第2話 一つ目の相談
第2話 彼は誰を好きになったのか~一つ目の相談~①
朝、美玖と一緒に家を出て、それぞれ学校に行く。昨日は色々あったが、その始まりは通学途中に夏野に衝突だ。今思えば生徒会の仕事か何かで急いでいたのだろう。
今日は登校中に何もなく、学校に着いた。敷地に入り、下駄箱に向かっていると、その道中の外れの花壇に見覚えのある奴がいた。
「霜雪、おはよう」
「あら、冬風君。おはよう」
「朝から何してるんだ? まあ、花の世話をしてるっていうのは分かるんだが」
「美化委員長の仕事よ。他の花壇はクラスの美化委員さんがそれぞれ持ち回りで世話してるみたいなのだけれど、この花壇は美化委員長の担当って引継ぎの書類に書いてあったの」
「へえ、そうなんだな。ん? この花だけ周りの花と種類が違うくないか?」
「ええ、周りの紫の花がスミレ。一輪だけ咲いてるこの花はノースポールという花よ。どこかで種が混ざったのかしら。仲間外れ。違うところに植え替えてあげましょう」
「いや、このままでもいいんじゃないか。周りと違ってもこの花が綺麗なのは変わらないだろ。というかこの花ってなんか霜雪みたいだな」
「どういうこと?」
「みなまで言わなくても分かるだろ?」
霜雪が少し息を漏らす。
「そうね。私、そしてあなたみたいね。周りと違う。それだけを見れば何もおかしなところはないはずなのに集団の中にいると異端者になる。自分の居場所はどこにもないと感じる」
「そうだな。けど居場所なら取り敢えずできただろ?」
「生徒会のこと? どうかしらね。上手くやれるなんか分からない。あなたも本当にそう思っている?」
「取り敢えずって言っただろ。俺もどうなるかなんて分からないよ。ん? 植え替えないのか」
霜雪が道具をバケツにまとめて入れて立ち上がる。
「ええ、やめておくわ。仲間外れだとしても自分を引っこ抜きたくないもの。いや、あなただと思えば引っこ抜くのも別にためらいはないわね」
「おいおい」
「あら、傷ついたのならごめんなさいね。私嘘はつかないの。あなたもでしょ?」
秋城も昨日、俺たちは似た者同士だとか言っていたな。
「ああ、そうだな。自分が二人いるみたいで気持ち悪いよ」
「女の子に気持ち悪いって言うなんて最低ね」
「お前が先に言ったんだろ!」
お互い言いたいこと言って、その後、霜雪と目が合う。
「あなたって根暗だと思っていたけど、ちゃんと人と話せるのね」
「ああ、俺も同じことを思ってた。一年の時にそれが分かっとけばもしかしたら俺たち何かあったかもな」
霜雪が道具を持って倉庫の方に向かう。
「そうならなくてよかったわ。面倒くさいもの」
霜雪の背中を見つめながら少し大きな声で言う。
「おい! 聞こえてるぞ!」
「聞こえるように言ったのよ。じゃあまた生徒会でね、冬風君」
自分は他の奴からこう見えているのか。こんなやつとは仲良くしたい奴なんて変人くらいだろう。まあ、世間からしたら、俺のような奴が変人なのだろう。
午前の授業が終わり、昼食の時間になる。そういえば秋城が生徒会室はいつでも自由に使っていいって言っていた。鍵は昨日、様子を見に来た朝市先生から全員受けとっている。
朝市先生と小夜先生の二人が今期の生徒会の担当教師のようだ。それで人数補充のために朝市先生が俺、小夜先生が霜雪を生徒会に入れたということらしい。
何はともあれ自由に生徒会室を使えるのはありがたい。昼食時のクラスの雰囲気はどうにも苦手なので、これからは生徒会室で弁当を食べよう。俺は弁当とペットボトルのお茶を持って、何かいつもと違う違和感を教室に感じながらも、生徒会室に向かった。
生徒会室の前まで行き、鍵を取り出し、鍵穴にさして回す。しかし鍵が開いた感覚がしなかった。誰か来ているのか。取り敢えず生徒会室に入ってみる。
「ま、まこちゃん!?」
生徒会室にいたのは夏野だった。ソファに座って弁当を食べていたようだ。
