第11話 学校対抗戦

第11話 戦国の疾きこと誠に風の如し~学校対抗戦~➀

 合宿の後、都合のつくメンバーだけで日々対抗戦の準備を進め、夏休みが終わるまであと一週間ほどとなったところで、季節高校の生徒会との顔合わせ兼打ち合わせが四季高校で行われることになった。


 昼前に生徒会室に集合だが、少し学校に早く来たので、テントをどこに設置するかなどイメージするためにちょっとだけグラウンドを覗く。

 

 グラウンドではサッカー部と陸上部が練習しているようだ。活気のある声が響く。


「あれ? 誠こんな所でどうしたの?」


 後ろから聞こえた声に振り向くと戦国が立っていた。陸上用のショートパンツに半袖の練習着を着ている。


「季節高校との対抗戦の日にどうテントとかを建てようかと確認しておきたくてな。練習はいいのか?」

「うん! 短距離組は今、長めの休憩なんだ。もし誠の時間があるならちょっと座って話そ?」


 集合まではまだ時間の余裕があるので、グラウンド入り口付近の段差になっている所に戦国と座り込む。陸上部としての会場に対する意見も聞かせてもらえるだろう。


「対抗戦のこと、この前顧問の先生から聞いたよ。結構いきなりだよね」

「ああ、色々調整がてこずっていたらしい。生徒会も秋城以外この前まで知らなかったんだ。部活をやってる奴には特に負担をかける。すまないな」


「誠が謝ることじゃないよ。誠も夏休みなのに生徒会で準備してくれてるんでしょ? ありがとね」

「まあ、それが生徒会の仕事だ」


「大変だね。陸上部はリレーで季節高校と勝負って言ってた。私も出るんだけど……誠の時間があったら応援に来てくれない?」


 戦国が少し恥ずかしそうに言葉を発する。


「ああ、いいぞ。陸上部がどっちの高校で対決するかはまだ決まってないが、ここでやるなら俺は四季高校の担当だから応援に来れる。頑張ってくれ」

「うん! 絶対に勝つ! 約束だよ?」


「俺は嘘をつかないし、約束も守る」


 戦国はガッツポーズをして笑顔になる。


「あ、そういえば走った後だから汗いっぱいかいてる。ごめん、誠、あたし汗臭くない?」

「全く気にならない。それにこの暑さなら練習で汗かくのも当たり前だ。そんなこと気にするなよ。それより、もしこのグラウンドでやるならどこで他の生徒は応援するほうがいい?」


 俺は真っ白な紙にグラウンドの大体の絵を書いて、戦国に見てもらう。


「それならここら辺にテントとかあるといいかもね。けどサッカー部や野球部がいたらここは使えないかも。あくまで陸上だけだとしたらね」

「ああ、助かる」


 その後も色々と戦国に意見を出してもらう。


「うう、誠……近いよ……」


 戦国の話を聞くのに集中しすぎたようだ。気付けば戦国とほぼ密着してメモ用の紙を見ていた。


「すまん。話に夢中になり過ぎた。気を悪くしたならごめんな」


 俺は戦国から少し離れた所に座りなおす。


「……そ、そんな訳ないよ。……うー、誠のばか! 何か聞きたいことがあったらいつでも来て。またね!」


 そう言うとすぐに戦国は立ち上がって陸上部の方へ言ってしまった。


 そんな訳ない? ばか? 色々と釈然とせずに戦国への罪悪感が湧くが、もう隣にいないのだからしょうがない。何が何だか分からないが、少し自分の行動を見直すか。


 また今度謝罪とお礼を言おうと思い、俺は生徒会室へと向かった。





 誠のばか……。こっちの気持ちも知らないであんなに近づいてこられたら何も考えられなくなっちゃうじゃん。


 誠とは偶然会うことが多いけど、今日はちゃんと言いたかったことを言えた。あとは陸上の会場がここになること祈り、本番で誠に良い所を見せるために練習するだけだ。


 けど一目惚れって本当にするんだな。フォークダンスの入場の時に誠に出会って会話して以来、胸がドキドキするっていうことがどんなことなのか分かった。私が恋愛小説や恋愛映画が好きなのは、恋というものに漠然とした興味と謎を抱いていたからかもしれない。


 私はフィクションの世界のような可愛いヒロインにはなれないと思う。けど好きになったからには追いかけるって決めた。足の速さなら自信がある。

 

 そういえばまだ誠の連絡先って私知らないよね⁉ このままじゃだめだ。今度会ったときに聞いてみよう。

 

