第9話 どちらが真実かの誠の選択~夏合宿前の買い物~②
「よーし、じゃあショッピング開始!」
合宿に必要な物は大体午前中に買いそろえたので午後からは主に美玖の買い物に付き合うことになった。霜雪も丁度服を見て回りたかったらしく、美玖と一緒に嬉しそうに女性用のショップに入っていく。
「おい、さすがに俺はここには入らないぞ」
店内はもちろん女性客ばかりで、一人ほど彼女の買い物に付き合っている男性がいたが、俺にとって圧倒的アウェーであることには変わりない。
「俺も少し服買い足したいから他の所行ってるぞ」
「だめ! まこ兄服のセンスなくていっつも美玖が選んであげてるじゃん! お店に入らなくていいから、そこのベンチで待ってて」
そう言って美玖は霜雪の手を引っ張って店内に消えていった。店先に休憩用のベンチがあるにはあるが、むしろここに一人で座っている方が怪しくないかと思う。だが勝手にどこかへ行くと美玖が怒るのが目に見えているので、俺はどうせ長くかかるだろうなと諦めてベンチに座り、せめてもの策としてスマホで必死にニュースを確認する。
二十分ほど経っても二人は出てこなかった。やることがない分、時間の流れが遅く感じる。何もせずに過ごすというのは好きだが、ショッピングモールの喧騒はあまり楽しめるものではない。
座ったままで筋肉が固まって来たので、その場で伸びをすると「え⁉」と言う声が聞こえた。声の主の顔に目をやるとその人物は戦国だった。
「ま、誠⁉ なんでこんな所に⁉」
「戦国か。なんでって買い物の付き添いだよ。あいつらのな」
俺は丁度ベンチからでも見える場所で服を選んでいた霜雪と美玖を指さす。
「霜雪さん⁉ それに隣の可愛い女の子は誰⁉ あの子が誠の彼女さん⁉ え、でもそうだとしてこれどんな状況⁉ 訳が分からないよー」
「訳が分からないのはお前だ、戦国。なんでそう誰かを俺の彼女にしたがる? 霜雪の隣にいるのは俺の妹の美玖で、美玖が誘ったから霜雪と一緒に買い物に来てるってだけだ」
「そ、そうなんだ」
戦国がなぜかほっとしたような表情をする。
「戦国は映画か。一人で来たのか?」
「え⁉ なんで分かったの?」
「なんでってお前が映画の前売りチケットを手に持ってるからだろ。まだ映画館に着いてないのにもう持ってるってよっぽど楽しみだったんだな」
「こ、これは無意識で……。自分でも全然気付かなかった……」
戦国が恥ずかしさからか下を向くが、俺はベンチに座っていて、戦国は立っているのであまり赤くなった顔は隠せていない。
「え、映画は一人で見るのが好きなんだ。じっくり観る前の楽しみや、終わった後の余韻を楽しめるから」
「そうか、俺と一緒だな。まあ、俺は一緒に映画観る奴なんて今までいなかったから、みんなで観る映画を想像できないだけだけど」
戦国が少し唇を噛む。
「じゃ、じゃあ今か……」
「まこ兄、ちょっと来てー」
美玖が店から出てきて俺を呼ぶ。
「あれ? まこ兄のお友達?」
「同じ学校の戦国だ」
「へー、モデルさんみたいなスタイルですっごく可愛いー! まこ兄、ちょっと一緒に来て! それとも戦国さんとどっか行っちゃう?」
「いや、戦国は今から映画だ。それより戦国、さっき何か言いかけてなかったか?」
「ううん! 何も言ってないよ。誠またね!」
戦国は手を振ってエスカレーターの方へ向かって行った。
「で、何の用?」
「真実さんに似合う服があったんだけど、どっちにしたらいいか美玖と真実さんで決められなくて……。だから仕方なくまこ兄に任せるということで」
「もっと別の言い方があるだろ。それに俺にセンスはないんじゃなかったのか?」
「だって本当のことだもん。大丈夫、まこ兄にセンスはないけど、候補の二つそれぞれ美玖と真実さんが選んだやつだから、どっちも選んでもセーフだよ。ほら、お店に入って」
美玖に引っ張られるがままに店内に入り、霜雪が待っている所に行く。
「冬風君、悪いわね。私と美玖さんでそれぞれ選んだのだけれど、どちらにしようか決められなくて。最終手段だけれどあなたに委ねるわ」
霜雪は二つのワンピースを手に持っている。一つは白が基調のもの、もう一つは紺が基調のだ。
「お前もつくづく俺を下げる言い方をするよな。内容が同じなら、人を頼る時は少し言い方を変えろよ。まあ、こっちの方が似合ってるんじゃないのか?」
俺は白のワンピースの方を指さす。
「どうしてそう思うの?」
「霜雪に暗色はどっかの映画に出てきそうな魔女な感じがするし、白い方が名前の通りだろ。雪みたいで綺麗じゃないか」
「そう、じゃあこちらにするわ。お会計してくるわね」
霜雪はワンピースを持ってレジの方へ行った。
「あー、まこ兄なら美玖の方を選ぶと思ったのになー。あのワンピースなら可愛くもかっこいい感じの真実さんが見れると思ったのに。裏切者―!」
ということは俺が選んだワンピースは霜雪が選んだものだったらしい。
「裏切りも何も、俺はどっちがどっちかなんて聞いてないだろ。ま、聞いてても白いほうを選ぶとは思うけど」
「へー、まこ兄ってあんな感じなのが好きなんだね。新しい発見」
「好きとかはないけど霜雪にはより似合うだろうってだけだ」
美玖と話してると霜雪が帰ってきた。
「じゃあ、次はまこ兄の服だー!」
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