第3話 彼らどちらが嘘つきなのか~二つ目の相談~④

 次の日の放課後、俺はまた隣の教室を使うために、ひとまず生徒会室に顔を出した。


「秋城、隣の教室使わせてもらうぞ。それに月見もちょっとの間借りる」

「ああ、構わないよ。その顔は、謎は解決したって顔だね。また後で真相を聞くとするよ」

 

 秋城は相変わらずニヤニヤしながら、答えてくる。


「誠君、ほい!」

 

 星宮が鍵を投げて渡してくれる。


「じゃあ、また後でな」

 

 俺は隣の教室に行き、椅子を準備する。月見が矢作と的場をそのうち連れてくるはずだ。

 

 十分ほど待っていると、三人がやって来た。月見にも何も話していないので、三人とも何を俺に言われるのか全く分かっておらず、不安そうな顔をする。俺の隣に月見が座り、その対面に、矢作と的場を座らせたところで話を始める。


「急に来てもらって悪いな。真相が分かったからこれからお前らに伝える。じゃあまずは二人ともこの前の土曜日、誰と何をしていたか言ってくれ。何も隠す必要はない」

 

 二人は少しの間黙るが、的場が先に口を開く。


「双田と朝から夕方まで遊んでました」

 

 それを聞いて矢作が抗議する。


「おい! 嘘つくなよ! 俺もその日双田と遊んでたんだよ! ずっと一緒だったからそれはあり得ねえ!」

「はあ? 何言ってんだよ! 俺もその日双田とずっと一緒にいたんだよ! ていうか、いつどこで双田をデートに誘ったんだよ」



「金曜日に図書館でだ。お前こそいつの間に」

「俺も金曜日にバッティングセンターでだよ! あり得ねえだろ!? 金曜も土曜も双田は俺と一緒だったんだぞ!」


「ま、誠先輩。どういうことですか、これ? どっちかがあり得ない嘘をついているんですか?」

 

 困惑した月見が俺を見てくる。


「じゃあ、一つずつ確認しよう。まず、土曜日に双田夢と遊びに行っていたのは矢作だ」

「そ、そんなばかな! 冬風先輩! 俺は嘘なんかついてないです! 金曜日に俺が双田をデートに誘うの冬風先輩も見てたじゃないですか!」


「そうだ。俺は確かに金曜日に双田と的場をバッティングセンターで見た。ただ、その日に矢作が図書館で双田をデートに誘ったっていうのも嘘じゃない」

「え、どういうことですか? そもそも図書館とバッティングセンターに同時に双田がいるのは不可能だから今回誠先輩に色々調べてくれたんですよね」

 

 月見はより困惑する。


「ああ、真実はこうだ。矢作は図書館で双田夢と出会い、そいつを好きになり、土曜日にデートに行った。そして、的場はバッティングセンターで双田と出会い、好きになり、これまた土曜日にデートに行った。ただし、的場が好きになったのは、双田は双田でも、双田のぞみという人物だ」

 

 的場は俺が言っていることをいまいち受け止めきれてないのだろう。何も言わず呆然としている。


「双田望は双田夢の双子の姉だ。うちと姉妹校の季節高校に通っている」

「そ、そんなばかな。だって、うちの制服着ていましたよ?」


「お前が見たのはブレザーを着た双田じゃなくてカッターシャツを着た双田だろ。うちと季節高校の制服はベースが同じで、女子の場合はブレザーに付けているリボンの色で判別できる。ただ、カッターシャツの状態では胸のバッジで判断するしかないが、うちのバッジと、季節高校のバッジはこれまた似ていて、意識してみないとその違いは気付かない。ただでさえ、胸のバッジなんて見ないしな」

 

 そうだ。俺が最初に双田望をバッティングセンターで見た時に感じた違和感はこのバッジだ。俺は目が良いし、普段見慣れているものとの違いには敏感なほうだ。そんな俺でも、違和感の正体はすぐには分からなかったが。


「ということでだ。双田が二人いるんだったら、二か所に双田が同時にいるのは当たり前だ。お前たちはどっちも嘘をついていなかった」

「でも、俺が会った双田は、双田望は、自分が俺の思っている双田じゃないって、少しも一緒にいた時に言わなかった。なんでだ。俺は矢作とのことも全部話して、言い出すタイミングはいくらでもあったのに」


「それは、双田望は不安だったからだ。双田望も的場のことがずっと気になっていた。それで、向こうから話しかけてきてデートに誘ってくれたのに、的場は自分を双子の妹の方だと勘違いしている。的場が好きなのは双田夢であって、自分自身ではない。しかし、いずれはバレるにしても、妹だと装えば的場と少しの間一緒にいることができる。そんなことを考えて、お前に双田夢として接したんだよ。