「夏野か。悪い、一人のところお邪魔したな」
「ま、待って。一緒に食べよ? 一人で食べるの寂しいんだ」
扉を閉じて教室に戻ろうとした俺に夏野が声を掛ける。どうしようか迷うが、夏野と二人で弁当食べるより、今から教室に戻る面倒くささが勝ったので生徒会室に入り、手ごろなパイプ椅子を出して座る。
「ちょっと、こっちに座ってよー なんか嫌われてる感じ」
夏野が落ち込んだ声で言う。何も考えてなかったが、このような反応をされるとかなり罪悪感を感じる。取り敢えず夏野の対面のソファに座って食べることにする。
美玖の分と一緒に朝、早起きして作った弁当を食べる。卵焼きや和え物など簡単なものしか作ってやれないのが悔しいが、美玖は毎朝ありがとうと言ってくれる。
いや、今はそんなことどうでもいい。問題なのは俺と夏野の間に五分ほど続く沈黙だ。大人しく教室に戻った方がよかったか? それは今更考えてもしかたがない。取り敢えず今はこの沈黙をどうにかしないと、せっかくの弁当が美味しくなくなる。
「なあ。さっきの呼び方、どうして俺のことまこちゃんって呼んだんだ?」
「ご、ごめん。いきなり人が来てびっくりしたらからとっさにそう呼んじゃった。嫌だった? 自分的にはしっくりきたんだけど、嫌ならやめるよ?」
「いや、昔一人だけ俺のことをそう呼んでいた奴がいて、驚いただけ。別にどう呼んでくれてもいい」
「そう! じゃあ、これからもまこちゃんって呼ぶね!」
一気に夏野が笑顔になる。さっきまでの沈黙が嘘のようだ。
「どうして生徒会室で弁当食べてるんだ? 俺はいつも一人だから、ここに来るのは、まあ、想像できる当たり前みたいなもんだけど、夏野はいつも三上やら下野やらと一緒に食べてるだろ?」
三上
「そう、それなんだけどね。ひふみんと曜子は付き合ってるんだけど、この前、ケンカしちゃったみたいで。最初のうちはそんな重そうじゃないと思ったんだよ。けど、なんかどんどんこじれていっちゃってるっぽくて……。二人とも詳しくはそのこと話そうとしないし、その空気に耐えられなくなって今日はここに来たの。あたし、二人のこと同じくらい好きだから、どっちの味方とかできなくて」
なるほどな。上手くやっているように見えてやはり人と人との衝突は避けられないものらしい。喧嘩は嘘からでも、真実からでも生まれる。それなら真実で衝突して、問題に真正面から向き合えばいいと思うが、それができないのは人が弱いからだろう。俺自身、喧嘩するほど人と関わったことがないので、いざその時にその真実に向き合えるかなんて分からない。ただ向き合うことが大切なのではないかと思うだけだ。
「そうか、色々大変だな」
この話を聞いたところで今の俺には何もできない。
「うん……そうだ! まこちゃん! 生徒会の仕事として二人のこと解決してくれない? あたしも手伝うから! このままだともっと悪化しそうなの」
「そんなこと言っても他人が人の交際に口出しするわけにはいかないだろ。夏野みたいに二人の友達ならまだしも、俺だぞ」
「まこちゃんだからだよ! 他の人じゃどっちかに肩入れしちゃって冷静に解決なんてできないよ……」
そんな頼りにしてますみたいな目で見られても困る。友達すらいないのに、男女交際のことなんて分かるはずがない。
「そもそもこういうのは、当事者が相談に来ないんじゃ仕事としても受け入れようがない」
俺は弁当を食べ終わり、片付けてソファから立ち上がる。
「じゃあ、二人のうちどっちかが相談に来たら引き受けてくれる?」
「ああ、その時は考えてみるよ。じゃあまた放課後な」
閉じた扉の奥から夏野が何やら張り切る声が聞こえたが気のせいだろう。俺は午後の授業に憂鬱になりながら教室に戻った。
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