第4話 ダウト

第4話 彼、彼女は嘘をつくのが得意である~ダウト~①

「終わったー!」

 

 矢作と的場の一件から数日後、生徒会の引継ぎに関する仕事が一段落ついた。


「みんな、お疲れ様。これからは一定量の仕事はあるものの、何も行事がないとき以外は、これまでよりかは楽なはずだよ。まあ、もうそろそろ体育祭の準備が始まるが、今日のところはもうお開きにしようか?」

「政宗先輩、生徒会の親睦を深めるためにトランプでもしましょうよ!」

 

 月見が仕事が終わったからなのか、いつもよりテンション高めに秋城に提案する。


「大ちゃん! ナイスアイデア! みんなでやろ!」

「そうね、新生徒会になってから仕事続きだったし、気分転換にやってもいいわね」

 

 夏野と星宮が賛同し、ソファのところにあるテーブルの上を片付け始める。


「僕もみんなに賛成だ。トランプその他娯楽関係のものは生徒会室に備え付きであるよ。先輩方が残していってくれたんだ」

 

 秋城は棚の引き出しから、トランプを取り出す。


「仕事が終わったんなら俺は帰るぞ。他の奴らで楽しんでくれ」

「私も帰らせていただくわ。あまりトランプなどはやったことがないの」

 

 俺と霜雪は荷物をまとめる。


「二人とも待ちたまえ。これは生徒会の親睦を深めるためのものだ。君たちが負ける姿を他の人に見られるのが嫌なのは分かる。けど、戦いもせずに敵に背を向けるのは、もっと滑稽だと思うけどね」

 

 秋城があたかも自分が勝者ですよという顔でこちらに言ってくる。


「おい、誰が滑稽だって? そもそもなんで俺が負けるのが前提みたいになってんだ」

 

 下野ほどではないが、俺もゲームなどに関しては昔から負けず嫌いだ。ただ、対面でゲームを誰かとやることなどなかったので、オンラインでの性格だが。


「秋城君、聞き捨てならないわね。私は負けるのなんて怖くないわ。そもそも負けること自体があまり考えられないわね」

 

 霜雪、お前もか。つくづく俺とお前は似ているな。


「なあ、咲良。あの二人って負けず嫌いだったんだな。というか誠先輩と真実先輩ってマジで似た者同士だよな」

「う、うん。政宗さんもそれが分かっててあんな風に煽ったんだと思うよ」

 

 一年コンビがコソコソとこっちを見て笑っているような気がするが、関係ない。秋城に一泡吹かすチャンスだ。売られた喧嘩は買ってやる。


「じゃあ、何のゲームします?」

「そうだね。誠がいることだし、ダウトをやってみようか。面白いことになりそうだ」


「おい、秋城。俺は嘘をつかない。だが、ゲームと現実は違うぞ。やってやるよ」

「私はルールが分からないからしばらくは見学しておくわ」

「わ、私も外から見てる方が楽しいので、見学しておきますね」

 

 霜雪と春雨がひとまず見学になり、俺、秋城、夏野、星宮、月見の五人での戦いになった。



「誠、ダウト」

「まこちゃん! ダウト!」

「誠君、ダウトよ」

「誠先輩……。ダウトです」

 

 数試合行い、結果は惨敗だった。


「誠、気にすることないよ。誠はゲームでも嘘をつかない正直者なんだね」

 

 秋城が爆笑しながら俺の手に肩を乗せてくる。俺はそれを下を向いたまま振り払う。


「まさかとは思ったけど、誠君とダウトって、相性最悪ね」

「最後の方、なんかダウトって言うの申し訳なかったですもん。それにしても政宗先輩と奏先輩強すぎですよ。いつ嘘言ってるか全然分かんないし、全部二人のうちどっちかが勝ったじゃないですかー」


「えへへー。こういうのあたし得意なんだー」

「まあ、当たり前の結果だね。奏が思いのほか強敵だったが」


「冬風君、あんなこと言っておいて、あなたとんだ雑魚だったのね。ルールは分かったわ、その位置変わりなさい」

 

 あからさまに煽ってくる霜雪に反抗する元気など俺には残っていなかった。大人しく席を立ち、霜雪に譲る。


「じゃあ、始めましょうか」



「ダウト!」

「ダウトだよ」

「真実ちゃん、ダウトよ」

「真実先輩、すみません。ダウトです」


「な、なんで……」

 

 数戦やって霜雪も俺と同じく惨敗。勝者はこれまた夏野と秋城の二人だった。


「おい、霜雪。俺のこと雑魚って言ってたよな? この結果は何だ。そもそも何で俺がダメだったのに、お前が勝てると思ったんだよ」

 

 少し元気が戻って来たので先ほどの仕返しに霜雪を煽る。


「うわー、まこちゃん」

「誠先輩、とんでもなくみっともないです」

 

 夏野と月見が憐みのまなざしを俺に向け、秋城と星宮が爆笑する。霜雪は唇を噛んで、頬を膨らまし、ムーっとした表情でこちらを見てくる。こんな表情もするんだなと思っていたら罪悪感が湧いてきた。


「すまん、自分を棚に上げて煽り過ぎた」

 

 霜雪はプイっと顔を逸らす。


「別にいいわ。私はあなたと同じく雑魚だという受け止めきれない現実に絶望していただけよ。まあ、冬風君の方が雑魚だとは思うけど」

「おいおい、言ったな、霜雪。俺とお前どっちが雑魚か決めようか」

 

 俺が加わり、もう一戦しようとしていたところで生徒会室の扉が開いた。


「おーいお前ら、そろそろ引継ぎ関係の仕事終わる頃だろ。ってもう終わったようだな。何やってんだ?」

「みんなー、あんまり顔出せなくてごめんね」

 

 入ってきたのは生徒会担当の教師、朝市先生と小夜先生だった。


「お、トランプやってんのか。ちょっと俺も混ぜてくれよ」

「あら、輝彦がやるのなら私も混ぜてもらえる?」

 

 二人は注意するどころか、嬉しそうにテーブルにやって来た。


「あ、じゃあ、あたしのところに入ってください! 今ダウトしてたんですよー」

「僕も抜けますのでこちらにどうぞ」

 

 夏野と秋城が二人に席を譲って、もう一戦することになった。



「輝彦、ダウトよ」

「ダウト、輝彦。全部持っていきなさい」

「ダウト、はいどうぞ」

 

 朝市先生をことごとく小夜先生がダウトしていく。しかも全てダウトは成功だった。


「おい、涼香! 俺ばっか狙い撃ちにしてんじゃねえ!」

「あら、そんなつもりはないわよ。あなたが分かりやすいってだけよ」

 

 小夜先生が笑いながら答える。確かに朝市先生もこのゲームは得意じゃないようだ。結局この試合は小夜先生の勝利に終わった。


「小夜先生、強い!」

「そんなことないわ。この三人が嘘をつくのが下手なだけよ」

 

 うなだれている俺と霜雪、朝市先生に小夜先生がとどめを刺す。


「ねえ、この正直者たち三人でやらせたら面白いんじゃない?」

「いいですね、この二人はどっちが雑魚か決めたがっていたので丁度いいでしょう」

 

 秋城が賛同する。望むところだ。さすがにこの中でなら俺でも勝てる。

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