第5話決戦の日に向けて

六月二十日、ある衝撃的なニュースが世間に報じられた。

「昨日午後十時から東京都・大阪・愛知県・京都・岐阜など十の地域で、発電所が破壊され、大規模な停電が発生しました。これにより生活の基盤が停止し、多くの人がパニックになるなどの影響が出ています。停電が発生した地域では復旧工事が始まりましたが、完全に復旧する目途はまだたっていません。この事件を受け政府は、『停電が発生した地域への支援を、速やかに開始する』と発表し、自衛隊を派遣する旨を発表しました。」

このニュースを知った全治は、「国家実験レジスタンス」にツイートした。

「黒之君、今度は停電を起こしたみたい。」

『そのようだ。前は鉄道で今回は発電所か・・・、本当に重度の犯罪行為を重ねているね。』

「そっちは大丈夫?」

『ああ、大丈夫だ。それよりもデモの計画が狂ってしまった、これでは国会議事堂前駅にみんな集合することができない。』

全治も納得した、現に北野家でも電気は止まり、ロウソクの火で明かりを確保している。冷蔵庫も機能停止しているので、腐る食材が出てくるのは時間の問題だ。

「そうだね、スマートフォンも充電がいずれなくなるから、これ以上連絡をとることはできない。」

『そうだね、でもみんなは諦めないし、私も諦めない。お互いに健闘をいのろう。』

「うん、またね。」

全治はここでTwitterをやめた。

「全治、ちょっと来てくれる?」

お義母さんが全治を呼んだ。全治が向かうと、お義母さんは荷物をまとめていた。

「これから中学校の体育館へ避難するから、ついてこい。」

「え、避難するの?」

「当たり前だ、この近所の電気がみんな停電してしまったんや。みんな避難してるわ。」

全治は両親に言われて、北野と一緒に荷物を持って徒歩で中学校へと向かった。









北野一家が中学校に来ると、大勢の人がそれぞれの場所を陣取りながら過ごしている。

北野一家は体育館を歩き回り、ようやく場所を見つけるとそこに座った。

「みんな、不安な顔をしているね。」

「まあ、そうだろう。突然の事態だからな、まだ先のことが見えないし・・・。」

お義父さんはしみじみと言った。

「俺だって不安だよ、早く元の生活へ戻りたいよ。」

北野も不安をこぼした。

ここで全治は用を足すためにトイレに向かった、そこで全治は十日前に教室に残っていた生徒の一人、岩谷公夫に出会った。

「あ、全治も来てたんだ。」

「うん、北野君と一緒にいるよ。」

「確か北野家で暮らしているんだよな、元気でやってるか?」

「うん、でも不安だというのは確かだよ。」

「そりゃそうだ、急に電気が止まってしまったもんな。父さんが一番困ってるだろうな・・・。」

「君の父さん、電車で通勤しているの?」

「うん、会社のサラリーマンなんだ。六時頃にスマホで連絡してきて、それからの連絡は来ていないんだ。」

全治は不安な話を聞き過ぎて、表情が暗くなった。

「全治君、どうしたの?」

「この町から電気が無くなっただけで、こんな不安な夜になるなんて思わなかったよ。」

「本当にそうだね、電気の大切さを思い知ったよ。」

「ところで、僕たちの仲間はみんなこの体育館に来ているかな?」

「ああ、来ていたよ。来て欲しいなら俺が呼んであげようか?」

「ありがとう、僕は北野君を呼びに行くよ。」

それから全治は北野を、岩谷は四人を連れてきた。

そして七人は体育館の裏で、これからどうするかについて話し合った。

話し合う七人は、北野全治・北野剛四郎・岩谷公夫・藤ヶ谷京子・真井武夫・篠原八重子・園崎ニコである。

「みんな来てくれてありがとう、突然の停電でみんな不安な気分になっているよね。」

全員が頷いた。

「でもこれはまだ黒之君の暴走の始まりに過ぎない、これから物凄い混乱が起こることを黒之君はやる。」

「確かに、あいつの目的は日本征服だろ?」

「でもそれはもう出来ないぜ。」

突然、ニコが口を開いた。

「どうして出来ないと思うの?」

「だって、黒之君の暴走は黒之君が非法律対象者になっていたからだろ?」

「うん、そうだよ。」

