最終章後編 運命の終わりと新たな世界
高須黒之の暴走を止め、神の力を取り除き元の子どもに戻すために戦う北野全治。
激しさを増す戦いの中で、突然「アゴノ十二号」という謎の者が現れた。
その姿は人型なのだが、頭にはノコギリクワガタの大あごを生やし、背中から機械の腕が生えているなどと、サイボーグを思わせる姿をしていた。
「アゴノ十二号・・・、何しに来たんだ!!これは俺と全治との戦いなんだぞ、なぜ割り込んできた!?」
「それはもちろん、お前を倒すためさ。ゼウスに頼まれてここに来た。」
「あのジジイめ・・・。」
「ゼウスに呼ばれてきたんだね、それで君は僕と戦ってくれるの?」
「ああ、ただし条件がある。」
「何だい?」
「黒之は殺すことだ、お前は黒之を助けたいんだよな?」
全治はアゴノの言葉に凍り付いた・・・。
「え・・・?どうして黒之君を殺さなければならないの?」
「今まで黒之が何をしてきたのか、見て聞いたお前ならよくわかっているはずだ。これまで黒之のせいで、どれだけの人が不幸になったと思っているんだ?」
「でも、黒之君には興味があるんだ。同じ神の力を持つ者として、これから解りあっていきたいんだ。」
「フハハハハハ、全治!!お前まだそんなこと思っていたのかよ、本当にバカな奴だ。」
黒之は下品に笑いながら、話を続けた。
「いいか?俺はただ単純にお前が気に入らないんだよ。選ばれた者だからこそ、その力を自分の思うように使う。それで誰かが死んだり、人のルールを破ることになろうが、そんなものは気にしない。この世界には、世のルールの中で夢を追いかける健気な人がいるが、そんな人は大馬鹿だ。目的があるなら、ルールなんて越えていけ。人を思いやる気持ちなんて邪魔だ、人生とは死の時が来るまでの覇道なのだ。」
黒之は堂々と言った。
「じゃあ、傷つけたり壊したりすることに覚悟はいらないというんだね?」
「ああ、そんなことしたら自分の心が過労に耐えられないからな。」
全治は黒之の暴虐な一面に、黒之から感じていた魅力が全て灰になって消えていった。
「そうか・・・、それが黒之君なんだね。やっとわかったよ、教えてくれてありがとう。だけどこの言葉で、僕の気持ちが完全に変わった。僕は・・・、黒之君を殺す、この世界のために!!」
「よく決めた、あいつが中学生だということが惜しいが、後の不幸を防ぐためなら構わない。」
全治とアゴノは黒之を睨みつけた。
「ふう・・・、無駄話はここまでだ。さて、面倒なことになってしまったなあ。」
すると空に穴が開いて、そこからクロノスが現れた。
『黒之よ・・・、我に身をゆだねるのだ。』
「クロノス様、憑依せよということですか?」
『そうだ、敵は強力な戦力を手に入れた。それに対抗するには、お前自身を神にするしかない。』
「わかった、行くよクロノス。」
しかしクロノスは黒之には憑依はせずに、黒之を生贄に自分のパワーを上昇させた。
「うわあーーーっ!!これはどうなっているんだ!!」
「黒之。お前は全治を殺せなかった無能だが、私の目論みの一つを叶えてくれた。それは私の力を熟成させて、高めるというものだ。お前が全治を倒そうと己を徹底的に高めたおかげで、予想以上の力を手に入れることができた。低級の存在だが、お前の功績には神として敬意を示そう。このクロノスの役に立てることを、光栄に思うがいい。」
「そんな・・・、俺は選ばれたのは特別な存在だからじゃないのか・・・?」
「そんな訳ないだろ、お前のような愚かともいえる程従順な者なら、誰でもよかったわ。」
黒之は「ふざけるなぁーーーっ!!」と叫ぼうとしたが、途中で命尽きてしまった。
「黒之君・・・、死んじゃったんだ。」
「ああ、当然で哀れな最期だったな。しかしこれで、倒す相手は一人になった。」
「フフフ・・・、何を軽率なことを言っている。正真正銘の神であるこの私に勝てると思っているのか?」
「思ってないさ、でもやってみないとわからない・・・。」
全治は鋭い目で神の威光を放ち、魔導書の隠されたページを開いた。そしてそのページからは、魔導書に込められた全ての力が全治に注ぎ込み、全治は覚醒した神童となった。
「行くよ、ホワイト、ルビー・・・。」
全治は眷属二人に呼びかけた、眷属二人は頷いた。
「こっちも呼ぶとしよう・・・。出番だアリゲーターナイト、デカンクラッシュタイガー。」
アゴノは自分の下僕である二人を召喚した。
「出番ですか、アゴノ様。」
「今回の相手はかなりの強敵ですね。」
そして全治とアゴノは、それぞれの仲間と一緒にクロノスに立ち向かっていった。
クロノスはこれまで全治が経験したことのない強さを秘めていた。
ハルパーと呼ばれる巨大な鎌から放たれる一撃は、あらゆるものを切り裂いた。
「強い・・・これが本物の神ということか・・・。」
「ゼウスの言う通り、かなりの強敵だ。」
全治は雷を拳に込めて、クロノスに攻撃をした。
ところが全治はクロノスに攻撃したと思っていたが、実際はクロノスに攻撃は当たっていなかった。
「え・・・?攻撃したはずなのに・・・。」
「これが時間の神であるクロノスの力だ、お前たちがどう足掻こうがこの力には敵わない。」
「何だと!!」
「私達を甘く見るな!!」
ホワイトとルビーはクロノスに攻撃を仕掛けたが、クロノスの時を操る力に阻まれ攻撃できない。
それはアゴノも同じことで、クロノスに傷一つつけることが出来ない。
「強い・・・、ゼウス以上の強さだな・・・。」
「アゴノ様、何かいい手はありませんか?」
アゴノは考えた末、ある一つの作戦を思いついた。そしてそれをテレパシーで、全治に伝えた。
「全治、私に考えがある。言う通りにしてみてはどうだろうか?」
「なんだい、アゴノ君?」
「君の眷属と私の下僕でクロノスの気を引く、そしてクロノスが時間を操り出したら私がクロノスの懐に入り込んで、クロノスの動きを止める。そしてそこを、全治が攻撃してきめる。」
「なるほど、でもそれだとアゴノ君が危険な目に遭うよ。」
「いいんだ、それぐらいの覚悟が無いとクロノスは倒せない。」
「わかった、君の作戦を信じるよ。」
そして全治とアゴノの作戦が始まった。
「マッハワイバーン、ジャージーペガサス。」
アゴノはマッハワイバーンとジャージーペガサスを召還した。
「乗れ、二人とも。」
「承知しました。」
「なるほど。」
アリゲーターナイトはマッハワイバーン、デカンクラッシュタイガーはジャージーペガサスの背中に乗った。
「全治、それまでパワーを溜めるんだ。」
「わかった。」
全治は自分の全ての集中力を振り絞って、神の力を高めた。
その間、ホワイトとルビーと、アリゲーターナイトとデカンクラッシュタイガーは、クロノスを翻弄するような動きをしながら、攻撃していた。
「なんのつもりだが知らぬが、そんな無駄な動きをしていても我に勝つことはできないぞ。それならその無駄な動きすらできないようにしてやる。」
クロノスはホワイトとデカンクラッシュタイガーに対して暗示をかけた、すると二人とも老化してしまった。
「なんだこれ、動きづらいなあ・・・。」
「はあ、はあ・・・、どういう訳か体中が痛い・・・。」
「あ!デカンクラッシュタイガーとホワイトが、老化してしまった!!」
「ほう・・・、そうきたか。」
アゴノはパワー・ストームの力をデカンクラッシュタイガーとホワイトに当てた、すると二人とも本来の姿に戻った。
「あれ、元に戻った。」
「こしゃくなマネを・・・、それなら本格的に叩きのめしてやる!!」
「そうだな、それじゃあ私も戦うとしよう。」
アゴノはクロノスに対して、本気で戦いを挑んだ。
「ドラゴンツイスト!!」
「ゴッドサイス!!」
アゴノはクロノスに負けない程の力を持っている、クロノスは全治よりもアゴノの方が恐ろしい存在に思えてきた。
「こいつ・・・、全治以上に強い。ゼウスめ、かなりの相手を送り込んできたな。」
「クロノス、お前は自分を封印したゼウスに復讐しようとしているが、ゼウスがお前を封印したのは王位を奪われることを恐れて兄弟たちを飲み込まれ、ゼウス自身もそうなりそうだったから、お前を封印した・・・。」
「アゴノ、お前は何が言いたいのだ?」
