第5話 誠の想いは何と踊るのか~初めての体育祭~⑤

 一年の徒競走が終わり、次は俺たちの番だ。入場した後は、自分の順番が回ってくるまで応援でもしながら待っておく必要がある。


「やはり僕たちは同じ組で走ることになるね」

「ああ、そうだな。今更なんだが、なんで高校にもなって徒競走があるんだ」


「さあ、うちの高校はずっとそうだからとしか僕は言いようがないね。けど、足の速い男子はモテる。絶好の機会じゃないか」

「小学生までの話だろ、それ。それにお前は足が速くなくてもモテるし、そもそもモテたいなんて思ってないだろ」


「そんなことはないさ。僕はそのために常日頃から努力しているんだよ」

「大勢にモテたいなんて理由で、努力は続かない。誰か大切な人でもいるんだろ」

 

 何の気もなしに言ったが、秋城から一瞬微笑みが消え、沈黙が流れた。


「君がそんなロマンチックなことを言うなんて思わなかったから動揺してしまったよ。おっと、僕らの番が来たようだ。負けないよ」

 

 それぞれのレーンに走者が準備し、名前が放送で呼びあげられる。同時に走るのは四人。俺と秋城以外の二人はどうやら運動部ではなさそうだ。となるとやはり勝負は秋城との一騎打ちになるだろう。運動神経、体力も優れている秋城だが、純粋な走力はどうなのか。小学生のころから、とにかく走るのは得意だった。人間関係の問題で、モテるなどということは決してなかったが。


「位置について、よーい……」

 

 ドンっという空砲の音でそれぞれスタートを切る。一番内側のレーンの俺は他の三人の後ろを追うことになるが、秋城以外の二人はスタートの反応が鈍かった。やはり勝負は秋城との一騎打ちだ。スタートして十メートルほどだが、秋城はずば抜けて速いのが分かる。直線では確実に秋城の方が速いだろう。コーナリングでその差を縮めるしかない。


 コーナーに差し掛かり、俺は精一杯、ギリギリバランスが保てるところまで体を内側に傾ける。よし、コーナリングは俺の方が得意なようだ。最後の直線に入った段階でほぼ拮抗、若干俺の方が有利か。このまま逃げ切れ。走れ。秋城の鼻を明かしてやれ。


「一着! 紅組、秋城。二着! 白組、冬風。三着……」

 

 勝てなかった。やはり直線で秋城に追い抜かれてしまった。


「予想以上だったよ。こんなに誠が速かったとは」

「お、俺は息が切れてるのに、お前は余裕そうだな」

「そんなことはない。体力があるから息は切れていないが、全力で走った。いい勝負だったよ」

 

 秋城が手を差し出してくるが、俺はそれを振り払う。


「今回はお前の勝ちだが、いつかお前に二番を味合わせてやるよ」

「そうか、それは楽しみだ。ずっと一番が僕の人生だからね」

 

 秋城は涼しい顔をしながらいつものように微笑んでいる。


「おい! 誠。お前こんなに足速かったのかよ! 秋城とほぼ互角って凄いな!」

 

 一つ後の組の走者だった三上が話しかけてくる。三上は高校では部活に入っていないものの、中学の頃はバリバリのサッカー部だったと言っていたので、秋城と同じように走った後でもあまり息が切れていない。どうやら一着だったようだ。


「まあ、昔から足は速かったが、俺は二着だ。一着おめでとう、三上」

「サンキュー! それにしてもいい走りだったな。クラス対抗リレーの選手になってもらえばよかったぜ」


「ずっと運動してなかったからそんな体力はねえよ。お前が頑張ってくれ。アンカーだろ」

「ああ、任せとけ!」

 

 もともと俺らは後の方の走順だったので、ほどなくして二年の徒競走が終わった。



 「まこちゃん! 政宗君! 二人ともすっごく速かったし、いい勝負だったね! なんか良きライバルって感じがした!」

 

 生徒会のテントに秋城と戻っている途中、夏野、霜雪、星宮も俺らに追いつき話しかけてきた。


「誠君って意外と体力あったのね」

「ええ、もっとインドアな人間だと思っていたわ」

「星宮、霜雪、お前ら俺には遠慮なく失礼だよな。俺だって昔は外で元気に走り回ってたんだよ」

「へえ、誠君のそんな姿想像できないわ」

「想像しなくていいよ」


「よう、お前らお疲れ。いい走りだったぞ」

 

 テントに入ると朝市先生や小夜先生、一年コンビが迎え入れてくれた。


「ちゃんと水分補給しなさいね。生徒会が熱中症になったら示しがつかないわよ」

 

 小夜先生が俺らの水筒やペットボトルが入っているケースを渡してくれる。


「ありがとうございます。次の競技は二年男子の騎馬戦か。さっき小夜先生が連絡してくださったように、それぞれスケジュールを確認して自分の競技に遅れないようにね」

「はーい!」

 

 午前の競技は特に問題も起こらずに進行していった。

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