第5話 誠の想いは何と踊るのか~初めての体育祭~②

 その日の放課後、俺はいつも通り、目安箱を回収して生徒会室に行った。自分の席に座り、中身を確認する。


「あれ、なんか今日はめっちゃ紙入ってるぞ」

 

 少し生徒会室の空気が変わったが俺は気にせず、半分に折れた紙を開く。


「なになに、『生徒会室を掃除してほしい。少し汚い』へえ、この部屋を掃除してほしいのか。こんな要望を生徒会以外の奴が書くわけないよな。おい、星宮、これお前が入れたろ」

「え⁉ な、なんのことかなー。わ、私はそんなこと書いてないよー」


「これはお前の筆跡だろ。生徒会のメンバーの筆跡は大体覚えたんだよ。こんだけ一緒に仕事してたらな。はい、俺は嘘が嫌いです。三、二、一」

「あー! はいはい! 私が書きました! 誠君に何か仕事あげようと思って」


「なんでそれが掃除なんだ。まあ、確かに生徒会室は最近汚いからあとで全員でするぞ。全く。じゃあ次の紙開けるか。『誠先輩! 先輩なら心配しなくてもいつかたくさんの相談が来ますよ!』」


 俺は続けてもう一枚開く。


「『まこちゃん! 頑張って!』おい、月見、夏野、これお前らだろ。筆跡見るまでもねえ。なに普通に励ましの言葉を目安箱に入れてんだよ!」


「ひい! ま、誠先輩、相談が少なくて落ち込んでたから元気づけようと」

「そうそう、まこちゃんが喜んでくれたらいいなーって」


「そういうのは直接言ってくれ! なんか期待しただろ。あと気遣ってくれてありがとう。別に仕事なくて落ち込んでたわけじゃねえよ。……さすがに次のは普通の要望だろ。『目安箱の数を増やしてはどうでしょうか?』ほら、ちゃんとした要望もあったな。そしてこれは春雨が書いたな」


「え⁉ ち、違います、よ?」


「これは春雨の筆跡だ。お前も気遣って直接俺に言わず、わざわざ目安箱に入れてくれたんだな。ありがとう」

「い、いえ…… す、すみません」


「謝ることはねえよ。真っ当な意見だ。目安箱の数を増やすよ。あと三枚も入ってんな。『冬風君、うるさいわよ』」

 

 俺は隣の霜雪を見るが、霜雪はこちらを無視する。


「霜雪。直接言えばいいだろ……」

 

 さらに俺はもう一枚開く。


「『誠、落ち着きたまえ』秋風、お前もか。なに霜雪と一緒に予言みたいなことしてんだ。おい! 星宮、笑うな! 全く、全部お前らの投書じゃねえか。示し合わせたのか?」

「いや、そんなことしてないよ! みんな昨日のを聞いて、まこちゃんのためにやったんだね! なんか息ぴったりって感じ!」


「そうかい、それはありがとう。ん? じゃあ、この最後の紙は何だ? 本当の投書か?」

 

 俺は最後に箱に入っていた一枚を開き、それを閉じた。生徒会の気遣いで少し高揚していた心が一気に冷たくなった。


「どうしたの? 最後の紙になんて書いてあったの?」

 

 これは生徒会のメンバーの筆跡ではない。そもそもこのような内容を書くようなやつは、この生徒会にはいないことはこの一か月足らずでもう分かっている。ただ、これを書いた奴が学校にいるというのは確かだ。それに酷く吐き気がする。


「まこちゃん、何が書いてあったの?」

 

 夏野が俺の手からその紙を取り、開く。


「え? 『シモユキマミハタイイクサイニデルナ』ってどういうこと?」

 

 本格的に夏が近づいてきた今日この頃。生徒会室の空気は冬が来たように冷たくなった。

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