバスケ部とバレー部が準備をしておいてくれたおかげでほとんど改めて準備が必要なものはなかった。
「じゃあ、教室に戻るか。季節の生徒用の教室までの案内は一応校舎に作っておいたけど、案内するよ」
「あ、僕が二人とも連れて行きますよ。一年の教室の方が近いから誠先輩はそのまま戻ってもらって大丈夫です」
月見が案内役を買って出てくれる。
「そうか、じゃあ頼んだ。生徒会常駐のテントはさっき全員でいた所のテントだから開会式が終わったらそこに集合な」
「はい、分かりました!」
体育館を出て教室に戻る。生徒会の仕事はタイムスケジュール通り対抗戦が進んでいるかのチェックと、季節高校が会場の部活を合わせての勝敗の取りまとめくらいなのでそこまで忙しくはないだろう。
教室の椅子に座り、スマホを確認すると夏野から写真とメッセージが送られてきていた。
『まこちゃん! 季節高校の校舎ガラス張りだよ! それにエスカレーターもある!』
写真は季節の校舎をバックに戸惑う霜雪と笑顔の夏野のツーショットだった。こいつらは学校見学にでも行ってんのか。
『ちゃんと仕事しろよ』
『もー、分かってるよ!』
『明日美玖ちゃんとお勉強するからまこちゃんの家に行かせてもらうね』
『らしいな、美玖に聞いたよ』
『あ、そろそろ行かなきゃ。じゃあまた明日会おうね!』
『ああ、また明日な』
夏野とのやり取りを終え、スマホを収めると三上と下野が席の近くにやってきた。部活に所属していない生徒は一律それぞれの所属する高校で応援となっている。
「誠、おはよう。今日奏はこっちに来ないのか?」
「おはよう。あいつは向こうの担当だからそうだな」
「季節高校との対抗戦なんて規模の割には急だったけど、準備大変だったんじゃないの?」
下野が労うように話しかけてくる。
「まあな、夏休みの終盤はずっとこの準備してたよ。まあ部活やってる奴らにも負担はかけてるからな」
「それでも生徒会が大変だった事実は変わらないわ。冬風の顔疲れてるわよ。色々やってくれてありがとね」
体育祭の時に三上に同じようなことを言われたのを思い出す。三上と下野、二人は似ている。
「どういたしましてって言っておくよ。応援だけじゃつまらないかもしれないが、終わった後、何か意見があったら俺に教えてくれ」
「ああ、分かった。けど色んな部活の試合が見れるから応援も悪くないと思うぞ。俺は楽しみだ」
そうこう話していると朝市先生が朝礼のために教室に入ってきた。季節には小夜先生が行っている。
それにしても今日は顔が赤いとか疲れているとかよく言われるな。風邪ではないことを祈りながら、朝市先生の出席確認や注意事項の説明を聞いた。
開会式が終わり、対抗戦が始まる。応援の生徒を分散させるためにグラウンド、体育館で競技は同時進行で行われ、文化部の作品の発表なども教室や廊下などを利用して行われている。
「冬風先輩! 弓道部の試合が始まります! 一緒に行きませんか?」
順調にそれぞれの競技が進行していく中で双田望がテンション高めに言ってきた。
「あいつらの応援なら月見を連れていけばいいだろ」
「月見君とかぐやちゃん、今いい感じに話してる途中なんで邪魔しちゃ悪いじゃないですかー。ダメです?」
俺はテントの中の秋城と八王子を見る。
「今は特に仕事はないしここは大丈夫だよ」
「ああ、望が迷子にならないように一緒に行ってくれるか?」
この二人が良いというなら特段断る理由はない。
「じゃあ、行くか。何かあったら連絡をくれ」
俺は双田望を連れて体育館裏の弓道場まで行く。ギャラリーもそこまで多くはないのでしっかりと見守ることはできそうだ。
「あ、冬風先輩。最近望がお世話になっています」
声の主の方を振り返ると隣の双田望と全く同じ顔、声の女子がいた。
「双田夢か。フォークダンス以来だな」
「そうですね。けど望から冬風先輩の話はいっぱい聞いているのであんまり久しぶりな気はしませんね」
「俺も双田望とは最近会ってるから久しぶりって感じはないな」
「冬風先輩―、顔合わせの時から思ってたんですけど私たちのことフルネームで呼ぶの疲れません? 下の名前で呼んで下さいよー」
「そうですね、私も夢って呼んでもらえた方が嬉しいです」
「……そうか、じゃあ次から下の名前で呼ぶよ。人のことを苗字以外で呼ぶのなんて妹以外にほとんどなかったからちょっと抵抗あるな」
「頑張って私たちでリハビリしてください! あ、快君と矢作君が来ました!」
「わー、袴姿って新鮮ですー」
「意外と二人とも似合ってるな」
矢作と的場はこちらに気付いたのか手を振ってくる。
その後、弓道部の対抗戦は矢作と的場の一年コンビの奮闘もあり、四季高校の勝利に終わった。
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