 まだ午前中とはいえ、いつもなら夏の暑さに体が重たくなるが、今日は軽い。どこまでも走っていけるような気持ちで戦国は練習を再開した。





 生徒会室に入ると星宮がこれまで作成した対抗戦の資料を眺めていた。集合まではまだ時間があるので、生徒会室は二人きりだ。


「おはよう、早いな」

「誠君、おはよう。昨日までの三日間生徒会に来れなかったから、どんな風に準備が進んでいるのか顔合わせ前に確認しておきたかったのよ。仕事放ってごめんなさいね」


「いや、朝市先生も自分の用事が最優先って言ってただろ。気にすることはない。俺も他の奴もそれなりにしか生徒会に来てないしな」


 星宮は家族旅行で来れなかった分を取り戻そうと早めに生徒会に来たようだ。真面目な奴だ。


 俺はいつも座っている席に座って戦国と作ったメモを確認する。


「あら、それは何の資料?」


 星宮が俺の肩の後ろから顔を出してきて、一緒にメモを見る。その距離感はいつもなら気にならないが、戦国の件があったばかりなので無意識に椅子を動かして星宮と距離をとる。


「これはさっき陸上部の戦国に色々テントのこととか相談してたんだ」

「あー、六花ちゃんね。誠君って六花ちゃんと友達なの?」


「友達かどうかは置いておいて、フォークダンスの入場で一緒になって以来話すようにはなった。よく会うしな。それより星宮も戦国と知り合いなのか?」


「ええ、だって去年クラスが一緒だったもの。奏ちゃんもそうよ」

「へえ、そうだったんだな」


「それより誠君、私のこと今避けた? 何か気に障ることやっちゃったかしら?」


 そんな訳がないので困惑するが、いつもなら気にしないのに先ほど少し距離をとったことが原因なようだ。


「いや、そんなことは全くない。そう思わせてすまない。さっき戦国と話してた時につい戦国の近くに寄り過ぎて、戦国にばかって言われたんだ。別に気に障ったわけじゃないとは言ってくれたが、その後すぐに戦国は練習に戻って、感謝も謝罪も十分にできなかった。だから少し自分の立ち位置と行動を見直してみようと……。近づいても離れてもだめって、どうするのが正解なんだ?」


「なるほどね。どういう状況かあまり分からないから、ちょっと六花ちゃんとこれまでどんな風に関わったかを詳しく教えてもらえる?」


 俺は戦国とのこれまでを星宮に話す。そして聞き終わると星宮はいつものように明るく笑い始めた。


「ふふっ、そういうことね。安心して、誠君は特に何も変わらなくていいわ。けど今みたいに何も知らずに避けられたら事情を知らない人は傷つくこともあるから、そこだけ気を付けて。六花ちゃんの連絡先は知ってるの? ありがとうってメッセージで送ればいいんじゃない?」


「いや、知らない」


「そう、なら私が六花ちゃんの連絡先教えてあげるわ」

「戦国の知らない所でそれはまずいんじゃないか? 向こうも迷惑かもしれないし」


「いいからいいから。あの子も誠君と連絡したいはずよ。それにお礼は早めに言っておいた方がいいわよ」


 星宮に言われるまま戦国の連絡先を受け取った。本当にこれでいいのか分からないが、何かと察しがいい星宮がいいと言うなら少なくとも俺の判断よりは正しいのだろう。


『戦国、さっきはすまなかった。それと色々相談に乗ってくれてありがとう。また何かあったら聞くかもしれないからその時は答えてくれたら嬉しい』

『突然連絡したこともすまない。連絡先は星宮に教えてもらった。迷惑だったらブロックでもしてくれ』


 スマホにメッセージを打ち込んで戦国に送信した。


「うん! これで解決! 向こうは全然気にしてないと思うから誠君も変に引きずったらだめよ」

「分かった。助かったよ、ありがとう。何が悪くてどうすればいいか分からなかったから聞いてもらってよかった」


「いえいえ、けど誠君もこんなことで悩むとは意外と乙女ですなー」

「乙女なわけないだろ。ただ俺には人間関係についてまだまだ分からないことが多すぎる。嘘だと思って切り捨てたものと今関わっている。本当はそれらは真実なのか、それとも嘘なのかまだ何も分からないんだ」


「誠君の言うそれらが嘘だったどうする? これまでと同じように切り捨てる?」


「…………切り捨て……」



「おはようございまーす!」


 俺が言い終わる前に月見が生徒会室に勢いよく入ってきた。後ろには霜雪もいる。


「嘘か真実か、その答えが分かるまで誠君の選択は知らないようにしとくわ。さあ、今日もお仕事頑張りましょう」

「ああ」


 俺と星宮は席を立って、月見たちと顔合わせのための準備を始めた。

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