第2話 彼は誰を好きになったのか~一つ目の相談~②

「で、ご確認ですが三上一二三さんでしょうか?」


「もう! まこちゃん! 当たり前でしょ! ひふみんだよ!」


 まさかその日のうちに当事者の一人を連れてくるとは思っていなかった。夏野、張り切り過ぎだ。


「ああ、クラスは一緒だが話すのは初めてだな、冬風。三上一二三だ」

 

 生徒会室で、俺と夏野の対面のソファに座った三上がご丁寧に自己紹介してくる。


「ほんとは曜子もつれてきたかったんだけど、用事があるって断られちゃった」


「俺も断りたかったんだが、奏にどうしてもって言われたら断れなくてな」

 

 三上が少し険しい表情でこちらを見る。三上としてもなんでこいつなのだと思っているだろう。

 

 すると秋城と星宮が生徒会室に入ってきた。一年生組と霜雪は俺と夏野より先に生徒会室に来てそれぞれの仕事を始めていたのでこれで全員生徒会がそろったということになる。


 三上を含めて八人が同じ部屋にいても狭く感じることのないほどこの生徒会室は広い。


「ねえ、大地。あれってどういう状況なのよ?」

 

 星宮がこちらを見ながら月見に状況を聞く。


「なんか、奏先輩と誠先輩のクラスメイトが相談があるってことで来たっぽい。だよな、咲良?」


「う、うん。それで合ってると思う」


「へえー 早速、誠君の初仕事ってことね」


「秋城、目安箱委員長って生徒のかなり個人的な相談も仕事内容か?」

 

 先ほどから生徒会長席からこちらをニヤニヤと見てくる秋城に確認する。


「もちろん。どんな相談、要望にも全力で応えるのが目安箱委員長としての君の仕事だ。どんな相談か知らないが、奏も誠を手伝ってやってくれていいからね」


「政宗君ありがとう!」


 会長がそういうのなら自分の仕事を果たすしかない。まずは事情を聞いてからだ。


「へえ、目安箱委員長なんてしてんのか。乗り掛かった舟だ。何があったかだけでも話すよ。このまま何も言わないのは奏にも悪いしな」


「ああ、そうしてくれ。で、何がどうして夏野が困るくらいこじれてるんだ?」

 

 三上が説明を始める。


「先週の土曜日な、曜子と二人で適当に外で遊んだ後、俺の家で一緒にゲームしたんだよ。毎回デートの時はこんな感じなんだけど、その日、その時から曜子の機嫌が悪くなって途中で帰っちまってな。まあ一日経ったら機嫌も直るだろうと思って、次の日もデートに誘ったんだよ。前からその日も暇だって言ってたから。


 けど用事ができたっつって断られて、仕方なく俺は適当に近所を散歩してたんだよ。そしたら曜子がいて、声を掛けようとしたら、なんか同級生っぽい知らない男も一緒にいて、そいつの家っぽい所に入っていって。その時は声を掛けるのをためらっちまったんだ。

 

 それで、学校でそのことを聞いたら俺には関係ないって言われて、でも一応彼氏としては関係なくはないだろ? それでちょっと口論になっちまって、仲直りできないまま今に至るって感じだ。


 曜子は俺に隠し事をするような奴じゃなかったし、比較的大人しい奴で、こんな風に何かを言い返されることもなかった。何が原因かも分からないし、まるで曜子が別人になったみたいでお手上げだよ」

 

 三上が一息ついてソファにもたれかかって天井を見つめる。どうやら本人的には本当に原因が分かってないらしい。


「へえー、曜子が別の男の子の家にね。ね、ゲームしてた時に何か変わったことはなかったの?」


「いや、いつも通りゲームしてただけなんだけどな。強いて言えば、ゲームをする時って、いつも俺が勝つんだよ。けど曜子は別に負けず嫌いってわけでもなくて、二人でゲームするのが楽しいって言ってずっとやってたんだよな。けど今までもそうだったんだぜ? 急に負けるのが嫌になって機嫌が悪くなることってあるか?」


「うーん、あたしが知ってる曜子も負けず嫌いって感じはしないし、喧嘩とかするイメージはなかったから驚いちゃった。ゲームが原因ってことはないと思う。その前のデートで何かあったのかな? ねえ、まこちゃんはどう思う?」


「まあ、三上の今の話だけだったら何とも言えないが、やはり三上の家に行ってからのことが原因だと思う。それまでのことが原因で不機嫌になってるんだったら、そもそも家に来ないか、三上がその前に何か気付くと思う。もちろん三上がにぶちんだったら別の話だがな。まあ、そもそも原因が分からない時点でにぶちんなのかもしれないけど」


「に、にぶちんって…… まあ、ほんとに何がいけなかったのか分からないからそうだけどな。冬風、お前って思ったことはっきり言うやつだな」

「そういうのは嫌いか?」


「いや、今はありがたいよ。曜子も何か隠してるし、もしかしたら俺が見た男と付き合ってるのかもしれない。けど、そうなった原因は俺にあるはずだ。俺も感情的になったが、心から曜子と仲直りしたいんだ。変に慰められてもどうにもならない」


「喧嘩した後、下野に謝ったか?」


「ああ、けど原因が分からない以上、ただごめんとだけしか言えなかったし、曜子には、知らないのに謝らないで、と言われた」


「まあ、ただ謝るだけで解決出来たら苦労はしないな。じゃあ今日のところは帰ってくれ」


「え? どうして!?」


「三上からはこれ以上聞いても多分話は進まない。大丈夫、見捨てるとかそんなんじゃない」


「分かった。俺にできることがあればもちろん何でも協力するからその時は言ってくれ。冬風、関係ないのに協力してもらって悪いな」


「いや、別にいいさ。生徒会としての仕事だ。じゃあ何か分かったことがあればまた呼ぶ、じゃあな」

 

 三上は手を振りながら生徒会室を出ていった。


「ねえ、まこちゃん、これからどうするの?」


「三上からは聞くことはなくなった。じゃあもう一人の当事者から話を聞こう。今日は金曜日だ。今回のことと、三上が下野と一緒にいたっていう男が関係あるなら、明日、明後日の休日に下野はそいつとまた会う可能性が高いと思う。明日にでもそいつと下野に会おう。もちろん三上は抜きでな」


「じゃあ、曜子に連絡しとくね」


「いや、会うならアポなしで現場を押さえる。その方が情報も多く手に入るだろ」


「分かった! じゃあ明日一緒に張り込みしよう! なんか探偵っぽい感じ!」


「一段落したかい? じゃあこっちの仕事を手伝ってくれる?」

 

 秋城がにこやかに書類を渡してくる。


「目安箱委員長って普通の生徒会の仕事もやるのか?」


「当たり前だろ?」


「この量はなんだ? 多すぎだろ」


「この学校の生徒会は激務って有名だよ。それが生徒会に入る人が少ない理由の一つだ。まあ、その生徒会の一員としてよろしく頼むよ。奏も頼む」


「はーい」

 

 俺は諦めて、秋城から書類を受け取り、霜雪の隣の席が空いていたのでそこに座る。


「面白そうな仕事してるのね」


「本当にそう思ってるのか?」


「さあ、どうかしら。ほら、早く始めないと帰れないわよ」

 

 目の前に座っている月見は仕事の量とつまらなさで、うとうとしながら、隣の星宮にしばかれている。霜雪も俺がさぼったら何をしてくるか分からないなと恐怖を感じながら大量の仕事にとりかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る