第3話:アレンス家

 私は長い旅を覚悟していました。

 アストリア帝国はとても大きな国ですが、かなり遠くにあるのです。

 馬車で向かっても半年はかかる長旅になると思っていました。

 それが、わずか一カ月でテンプル方伯家に到着してしましました。


「よく来てくださいました、ソフィア・アレンス・ネルソン嬢。

 馬車の旅は疲れたでしょう。

 侍女に部屋に案内させるのでソフィア嬢はゆっくり休んでください」


 壮年の立派な貴族が優しく迎えてくださいました。

 大金で売られた身とは思えない迎え方です。


「あの、父からは四十年の約束で売られたと聞いています。

 このように優しく貴族として迎えてもらえる立場ではないと思うのですが」


「おや、使いの者は何も説明しなかったのかな」


「モンタギュー様、家臣が話すような事ではないと思います」


 私を案内してくれた執事が私に理由を話さなかった事情を答えました。

 

「おお、確かにその通りだな。

 分かった、私から話すことにしよう。

 ネルソン子爵に大金を支払ってまでソフィア嬢に引き取ったのは、ソフィア嬢がアストリア帝室につながる家系だからなのだよ」


 え、なにかとんでもない話になっていますよ。

 私はマーシャム王国の貴族の令嬢のはずです。


「ソフィア嬢が理解できない気持ちも分かる。

 まずはっきりさせておきたいのは、ネルソン子爵家はマーシャム王国の貴族だ。

 アストリア帝室の血の流れを受けているのはアレンス家なのだよ」


 母上の家系がアストリア帝室につながっていた!。

 よかった、ナタリアやロージーには没落貴族と馬鹿にされ続けましたが、母上の家系は由緒正しい立派な家系だったのですね。


「その表情を見ると、ソフィア嬢はよほどくやしい思いをしてきたようだね。

 アレンス家の名誉が回復できるようにテンプル家が手助けさせてもらう。

 もう安心していいのだよ」


 思わず涙を流してしまった私に優しい言葉をかけてくださいます。


「ありがとうございます。

 今の私には何のお礼もできませんが、受けたご恩は必ず返させていただきます」


「おお、それは助かります。

 引退したとはいえは私も以前は当主を務めていましたからな。

 自家の利益を無視してソフィア嬢を助けたわけではありませんよ。

 いずれ恩を返していただくつもりで援助させてもらったのです」


 モンタギュー様の申される通りです。

 ですが今かなりおかしな話になりました。

 モンタギュー様はどう見ての働き盛りの年齢にみえます。

 なのに方伯家の当主を引退されたという事です。

 皇帝陛下の代理人として、属国の王族や地方領主を監視する重要な役目の方伯家の当主の座を、若い子弟に譲るとは思えないのですが。


「父上、今戻りました」

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