 双田夢本人もそうだ。二人は金曜日にお互いの情報を共有し、土曜日にお前ら二人の勘違いの真実を知った。それで少しの間だけこの勘違いをそのままにして、自分たちを、それぞれのことをお前らに知ってもらってから真実を伝えることにした。ただ、俺に真実を知られて二人はそうすることを止めた。俺に真実をお前らに話させ、あることをすることにした。


 ここから先はお前たちの問題だ。よし、入っていいぞ」

 

 俺が呼び込むと、二人、人が入ってきた。双田夢と双田望だ。ただ、二人ともブレザーを脱いでおり、胸のバッジも外しているので、どちらが夢で、どちらが望なのか、俺には全く分からない。


「矢作君、的場君。私たちのことを好きになってくれてありがとう。それと嘘ついてごめんね。けど君たちはどっちの私を好きになってくれたの? どっちが夢なのか望なのか分かる? 私達を当てて見せて。当てられなかったらこの恋は嘘。もし当てられたなら……」

 

 双田夢または望が言い終わる前に、矢作と的場は椅子から素早く立ち上がり、それぞれ二人の前に立ち、向き合う。


「ずっと気付かなかったのに、何言ってんだって思われると思う。けど双子ってことが分かれば、こんなの簡単だ」

 

 的場が右側の双田を見つめながら言う。そして左側の双田を見つめながら、矢作が声を震わせる。


「ああ、だってずっと見てたんだから。あなたが好きです、夢さん」

「望さん、俺と付き合ってください」

 

 双田姉妹が、二人とも手で口を押える。そしてこの一瞬を噛みしめるようにしてそれぞれ口を開く。


「私も矢作君のことが好きだよ」

「こちらこそよろしくね! 的場君!」

 

 四人の顔が一斉に明るくなる。自信たっぷり言いやがって。間違ってたらどうするつもりだったんだ。まあ、二人の気持ちに嘘がないからこそ、間違えなかったわけだが。


「ほら、正解おめでとう。じゃあ、イチャイチャは外でやってくれ」

 

 俺はお礼を言ってくる四人を無理やり外にはじき出す。三上と下野の時といい、人の恋愛を見るのは、こちらは何も悪くないのに恥ずかしくなってくる。この場に夏野がいたら、今度こそ本当に昇天していただろう。俺は隣に座っていた月見を見る。


「羨ましい」

「は?」

「なんであいつらそんなすぐにイチャイチャしてるんですか! 早くないですか! 実は双子だってこと全然分かってなかったくせに!」

 

 友達が一気に二人もリア充になって辛いのだろう。


「まあ、そうだな。つまりあいつらは馬鹿ってことだ。ほら、馬鹿が何やっても悔しくないだろ? 月見、お前もあの勘違い馬鹿達の仲間か?」

「いや! 俺は馬鹿じゃありません! でもー!」


「うるせえ! 俺だって二回連続で相談が恋愛がらみでイライラしてんだよ!」

「そ、それはすみません! あ、あと、解決してくれて本当にありがとうございます!」


「いいよ、一応仕事だしな」

「それにしても誠先輩。怒ってるわりには、なんかにやけてます?」

「黙れ! こっち見てないで椅子片付けろ」

 

 そりゃ、あんな馬鹿達が急に真面目に告白して、承諾されて、嬉しそうに目の前でイチャコリャされると、あほらしすぎて顔もにやけるよ。ただあの二人は馬鹿だけど、双田姉妹を好きだという思いは本物だった。そのせいで二人は対立したものの、どちらにとっても、そして双田姉妹にとってもいい形で真実を明らかにできてよかった。


 次からは恋愛関係の相談は断ろうと誓って、生徒会室に戻った。


 生徒会室で、今回の真相をメンバーに報告する。


「まこちゃん、凄いね!」

「恋愛委員長に肩書を変えたらどうかしら?」


「おい、霜雪。夏野みたいに普通に褒めろよ」


「よ! 恋のキューピット!」


 星宮が茶化してくる。


「取り敢えず恋愛関係の相談は今度から別の奴が受けてくれ。俺は限界だ。あと、ここ数日休んでお前たちの仕事増やしてすまなかった。今日から俺もするよ」


「いえいえ、誠さんも自分の仕事をされていたのですから気にすることはないですよ。それに誠さんの仕事は大地君が本当に全部代わりにやってましたから」

 

 春雨が労うように言う。本当に月見が俺の分の仕事を全部やったのか。いつもは仕事を前にすると死んだ目をしてたのに。


「俺が誠先輩に相談に乗ってもらったから当たり前です! あんなの楽勝ですよ!」

「じゃあ、これから大地の分の仕事の振り分けを多くすることにしよう」

 

 秋城が書類を月見の席に置く。


「ま、マジですか?」

「ああ、頑張ってくれ」

 

 その日は唸り続ける月見の前で久しぶりの生徒会の仕事することになった。

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