第5話 誠の想いは何と踊るのか~初めての体育祭~④

 体育祭の準備はこれまでの生徒会の比にならないほど大変で、毎日生徒会室は遅くまで電気が点いていた。ただ、朝市先生と小夜先生がよく生徒会室に顔を出してくれたおかげで、なんとかそれぞれの仕事は上手く回り、体育祭開催の日を迎えた。


「よーし、今日は遂に体育祭だな。このクラスは白組か。怪我だけないように、あとは全力でやってこい。男子はこのクラスで四組の男子と更衣。女子は四組の教室で更衣な。貴重品は俺が預かっておくから、体育委員が一つにまとめて後で俺に渡しに来い。財布とかが必要になったら、俺のところに来たら渡すからな。じゃあ、ホームルームは終わり。準備してグラウンドに集合な」

 

 朝市先生が連絡事項を伝え終え、女子は荷物をまとめ、隣のクラスに、男子はそれぞれ体操服に着替え始める。


「誠、今日は頑張ろうな!」

 

 三上が明るく話しかけてくる。三上のような人間は体育祭の時ほど輝く。クラスの士気を高めるリーダー的にな存在だ。


「ああ、まあ俺は俺ができることをするよ。お前はクラス対抗リレーのアンカーだろ? その前に怪我とかするなよ」

「ああ、分かってる。ありがとな」


「誠、今日は負けないよ」

 

 聞きなれた声が後ろから聞こえ、振り向くと秋城がいた。秋城は四組なので三組のこの教室に更衣しに来たのだ。


「お前かよ、びっくりした。負けないもなにも紅組対白組の団体戦なんだから俺にそんなこと言われても知ったこっちゃないぞ」

「紅組対白組か。どうして生徒会の中で僕だけ紅組なのかい? 生徒会でも僕はみんなと離れた位置に座っているし、なんだか寂しいよ」


「そんなこと知るかよ。お前の普段の行いが悪いんだろ」

「そんな。僕はこの学校の生徒のために日々血反吐を吐きながら活動しているというのに」


「そういうところだよ」

「まあ、そんなことはいいとして、種目の中に徒競走があるだろう。あれは身長順で走順が決まるから、調べたところ、僕と君は同じ組で走ることになる。それは僕と誠の個人戦だ」


「そんなことわざわざ調べるなよ。まあ手、とういか脚は抜かないからな。負けても泣くなよ」

「体力テスト学年一位の僕に勝つというのかい? それは楽しみだ」

 

 秋城は俺と話しながらでも素早く着替えを終え、先に教室を出ていった。


「なあ、誠。お前体育祭の間は基本的にどこにいるんだ? 一般の生徒はそれぞれクラスのテントがあるが、生徒会は何か別のブースがあるのか?」

「ああ、生徒会は生徒会のテントがあるから基本そっちにいるよ。放送の手伝いとか雑用が色々あるからな」


「なるほどな、裏方の作業ありがと。クラス写真とか、なんか用があったらそこに行くとするよ」

「ああ、でも別にクラス写真とかでわざわざ呼びに来なくても、勝手に撮っててくれていいぞ。俺がいなくても誰も気にしないだろ」

「どうだろうな。少なくとも俺は気にするから、そうはさせない。じゃあ、今日一日頑張ろうぜ!」

 

 俺も三上もほぼ同じタイミングで準備が終わり、グラウンドに向かった。まずは開会式だ。

 


「天気に恵まれ、絶好の条件の中で今日、体育祭を迎えられたことを嬉しく思います。体育祭の開催に当たっては、多くの部活、生徒、先生の皆様にご協力を頂きました。この場を借りて改めて感謝を述べさせて頂きます。ありがとうございました。


 今年の体育祭のスローガンは、『みんなで楽しむ体育祭~夏の大合戦~』です。体育祭というのは紅組と白組の戦い、合戦ですが、何よりも大切なのはみんなでそれを楽しむことです。もちろん、みんながみんな楽しむということが困難であるということは分かっています。しかし、困難だからと言って、それを目指さない理由にはなりません。そのために、様々な人と協力して、この体育祭のため準備してきました。


 全員が全力を出し、喜んだり、悔しがったりしながら、それらを全て楽しんでやりましょう。今日はよろしくお願いします!」


 月見の体育委員長としての挨拶や、その他の開会式のもろもろ、準備体操はつつがなく終わった。


「緊張したー」

 

 本部の近くにある生徒会のテントの中で月見がほっとしたように呟いた。このテントには生徒会のメンバーと朝市先生、小夜先生が基本的に常駐することになる。


「大ちゃん! 挨拶すごくよかったよ!」

「ああ、僕が付きっきりで練習したかいがあったよ」

「奏先輩、政宗先輩、ありがとうございます」


「堂々としててよかったぞ。大勢の前で話すことは今後の役に立つから経験出来て良かったな」

 

 朝市先生も月見を労う。


「午前は徒競走、学年、男女それぞれの競技。それからお昼を食べて、クラス対抗リレーの予選、男子のよさこい、女子のダンス、フォークダンス、その他いろいろがあって、クラス対抗リレーの決勝。大体あなた達に関係あるのはこんなとこかしらね。自分たちの競技に遅れないように。ここはクラステントじゃないから周りについていくってできないからね。それと救護テントや放送テントで、もし人手不足が起きたら手伝ってもらうからそのつもりでいてね。あとは体育祭を全力で楽しんでらっしゃい」

 

 小夜先生が確認事項を正確に伝えてくれる。


「小夜先生ありがとうございます。じゃあ、大地も咲良も徒競走がすぐに始まるからもう入場口に行っていいよ。頑張って」

 

 一年生コンビは張り切りながら入場口に向かった。


「一年生の後に僕ら二年生の徒競走だ。しばらくここで応援しよう」

「ああ、お前だけ紅組だがな」

「ひどいな誠」

「ほんとだ! 政宗君だけ紅組だね」

「日頃の行いのせいよ」

 

 星宮が笑いながら秋城に言い放つ。


「誠にもさっき言われたが、いったい僕が何をしたって言うんだい?」

 

 秋城も笑いながら答える。


「じゃあ、俺は紅組を応援してやるよ」

「朝市先生! 先生はあたしたちの担任なんだから、白組を応援してくださいよー」

「じゃあ私が応援してあげるわ」

「小夜先生は私達二組の担任ですよ」

 

 霜雪も夏野と同じように指摘する。それを聞いて小夜先生は優しく笑う。


「そうね、秋城君、やっぱりあなたは一人で紅組を応援して」

「このテントは敵ばかりですね。紅組が優勝した時が楽しみです」

「いい性格してるな」

「君こそだよ、誠」

 

 秋城と目が合いにらみ合う。たかだか体育祭の徒競走と言えども、秋城に負けるのはごめんだ。秋城もそうだろう。バッティングセンターに行った時みたいに筋肉痛にならないように、今日は念入りに準備運動をしておこうと誓って、月見や春雨の応援に集中した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る