第11話 戦国の疾きこと誠に風の如し~学校対抗戦~②
集合時間までに四季高校の生徒会は全員揃った。あと十分ほどで季節高校の生徒会も来るだろう。
「机の配置とかはこんなものかしらね」
小夜先生と朝市先生も生徒会室にいる。
「じゃあ僕は校門に季節の皆さんを迎えに行ってきますね」
「俺も行くよ」
秋城と朝市先生が生徒会室を出る。
「小夜先生、顔合わせと言っても具体的には何をするのですか」
「ひとまず自己紹介をして、その後は当日の担当ごとに分かれて会場の調整やプログラムの作成、昼食を挟んでまた作業って感じかしらね。一緒に作業する機会は多分あと一回ほど、それも夏休み明けになると思うから今日は少しやることが多くなるわね」
「分かりました。ありがとうございます」
霜雪の質問に小夜先生が答え、月見が頭を抱える。
「うー、初めて会う人たちと上手く仕事できる気がしない」
「月見、安心しろ。俺も同じだ」
「二人ともそんなことそんなこと言わないでください……。わ、私も緊張してきちゃいました……」
「ちょっと三人ともー! 始まる前からそんなナーバスにならないで! ね、一緒に頑張ろ?」
夏野が俺と月見、春雨を励ましてくる。
「そうよ、向こうだってきっと同じ気持ちだから変に考えすぎちゃだめよ」
そうこう言っていると秋城と朝市先生が季節の生徒会を連れて帰ってきた。季節の生徒会は生徒が六人、教師が一人の合わせて七人で来たらしい。
「お久しぶりです、
小夜先生が季節の女性教師に挨拶し、午刻先生と呼ばれた教師は親しげに小夜先生に挨拶を返す。
「小夜さん、今回はよろしくね。まさか小夜さんと朝市君と一緒にこんな風に仕事できるなんて思っていなかったからとても嬉しいわ」
「私も嬉しいです。午刻先生は今は季節高校で勤務されてるけど、元々はこの学校の教師で、私と輝彦が生徒会だった時に新任だったのにも関わらず生徒会担当だったの」
小夜先生の説明でこの親しさに合点がいく。
「じゃあ、早速自己紹介でもして仕事を始めますか。今日はやることが多いですし」
「そうね。ふふっ、まさか朝市君が指揮を執る姿を見れるとはね」
「笑わないでくださいよ、僕だってこいつらの教師なんですから」
「ふふっ、ごめんなさい。じゃあ自己紹介を始めましょうか」
不思議な雰囲気の先生だ。声に優しさがにじみ出ており、緊張しているだろうその場の空気がほぐれていっているのが分かる。
その後、お互いの自己紹介が始まった。季節の生徒会長は背が低めの女子の
一年生のメンバーは、俺の目安箱委員長としての二つ目の相談で知り合った、的場の彼女である双田望、
ただ四季高校担当と季節高校の担当でそれぞれが半分に分かれるので、実際に関わる人数は半分だ。
早速、担当の学校ごとに分かれて運動部の試合のタイムスケジュールや文化部の発表をどうするか話し合う。四季高校担当は俺と秋城、春雨と月見の一年コンビで、季節の生徒会からは副会長の八王子、双田望、奈世竹の三人が参加している。
「かなり準備を進めてくれていたんだな。これだと今日中になんとか大体の調整は終わりそうだ。感謝する、ありがとう」
これまでの準備の進捗を四季高校側から説明し終わると八王子が頭を下げる。
「いえいえ、そちらもかなり部活との調整を進めてくれているようでありがたいです」
秋城がいつもと変わらない笑顔で答える。
「じゃあ、どの部活がどちらの高校に行くか振り分けますか? それが決まらないと詳細を話し合えませんね」
奈世竹の提案で違うテーブルで話し合っている季節高校の担当組と一瞬だけ話し合って、一気に部活を振り分ける。どこかで都合が悪い部分が見つかったら、その時にまた調整ということで取り敢えず必要な要素が全て揃った。後はひたすらに話し合って書類などの作成だ。初めての試みなのでしっかりと話し合いや構成の資料などは残しておかなければならない。
お互いに初対面のメンバーが多い状況だったが、話し合いは弾んでこれといった困難にぶつかることもなく順調に仕事は進んだ。そして昼食の時間になる。
「もうこんな時間ですね。みんなキリの良い所で手を止めて、昼食にしましょう。お弁当は持ってきた? ちなみに先生は忘れたわ」
午刻先生がゆったりとした口調で言う。
「なんで先生が忘れるんですか。じゃあ一緒に近くの定食屋に食べに行きますか。夏休みだから学食は開いてないんですよ」
「あら朝市君、付いてきてくれるの? じゃあ小夜さんもご一緒しない?」
「はい、お供させて頂きます。じゃあ先生たちは少し外に出るからみんなもお昼ご飯を食べておいてもらえるかしら」
そう言い残して三人は生徒会室から出ていき、残された生徒はそのまま自分の席で持ってきた弁当などを食べ始める。
普段はここで一人で弁当を食べているせいか、この状況は何とも言えない感じがする。
「冬風先輩! 夏祭りの時に言った通り、またお世話になりますね!」
双田望が元気よく話しかけてくる。四季高校に通っている双子の妹の双田夢は比較的もの静かなようだが、双田望はかなり活発だ。ずっとそうなら二人を見分けるのも簡単だろうが、こいつらは性格ごと相手の演技をするのだからたちが悪い。
「ああ、そんなこと言ってたな。季節の生徒会は早い段階で対抗戦があるかもって知ってたんだな」
「元々対抗戦は午刻先生の提案みたいで、ちょくちょく話を聞いていたんですよね。まさか本当に実現するとは思っていませんでした」
「だな。いきなり聞かされた時はどうなることかと思ったが、なんとかなりそうだな」
「午刻先生は色々急に話を進めるからな。その影響もあったと思う。なんかすまないな」
八王子が話に加わって謝罪してくる。
「別に謝ることじゃない。生徒が楽しむために生徒会が努力するのはある意味当然だ」
「誠がそんなことを言ってくれるとはね。会長として嬉しいよ」
「やるべきことはやるだけだ」
子どもの成長を見守るような顔をしてきた秋城に答える。
「それができるだけで十分誇るべきことだ。一緒に仕事ができて心強いよ」
八王子はかなり誠実で真面目な奴だということがこの短い時間で伝わってくる。
「望って冬風さんと知り合いだったの?」
奈世竹が双田望に尋ねる。
「うん、私の双子の妹がここに通ってるんだけど、色々あって目安箱委員長の冬風先輩にお世話になったの」
「目安箱委員長?」
「ああ、生徒の相談や要望に応えるって仕事だ。まあまだ相談も数件しかないし、生徒会が発足してあっという間に夏休みに入ったからほとんど雑用しかしてないけどな」
「四季高校にはそんな役職があるんだな。こちらでも少し参考にするよ」
弁当を食べ始める前に感じていた何とも言えない気持ちはいつの間にかなくなっていた。
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