最終章前編 ティーターノマキア
進藤と一緒に東京の国会議事堂前のとあるホテルについた全治軍の七人は、そこで全国にいる元非法律対象者の少年少女達と合流した。
「君たちに紹介しよう、この子は北野全治。君たちに教えていた、愛知県からの強力な助っ人だ。」
「初めまして、北野全治です。」
少年少女達から、全治は歓迎の拍手を受けた。
「そういえば君はあの高須黒之について詳しいんだろ?」
「うん、黒之君は僕と同じ学校に通っていたんだ。仲は良くなかったけどね・・。」
「ところで君たちはどうしてここに来ているの?」
全治は一人の少年に訊ねた。
「僕たちは最初政府へのデモのために集合したんだ、でも高須黒之って奴が暴走したから、国民の安全のために実験が中止になって、僕たちは非法律対象者ではなくなった。でも高須黒之の支配には、僕とここにいる七人も反対だ。だから僕たちは高須黒之に向けてデモを行うことにしたんだ。」
「そうなんだ、僕も黒之の支配は納得できない。だからこの戦いは必ず勝たなければならないんだ。」
全治は真剣な表情で言った、それは他の者たちの気持ちを引き締めさせた。
「デモの日は明日だ、本当は歓迎のパーティーがしたいけど、とてもそんな気分じゃないからね。みんな、明日は黒之に一発ぶちかますつもりでやれよ。」
進藤の言葉に全員が頷いた。
深夜二時、一人眠れない全治は夜の街を歩いていた。
目の前には国会議事堂がある、ここに来る黒之と戦う事が、自分に課せられた運命なのだと全治は悟っている。
「僕は黒之君と戦い、日本征服を辞めさせてクロノスの呪縛から解くことだ・・。」
全治は魔導書のあるページを開いた、このページの呪文を唱えると神の力などのあらゆる力を打ち消して、本来の姿に戻すことができるのだ。
「この呪文で黒之君を元に戻す・・・。」
『全治よ、ついに運命の時が来たようだな・・・。』
ゼウスの声がした。
「ゼウス、来てくれたんだね。」
『ああ、クロノスとはいずれ決着をつけなければならない。平和な神世界と現世のために。』
「僕はこの戦いに勝って、黒之君を元の姿に戻す。」
『しかしその魔術の代償は、お前の命なのだぞ。それでいいのか?』
ゼウスの言う通りだった、つまりこの技を使えば全治は死んでしまうのだ。
「うん、北野君やみんなと別れるのはつらいけど、僕は僕の決めたことのためなら命を捧げられる。」
『そうか・・・、お前にはこの世界をもっと見ていてほしいのお・・・。失うのは、惜しいことだ。』
ゼウスが寂しそうに呟いた。
全治はここでホワイト・ルビー・アルタイル・コルネフォロスを召還した。
「どうしました、全治様?」
「僕の眷属達・・・、僕は君たちに出会えて良かった。そして眷属として、傍にいてくれてありがとう。」
全治は眷属達に最敬礼した。
「全治様、急にどうされたのですか?」
「僕はこの魔導書の呪文を唱えて、黒之君を元に戻す。ただし、その代償として僕は命を失う・・・。」
「え!?全治様、それはいくらなんでも嘘でしょ?」
ホワイトが笑いながら言ったが、全治は何も言わない。
そしてホワイトは、全治の言っていることが事実だと察した。
「全治様・・・本当に死ぬつもりなのですか・・・?」
「そんなの嫌だよ!!」
「全治様・・・。」
「全治様、もっと傍にいてお仕えしたかった・・・。」
四人の眷属達は涙を流し、いなくなる全治を悲しんだ。
「みんなの悲しい気持ちはわかる、僕だってこの世界をもっと知りたいという未練がある。けど世界のために僕は黒之を止めると決めたんだ、僕はこの世からいなくなっても君たちのことは忘れない。」
全治はホワイトの頭をなでた、眷属達は泣きながら全治に抱き着き、全治はその重みで倒れてしまった。
ゼウスはその光景に、感動の涙がポツリと流れ落ちた。
翌日午前七時三十分、ついに全治達のデモ隊が動き出した。
デモ隊は大声をあげながら、国会議事堂へと突き進んでいく。
「黒之、止めろ!!」
「お前に日本の支配は不可能だ!!」
「政府を解放しろ!!」
このように叫びながら突き進むデモ隊に、黒之はついに動いた。
「現れたな虫けらども、俺の理想の日本から排除すべき存在はまずお前だ!!」
黒之は光線を浴びせてデモ隊を排除しようとした、そして光線が解き放たれたが全治が魔導書の呪文で生み出したバリアによって、全員無事だった。
「チッ、やはり光線程度じゃ全治を止める事はできないか・・・。」
「黒之君、僕たちは君を止めに来た。君を普通の人に戻すために、僕は戦うことを決めたんだ。だから絶対に負けないよ。」
「俺を普通の人に戻すだと・・・?何を寝ぼけたことを言っているのだ、クロノスの力を持っている俺こそ、本物の高須黒之である。だからこの俺を元に戻そうとかくだらないことはやめろ、神の力が無い俺は落ちぶれたも同然だ。」
黒之は再び光線を放つためにエネルギーを溜めはじめた。
「ルビー、出番だよ。」
全治はルビーを召還した、ルビーは口に炎を溜め込みブレスを放つ態勢をとった。
「はぁ!!」
「紅玉のバーニングドラゴン!!」
光線と爆炎が衝突し、当たりに強い衝撃が起きた。しかし技の威力では黒之の方が上で、ルビーの爆炎は弾かれてしまったが、全治のバリアによりルビーはほとんどダメージを受けることはなかった。
「ルビーも強くなっているな・・・。だが俺には到底敵わない。全治らとまとめて排除してやる。今こそクロノスの末裔の名の下に、現れよエリス!!」
すると黒之の背後に巨大な闇の穴が開いて、中から巨大な黒い女神が現れた。
「なんだ・・・、この邪悪で嫌な感じがする女神は・・・?」
「これこそエリス、不和と闘争の女神だ。まさに俺と全治の宿命を体現している神よ。」
「みんな、行くよ。」
全治は六人に言うと、魔導書のページを開いて呪文を唱えた。そして六人は、勇敢な戦士へと変身した。そして全治はホワイト・アルタイル・コルネフォロスを召還し、持っている力全てを持って黒之と戦うことを決めた。
そして全治は、進藤と少年少女達に向けて言った。
「他のみんなは下がっていて、これは僕と黒之との戦いなんだ。」
「わかった。全治、絶対に負けるなよ!!」
「日本の命運は、君に託された。黒之を絶対にとめろよ。」
進藤と少年少女達が撤退するのを見届けて、全治は黒之の方を見た。
「これで全ての準備は整った、戦いを始めよう。」
「ああ、これは俺と全治のどちらかが生き残るかの戦いだ。絶対に負けん!!」
そして全治と黒之は、お互いに衝突した。
黒之が光線なら全治は雷、黒之が地面を鳴らすなら全治は強風を起こし、互いに闘争心を拳にこめて相手を殴った。
これまでも全治と黒之は対の存在の如く生きてきたが、今回の戦いでそのすべてが前面に出ている。
六人の戦士はアルタイル・コルネフォロスと共に、エリスと戦っている。
「くっ・・・、強いぞこいつ。」
「本当の神様って強いよ、俺たちだけで本当に倒せるのか・・・?」
「ちょっと、そこ!!弱気になってはいけないわよ、日本を救うためにも負けられないんだから。」
「そうだ。お前たちがやらなくて、誰ができるというんだ?」
アルタイルとコルネフォロスは六人を鼓舞させた。
「そうだな。こうなったら死ぬ気でやってやる!!」
「ええ、何としてでも勝利してみんなのための未来を勝ち取りましょう。」
六人は全治から授かった力をフルにつかって、エリスを相手に剣を振るった。
神話の出来事を再現したかのような戦いは、もはや言葉で表現するのは不可能と言える程、激しさを増していた。
「どうした、どうした!!もう疲れたのか、全治?」
「はあ・・・はあ・・・、まだまだ疲れていないよ。」
「それなら、俺の必殺技を受けるがいい!!」
黒之は神の力を高めて、カオスのエネルギーを生み出した。一方の全治も神の力を高めて大技を放った。
「クロノス・マスターノヴァ!!」
「ケラウノス・ジュピター・セル!!」
互いの大技は衝突し、黒之の技が全治の技を破って、全治は技をくらってしまった。
「フハハハハハ、どうだ俺の新しい技は?」
「強い・・・、黒之君がここまで強くなっていたなんて・・・。」
「お前が散歩している間、俺は特訓してここまでの境地に達した。だからお前に俺は倒せない、ここで終わらせてやる。」
黒之は容赦なく「クロノス・マスターノヴァ」を放った。
全治がバリアで防御しようとした時、謎の者が全治の正面に立って技を出した。
「パワーストーム・バースト!!」
その技は「クロノス・マスターノヴァ」を押し返し、黒之にぶつけた。
「ぐわああーーーっ!!」
黒之はここで予想外の大ダメージを受けた。
「ば・・・バカな・・・、俺の技が押し返されるなんて。お前は一体何者だ!!」
「助かったよ、ところで君は誰なの?」
全治と黒之が訊ねると、謎の者は答えた。
「私はアゴノ十二号、クロノスを倒しに来た。」
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