第3話 彼らどちらが嘘つきなのか~二つ目の相談~③
次の日、木曜日の放課後、俺は矢作がよく行くという図書館に来てみた。自習室全体を見渡せる席に座り、勉強をしていると、うちの学校の制服を着ている女子がやってきて、勉強を始めた。矢作と的場から聞いた特徴と一致している。彼女が双田夢だ。どうやら矢作の言っていたことは本当らしい。彼女は確かにこの図書館に来て勉強をしている。
ただ、彼女に直接話しかけて、矢作と的場のことを洗いざらい話すわけにはいかないので、その日は何もせずに勉強だけして家に帰った。
また次の日の放課後、今度は的場がよく行くバッティングセンターを訪れた。休憩スペースで少し時間を潰していると、双田がやって来て、制服のままバッティングを始めた。その姿に少し違和感を感じたような気がしたが、正真正銘昨日見た双田夢本人なので、気のせいだろう。おそらく、運動をするためか、カッターシャツ姿になっているからだ。昨日見た双田は普通にブレザーを着ていた。
双田は見事に球を打ち返していった。昨日見た勉強姿からのギャップが大きいこともあるが、彼女はさぞ楽しそうにバッティングしていた。これで的場が双田とバッティングセンターで出会ったというのも嘘ではないと分かった。
だが、二人のうちどちらかが本当はその日に双田を見ていないのに、見たという嘘をついたのかは全く分からない。
俺が休憩スペースで色々考えていると、見覚えのある姿が見えた。的場だ。あいつも今日ここに来たのかと思っていると、的場が双田のバッティングがワンセット終わったところで話しかけるのが見えた。そのまま数分話し続け、双田が荷物を持って立ち去ると、なんだか嬉しそうな的場がバッティングの回数券を買いに来たところで、俺を見つけた。
「冬風先輩! 来てくれていたんですね! 双田がちゃんとここに来ているって分かってもらえてよかったです」
「ああ、で、お前はさっき双田と何を話してたんだ?」
「そうです! 聞いてください! 俺もうこのままじゃダメだと思って、双田をデートに誘ったんです! そしたら、向こうもよくここに来てた俺のこと知ってたみたいで、明日双田と遊ぶことになりました!」
「そうか、なら俺の役目はもうないな。本人と関わりを持ったんだったら、あとはお前ら当事者同士で解決できるだろ」
「はい! 明日俺らのこととか話してみます。あ、あと矢作には内緒にしといてもらえますか? もう少し時間が経ってから自分で言います。今日はわざわざ来てもらったにすみませんでした! また学校で会ったときにお礼をさせてもらいますね」
「いや、別にいいよ。俺は今回何もしていない。じゃあな」
俺は嬉しそうにバッティングスペースに入っていった的場を後ろにバッティングセンターから出て、帰路に就いた。これで解決であるはずなのにどうにも腑に落ちない。ただ今は考えても無駄だ。いずれこの違和感の正体も分かる時が来るだろう。
その時はすぐに訪れた。月曜日の朝、登校していた俺に走ってくる気配がしたので、夏野との衝突以来、敏感になっていた俺は後ろを素早く振り向いた。
「わ! 冬風先輩、おはようございます」
走ってきたのは矢作だった。
「先輩、聞いてくださいよ! 俺、このままじゃらちが明かないと思って、金曜日に図書館で双田をデートに誘ったんですよ。そしたら、双田もよく一緒になる俺のこと気になってたみたいで、オッケーもらって、早速土曜日にデートしてきました!」
どういうことだ? 土曜日は双田は的場と遊びに行ったはずだ。いや、そもそも金曜日は双田はバッティングセンターにいた。それは俺も確認している。
やはり矢作が嘘をついていたということか。待て、そんな嘘をつく理由がないのは最初から分かっている。となると可能性として残るのは一つだけだ。
「それで! 雑貨屋でこれが可愛いって言って、双田はキーホルダーを買ったんですよ。学校でいつも使っているリュックにつけるって言ってました。いやー、なんか一緒に見て回ったものを気に入って使ってくれるってなんかいいですよね。別にお揃いでもなんでもないんですけど。あ、俺らのことも色々と話したら笑ってましたよ。でも的場にはまだ内緒にしといてください。時期が来たら自分から言いたいので」
「おい、その買ったっていうキーホルダーはどんなやつだ?」
「え、何というか、銀色で螺旋状に細長いキーホルダーですけど」
「分かった。ありがとう。多分その時期は明日にでも来るぞ。またな」
俺は真っ直ぐ下駄箱に向かった矢作と別れて、霜雪が水やりをやっている花壇の方へと行った。ここなら双田が登校してきたらすぐに分かるはずだ。
「あら、冬風君。おはよう」
「ああ、おはよう霜雪。すまないが登校を確認したい奴がいるから、ここにいさせてくれ」
「ストーカーみたいなことをしているのね。月見君のお友達の相談は解決したのかしら?」
「いや、それはまだだが、ほとんど真実は分かった。あとは俺の推測が正しいか確認するだけだ」
「そうなのね。月見君、あなたの分の仕事を振り当てられて、絶望してるから早いところ解決できそうでよかったわ」
「ああ、そのことなんだが、今日の放課後も俺行くところあるから月見に俺の仕事を頼むって言っといてくれ」
「そう、分かったわ」
少しすると双田の姿が見えたので、俺は下駄箱の方へ向かう。
「じゃあな、霜雪」
「ええ」
双田と同時に下駄箱に行き、双田のリュックを見る。そこには矢作がさっき言ったようなキーホルダーが双田の動きに合わせて揺れていた。一つ目の確認はこれで終わりだ。
その日の放課後、俺はバッティングセンターにまたやって来た。双田が今日も来るかどうかは分からないが、時間を潰して待つ。するとバッティングセンターに着いて一時間ほどすると双田の姿が見えた。動きやすいようにか、既にブレザーを脱いでいる。
「すまない、ちょっといいか。俺は四季高校生徒会の冬風って言うんだが」
「冬風? ああー!」
双田は少し俺の方を見つめ、納得したように明るく話してくる。
「矢作君から聞きましたよ。四季高校の双田夢です、よろしくお願いしますね。それよりもおかしいですよね。私が離れた二つの場所に同時にいるなんて。もしかしたらドッペルゲンガーですかね?」
俺は双田のカッターシャツの胸付近のバッジを確認する。女子、男子共に四季高校の制服の左胸には学校のバッジが付いているのだ。それが俺の確認したかった、もう一つのことだ。どうやら俺の推測は正しかったらしい。
「いや、俺にはその嘘は必要ない。お前たちの真実は全部分かった」
俺は双田に改めてこちらの事情と、たどり着いた結論を話した。
「そうですか、あなたには全部バレてたんですね。それなら、一つ私達からのお願いを聞いてもらえませんか?」
双田も俺にこれまでの出来事と頼みを話してくる。
「分かった。このままでは誰も得しないしな。俺はお前たちに協力しよう。ちょっと待ってくれ」
俺は向こうから無理やり渡してきた月見の電話番号に電話し、要望を伝える。
「明日で大丈夫だ。じゃあ、また学校でな」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
すっかり辺りも暗くなってきた頃、俺はバッティングセンターを出た。矢作、的場、双田に関わる真実は全て分かった。あとはあいつらの問題、あいつらの気持ち次第だ。
双田を待っていた間に久しぶりに自分もバッティングをしたので、気持ちの良い筋肉痛に襲われる。部活に入っておらず、運動の習慣こそあまりないものの、昔から、体力には自信があった。これからは定期的に運動するかと思いながら、家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます