第4話 彼、彼女は嘘をつくのが得意である~ダウト~②
「冬風、ダウトだ」
「霜雪、ダウト。持ってけ」
「朝市先生、ダウトです。どうぞ」
硬直した試合を眺めながら星宮が爆笑する。
「この三人、自分が嘘をつくのは下手なのに、他の人の嘘には敏感なのね」
「そうだね、面倒くさい性格だ」
「まこちゃん! 真実ちゃん! 朝市先生! みんな頑張れー」
周りの囃し立てもむなしく、勝負の決着は全くつく様子はなく、十分ほど経ったところでノーコンテストとなった。
「史上最悪の泥仕合だったわね」
「しばらくはダウトは封印するか」
星宮と月見がトランプを片付けた。
「霜雪、勝負の決着はまたつけよう」
「ええ、あなたが雑魚ってことを今度は完全に証明してあげるわ」
「まこちゃん、真実ちゃん、落ち着いて」
にらみ合う俺と霜雪の間に夏野が入ってきて制する。
「いい感じに親睦は深まったようだね。ところで朝市先生、小夜先生、何か用があってこちらにいらしたのでは?」
「おお、そうだそうだ。仕事も落ち着く頃だと思ったから、生徒会の集合写真を撮りに来たんだよ。全くそういうのやってなかっただろ?」
「そう、生徒会みんなでの記録は積極的に残しておかないとね。いつか振り返ってみると懐かしいものよ」
「そういうことでしたか。じゃあ、テーブルを端によけて、スペースを確保しよう」
朝市先生がカメラの準備をする間に、秋城の采配で撮影場所を整える。
「よし、じゃあ、並べー」
「ちょっと、まこちゃん、真実ちゃん、にらみ合わないでよー」
なんとなく隣同士になっていた俺と霜雪の間に夏野が入ってくる。
「ほら、二人とも笑って?」
「大地、あんた私より小さいんだから前列に行きなさいよ」
「空、小さいって言うな! 俺は成長期なんだよ!」
「咲良、僕の隣に来てくれる? みんな後列に行って、僕だけ前列って寂しいよ」
「あ、はい。私でいいなら」
「輝彦、あんた反対側に行きなさいよ」
「あ? なんでだ? どこでもいいだろ」
「バランスってものを考えなさい。ほら!」
「おい、押すなよ! あ、お前ら笑え! シャッター切れるぞ。三、二、一!」
その瞬間全員がカメラの方へ向く。どんな写真が撮れているのだろう。集合写真を取る時は、誰とも話すことなどなく、ただ真顔で写真に写るだけだった。楽しくもないのに笑えるはずなどない。嘘の笑顔は見ていて悲しい気持ちになる。
今俺はどんな顔をしているだろう。これまでと同様に真顔なのか? それとも笑顔なのか? 笑顔だとしたら、俺は今この瞬間を楽しんでいるのか? 分からない。自分は今という瞬間に何を感じているのだろう。
「朝市先生! どんな写真か今見れます?」
「ああ、デジカメだから見れるぞ。ほら夏野」
夏野が受け取ったデジカメを顔を引き寄せて全員が眺める。
「みんな、いい笑顔だね!」
夏野が嬉しそうに声を上げる。
「大地、あんた、なんて顔してんの? 笑顔引きつってるわよ」
星宮が腹を抱えて笑う。
「うるせえ! 写真で笑うの苦手なんだよ! うわー、政宗さん、いい笑顔してんな。咲良は緊張で顔赤いな」
「だ、大地君。あんまり言わないで。は、恥ずかしいよ」
「咲良、いい笑顔だよ。少なくともみんな大地より笑えてるよ」
「ちょっと政宗先輩!」
「おーい、次はスマホでも取るぞ。あとでお前らに転送してやるよ」
もう何枚か朝市先生のスマホで写真を撮った。
「朝市先生、私に写真送ってくださーい。あれ、朝市先生のスマホの待ち受けも集合写真? それに生徒会室?」
「うおっと! これは個人情報だ、夏野。ほら、送るぞ」
「ありがとうございます!」
みんなで夏野の周りに集まり、少し遅い連絡先交換大会が始まった。
写真撮影が終わり、生徒会のメンバーが帰宅して、生徒会室は小夜と朝市の二人きりになった。
「ねえ、あの時の集合写真待ち受けにしてるの?」
小夜がニヤニヤと笑いながら朝市に問いかける。
「そ、そうだよ。写真写りがよかったんでな」
「ふーん、そうなんだ。あの写真、私も待ち受けにしてるわよ。写真写りがよかったから」
「へえ、そうかよ」
「あの時の生徒会もこんな風に明るい雰囲気だったわね。色々事情があってできた生徒会だけど、楽しそうにやっててくれてよかったわ」
「ああ、そうだな。少し安心したよ。まあ、俺らとあいつらは違うからな。ゆっくり見守ってやろう」
「あら、今回も大人な発言ね」
「当たり前だ。俺らがここにいたの何年前だと思ってる」
「そうね」
また小夜は朝市に向かって微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます