第9話 夏合宿前の買い物

第9話 どちらが真実かの誠の選択~夏合宿前の買い物~①

「で、なんで霜雪がいるんだ?」

 

 プールから数日後、そして合宿の数日前、俺は合宿に必要な物の買いだしと、美玖のショッピングに付き合うために市内有数のショッピングセンターに来ていた。そして美玖に連れられるまま多くの人が待ち合わせに使う広場に行くと、霜雪がそこにいた。


「美玖さんに聞いてなかったの? 私も合宿のために少し買い物をしようと思っていたら、美玖さんに一緒にって誘ってもらったの。美玖さん、今日はありがとう」

 

 お前は美玖のためなら用事がなくてもきそうだなと思ったが、口には出さないでおく。


「いえいえー、こちらこそ真実さんとお出かけできて嬉しいですー」

「おい、俺もいるの忘れるなよ」


「冬風君、嫉妬は見苦しいわよ」

「そうだそうだー!」

 

 霜雪と美玖が歩き出す。今日は長くなりそうだなと俺は覚悟を決めた。


 午前中は合宿用に泊まりに使える衛生用品や、収納のための小物を百均などで揃える。俺と霜雪は今年修学旅行があるので、その時に買い足さなくても良さそうだ。

 

 三人で回っていると時間がかかり、昼食の時間になった。美玖の提案により、フードコートで昼ご飯を食べることにし、俺と霜雪はラーメン、美玖はバーガーセットをそれぞれ買い、席に座る。


「まこ兄も真実さんもラーメンって熱くない? 今日外は三十度もあるよ」

「外はそうでも中は冷房が効いて冷えるからな。これくらいが丁度いい」

「そうね、どちらかというと少し冷えるわ」


「まこ兄が冷え性なのは知ってたけど真実さんもそうなんだねー」

 

 美玖は目を輝かせながらハンバーガーの包み紙を剥す。


「ねえ、まこ兄は学校でいつも誰と一緒にお弁当食べてるの?」

「生徒会室で一人で食ってるよ」

「うわー、最近生徒会の皆さんと一緒だったから忘れてたけど、まこ兄、性格自体はやっぱり昔とあんまり変わってないんだね」

 

 美玖が苦笑する。


「そうだったのね。夏野さんは一緒のクラスでしょう? 一緒に食事したりはしないの?」

「いや、夏野も夏野とよく一緒にいる奴も時々誘ってくれるが、誰かと弁当を食べるなんて慣れないし、生徒会室で一人ゆっくりするのが心地いいんだ」

「もー、誘ってもらえるなら素直に一緒に食べてもらえばいいのに」


「霜雪は誰かと一緒なのか?」

「私は生徒会に入ってからはずっと星宮さんと一緒に食べているわ。もともと星宮さんは生徒会に入る前から何度か誘ってくれてたのよ。今は星宮さんの友達とも少しづつ話せるようにはなってきたの」


「へえー、星宮って面倒見がいいんだな。それにしても一年の頃は俺もお前も教室で一人で弁当食ってたのに変わったな」

「ええ、あなたはより人がいない所へ行ったみたいだけど」


「成長だな」

「物は言いようね」


 霜雪が淡々と答える。去年の俺はまさか霜雪とフードコートで昼ご飯を一緒に食べるなんて思いもしなかっただろうな。


「美玖、どうかしたか?」

 

 美玖が俺と霜雪の顔を見て笑い始める。


「まこ兄と真実さんってそっくりさんだね。双子みたい!」

「霜雪と双子はごめんだな。いつか爆発して罵倒という言葉の刃で刺してくるぞ」

「それはこちらのセリフよ。お望みなら今やってあげましょうか」

 

 俺と霜雪はにらみ合う。


「そういう所がそっくりなのー! ほら二人とも喧嘩しない」


 美玖が俺と霜雪の口にフライドポテトをそれぞれ差し込む。


「減らず口がポテトで埋まって良かったな」

「あなたは足りてないみたいね。早くラーメンを食べたらどう? 伸びるわよ」

 

 結局、俺も霜雪も、笑いながらポテトをつまむ美玖の横で、少し時間が経って伸びたラーメンをすすった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る