「つまり、所詮は互いに恐れていがみ合っているだけだ。クロノス、お前がした最大の罪は、そのいがみ合いに人の子を巻き込んで命を粗末に扱ったことだ。」
「ふん、人の命をどう扱おうが神にとっては当然の事。罪に問われるほどの事では無い。」
「じゃあ、神様にも天罰を下すとしよう。全治、いけるか?」
「うん、大丈夫だよ。」
「・・・!?これは一体、どうなっているんだ!!」
全治は自分と魔導書の力を全て込めて、巨大な雷のエネルギーを生み出した。
「あれを我にぶつけようということか、そうはさせんぞ!!」
「天罰の邪魔はさせない。」
アゴノはパワー・ストームの力で、全治を邪魔しようとするクロノスの動きを封じた。
「放せ、放せ!!」
「よし、総攻撃だ!!」
アゴノがホワイトとルビー、アリゲーターナイトとデカンクラッシュタイガーに言った。四人は全力で攻撃した。
「ノーザンスクラッチ!!」
「ルビーバーストフレア!!」
「ナイル
「
怒涛の四連続攻撃が、クロノスにきまった。
「ぐうう・・・、はっ!!」
攻撃を耐えたクロノスが見たのは、圧倒的なパワーを持った雷だった。
「サンダーノヴァアブソリュート!!」
「グワーッ、こんなバカなことがーーーっ!!」
全治の雷はクロノスの体を灰と化し存在を抹殺した。
そして今、クロノスはこの世から消えた。
「・・・ふう、これでクロノスも終わりだな・・・。」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
「全治様!!やりました、クロノスを倒しましたよ!!」
「全治様、よく頑張りました。」
「そうか・・・倒し・・たんだ。」
全治は気力も体力も使い果たし、その場に倒れ込んだ。
「全治、全治!!」
自分を呼ぶ声で意識を取り戻した全治、呼ぶ方を見ると北野の姿があった。
「北野君・・・、ここは?」
「病院だよ、お前一週間も気を失っていたんだぞ・・・。戻ってきてくれて、よかった・・・。」
北野は安堵の涙を流した。
「ねえ、北野君。みんなは無事かい・・・?」
「ああ、全員無傷だ。なんかアゴノ十二号って奴の仲間が手を貸してくれたおかげで、エリスを倒すことができた。意識を失くしたお前は、俺たちと進藤が病院へ運んだんだ。それから俺たちは色々怒られたりしたけど、お前はずっと眠ったままだったから、みんな心配していたんだ。」
「そうか・・・ごめんなさい、みんなに迷惑かけて。」
「謝ることはないよ、お前は日本を救ったヒーローだ。」
「ああ、その通りだ。」
「・・・アゴノ君。」
病室へアゴノが入室してきた。
「お前の強烈な一撃が、クロノスを倒した。しかしその代償で魔導書の力が失われて、魔導書はただの本になってしまった。」
「そうなんだ・・・。」
「じゃあ全治はもう魔法が使えないというのか、何とかならないのか?」
北野はアゴノに言った。
「今、魔導書の持ち主が魔導書の力を復活させようとしている。全治が退院するころには、お前の手元に戻ってくるだろう。」
「良かったな、全治。」
しかし全治は病院の窓を見つめていた。
「どうした、全治?」
「結局、黒之君はクロノスによって死んでしまった・・・。黒之君は最初から殺されることが決まっていたのか・・・?」
「深く考えなくてもいい、それが運命なのだから。」
アゴノは全治に静かに答えた。
退院した全治はゼウスから魔導書を貰い、元の生活へと戻っていった。黒之が破壊した跡は無く、大勢の人々が普通の日常を取り戻した。
あくる日、全治は散歩しているとアゴノと再会した。
「アゴノ君、久しぶりだね。」
「ああ、この世を楽しんでいるかい?」
「うん、ようやく日常を取り戻せたよ。」
「ところで、全治はこれからもこの世の観察を続けるのか?」
「うん、僕はこれからも死ぬまで僕を続けるよ。」
「じゃあ、またな。」
アゴノは去っていった。
全治は現世の日常をこれからも見続ける、そして問いかけていくだろう。
全能少年「無法と因縁の最終決戦」 読天文之 @AMAGATA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます