第6話いざ、国会議事堂へ

避難生活が始まって一か月が経った、停電は未だに復旧しておらず体育館での生活を続けている全治。

学校の授業も行われておらず、退屈な日々が続いた。

それでも全治の気分が沈むことはなかった、黒之を打倒する計画で忙しい日々を送っていただからだ。

「全治君、ニュースだよ。」

藤ヶ谷が全治のところにやってきた。

「どうしたの、藤ヶ谷さん。」

「今、ラジオのニュースで鉄道のほとんどが復旧したって。」

「そうなんだ、それは良かった・・・。」

【ああ、良かったね。】

「黒之君!?」

全治が背後を振り返ると、黒之の姿があった。

「黒之君、どうして鉄道が直って喜ぶの?君は鉄道を破壊して、多くの人をパニックにしたのに・・・。」

【フフフ・・・、それは全治たちが東京に来れるようにするためさ。それにいつまでも壊したままにするのも、気が進まないからね。まあ、そもそも全治たちが東京に行けるかどうかすら、解らないからな。】

そう言うと黒之は、高笑いしながら去っていった。

「何なの、アイツ。私達を挑発しているの?」

藤ヶ谷は頭にきている。

「よし、今日はみんなを呼んで、どうやって東京へ行くか話し合おう。」

「わかったわ、じゃあまたね。」

藤ヶ谷は手を振って去っていった。

その日の午後一時、体育館裏に「全治軍」の七人全員が集合した。

「今日はどうやって国会議事堂へ行くか、話し合おうと思う。」

「鉄道が復旧したから、鉄道で行こうぜ。」

岩谷が言うと、全治は複雑な表情になった。

「どうしたんだ、全治?」

「実はね、こんなことがあったのよ。」

藤ヶ谷は岩谷に事情を説明した。

「黒之の野郎、完全になめているぜ・・・。」

岩谷の顔が険悪になった。

「だったら鉄道を復旧させたこと後悔させてやろうぜ。」

北野が言うと、他の全員が頷いた。

「でも東京まで鉄道で行くと、金がかなりかかるぜ。」

「それって、どのくらいかかるんだ?」

「片道でおよそ一万円弱、往復だと二万円ちょいはするぜ。」

「そんなにするのか・・・、じゃあ俺たち全員だと十五万円弱はするな。」

「どうする?そもそも一万円以上なんて、親が出す訳ないだろう?」

ニコが言うと、全員が黙り込んでしまった。

「ねえ・・・、これ使えないかな?」

全治がみんなに見せたのは、非法律対象者のプラカードだ。

「これって、国から貰ったやつだよね?」

「うん、これを使って上手くお金を手に入れてみせるよ。」

「全治、もう実験は終了しているんだよ。犯罪行為なんかしたら、逮捕されてしまう。」

藤ヶ谷は全治に言った。

「違う、僕は政府の力を借りようと言っているんだ。」

「政府の力を借りる・・・どういうこと?」

「政府だって黒之君をどうにかしたいと思っているはずだ、それなら互いに共闘した方が勝てる可能性はある。」

「なるほど、でも政府とどうやって連絡をとるんだ?」

「僕にいいつてがある。その人は、国家実験に携わっていたんだ。」

そう言って全治はスマートフォンを出した、そしてTwitterの「国家実験レジスタンス」にツイートを送った。

「お久しぶりです。僕は今、六人の仲間と一緒に黒之君を倒す計画を立てています。そこで僕たちは東京に行こうとしていますが、東京に行くための旅費がありません。そこで誰か政府の方で知り合いはいませんか?僕たちに旅費を出してくれるか、僕たちを東京に送るかしていただきたいのです。どうかよろしくお願いします。」

「全治、いつの間にそんな人と繋がってたのか?」

北野はすごく感心した。

そして五分後に連絡が来た。

『全治君、君は本当に凄いよ。でも残念ながら、私の知り合いに政府の関係者はいないんだ・・・。だけど全治達が東京へ行くための旅費を出してあげることはできる。だから後は君たちの両親の許可を取ってくれ、後はそれだけだ。』

このメールを見て七人は喜んだ。

「よっしゃあーーっ、これで金の問題は解決したぜ。」

「これで後は両親を説得するだけだね。」

「なあ全治、そもそも俺たちがしようとしていることを両親に言っても、まともに言っても取り合ってくれないぜ。」

「確かに、危険だからやめろって言われるのがオチだわ。」

「だったら内緒で抜け出そうぜ。」

岩谷が言った。

「でも後でどこに行っていたのか訊かれるのは面倒だね、じゃあ君たちの身代わりを置いて行こう。」

「身代わり?どういうことだ?」

全治は魔導書を開いて呪文を唱えた。

「神々よ、なんじたる者の生き写しを体現せよ。」

するともう一人の全治が姿を現した。

「おお!!全治そっくりだぜ。」

「本当によく似ているわ。」

六人はもう一人の全治をまじまじと見つめた。

「当日はこれを全員分用意して、東京へ行こう。」

「全治、お前って本当に頼りになるな。」

「全治くんこそ本当の神だぜ。」

「ええ、そうよ。黒之君とは大違いだわ。」

「ようし、これから特訓しようぜ!黒之を倒すためのな。」

全治は決戦にむけて高揚する六人を見て、『これなら黒之君を止められるかもしれない。』と確信した。














八月十日、まだまだ体育館での生活が続く中でついに高須黒之が世間に向けて、日本を支配することを発表した。

【皆のもの、俺はクロノスの末裔である高須黒之だ。これからよりよい未来に向けて、声明を発表する。今、この世は幸せだと心から感じている人はどれくらいいるだろうか?答えは僅か十パーセント未満だ、それ以外の人間は幸せをあえて望まないか、幸せになろうとしてがんばっているが報われない可哀想な人々だ。だから俺はそんな世の中を、天命より授かったクロノスの力で破壊して、だれもが幸せになれるフェアな世界に創りかえることをここに宣言する。もし俺に反発する者がいるのなら、国会議事堂へ来るがいい。この俺が敬意をもって排除してやろう。総理大臣や政治家なんていくら協力して頑張っても、誰もが幸せな世の中は決して創れない。そんな世の中を創れるのはこの神の力を持つ、高須黒之を持って他にいない。俺は反発しない限り、人を弾圧したり抹殺したりすることはしたくない。みんながこの高須黒之を支持することを、大いに喜びに思い、みんなのために生涯を持って尽力することを約束しよう。これで俺の声明は終わりだ、それではこれからいい未来へと向かうとしよう。】

体育館にある一台のテレビに映し出された声明を言う黒之を、全治は寡黙な眼差しで見つめていた。

「黒之君・・・、君のやろうとしていることはただの支配だ。いくら希望のある言葉を並べて感情に訴えても、独裁ならいずれ大きな反抗が起こり、君自身の命に関わることになる可能性がある。だからそうなる前に、僕が君を止めてみせる。」

この日は七人で東京へ行く日だ、「国家実験レジスタンス」の男と名古屋駅の金の時計で合流する約束になっている。

「全治、準備はできたか?」

「うん、出来ているよ。」

「俺たちのことは心配しなくていい、俺たちは全治に協力したいだけなんだ。」

「うん、ありがとう。」

そして全治もついに動き出した。









その日の午前十時、全治軍のメンバー全員は魔導書による分身を残して、地下鉄平安通駅へ向かった。その地下鉄で終点の平安通駅まで行って、そこから名城線に乗り換え栄駅へ行き、そこからさらに東山線に乗り換えて、名古屋駅に到着した。

改札を抜けて全治軍のメンバーは金の時計を目指した、金の時計に集合してから五分程して、眼鏡をかけた中年の男性が声をかけてきた。

「君が全治君だね、僕が『国家実験レジスタンス』の進藤正道だ。」

「初めまして、北野善治です。」

全治は進藤に六人を紹介した。

「これだけの仲間を良く集めたね。実は僕がTwitterで呼びかけた仲間も、ぞくぞくと集合しているんだ。」

「そうなんですか、それはいいですね。」

「仲間たちは政府が用意したホテルに宿泊している、君たちもそこへ行こう。」

「ありがとうございます。じゃあみんな、行こうか。」

そして全治軍の七人は、進藤とともに東京へと向かっていった。



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