「でも、このネットニュースの記事を見て。」

ニコは自分のスマホの画面を全治に見せた、そこにはこんな記事が載っていた。

『止まらない暴走中学生・高須黒之、止めるために国家実験中止』

「これ、今日のニュースだよね?」

「ああ、これで黒之も俺たちと同じ普通の中学生だ。もう犯罪はできない。」

【俺たちと同じだと・・・、笑わせてくれるな。】

突然、どこかから神妙な声が聞こえた。全治は直感的に黒之だと察した。

「黒之君!?」

「え!?黒之がいるのか?」

全治以外の六人は、辺りを警戒しだした。

【やあ、全治と六人のムシケラ・・・。】

全治は上を見上げた。そこには神の力を纏い、眼が紫に光る黒之の姿があった。混沌のオーラを放ち、邪神を思わせるような姿をしている。

「黒之君・・・。」

「全治、勘違いしては困る。俺はまだ貴様も六人の仲間も、殺すつもりはない。」

「じゃあ、お前は何しに来たんだよ!!」

北野が黒之に向かって言った。

【それなら教えてやる、俺は本気で日本征服を目指しているということを伝えに来たのだ。非法律対象者とかそんなのはどうでもいい、俺は日本を征服して全治を殺すことしか頭に無いからな。】

「黒之君・・・、力で自分を示してもただ悲しいだけだよ。みんなが巻き添えを受けて、いつもの生活を崩されたからね。」

【やはりお前は優しすぎる、与えられた力を他人に使い、自分は力を受け取った他人の行く末を見届けるだけ・・・。そんなことにどんな意味がある?そんなことよりも、与えられた力の有効的な使い方があるのではないか?】

「うーん、確かに僕の使い方が正しいかどうかはわからない。けど、僕は少なくとも与えられた力で、誰かを傷つけたり不幸にしたくはない。」

【はぁ~っ、所詮はただの善人ということか・・・。やはり俺と全治は心が根本的に違うから、解りあうのは不可能だ。それなのに持っている力は非常によく似ている、本当に邪魔でしかないやつだ。今すぐに消したいというところだが、今回は日本征服に向けて動くからこのまま見過ごしてあげる。しかし全治は必ず俺が殺す、それまで首をあらって待っていろ。】

それを言い終えると、黒之はどこかへと消え去った。

「黒之君・・・。」

「あいつ、本当に神になった気でいたぜ。凄く腹が立つ・・・。」

真井は顔をしかめた。

「黒之の奴、イカれているぜ。ありゃ野放しにしたら、本当に日本が征服されてしまうぜ。」

ニコはすっかりうろたえている。

「全治・・・こうなったらやるしかない、俺たちで黒之を止めるんだ。」

北野が言うと、五人が決意を決めた顔で頷いた。

「みんな・・・ありがとう。」

全治は改めて、みんなにお礼を言った。

「まずは黒之がこの後どうするか考えよう。」

「生活での大切なものを破壊した後、その混乱に乗じて『我は救世主だ』とか言って多くの人を自分に支持させるとかするんじゃない?」

藤ヶ谷が言った。

「それは言えるぜ、そして多くの味方を利用して国会議事堂を占拠して、総理大臣を拉致するとか、やるかもしれない。」

「じゃあ僕たちは国会議事堂へ行って、黒之を迎え打てばいいんだね。」

「あのさ、そもそも全治はいいとして、僕たちは黒之のような力が無いよ。どうやって、黒之に対抗するんだよ。」

ニコが言うと、六人全員が「アッ・・・」と呆然となった。

「確かにそうだ、全治、どうするんだよ?」

「待って、どうしたらいいか魔導書で調べてみよう。」

全治は慌てて魔導書を開いて解決策を探した、そして解決策となるページを見つけた。

「あった、この魔法なら黒之に対抗できる。」

「見つけたか、じゃあ俺にかけてみてくれ。」

北野が言うと、全治は魔導書に書いてある呪文を唱えた。

「神々よ、なんじ示す者に伝説の力を授けよ。」

すると北野は神聖な力に包まれて、騎士の姿になった。

「なんだこれ、力が溢れてくる!!前より百倍強くなったぜ。」

「おお!!何かすごそう・・・。」

「これならみんなで力を合わせれば、黒之に対抗できる!!」

「なんだか自信が出てきたわ、黒之に絶対勝とう!!」

藤ヶ谷が言うと、全員が「オウ―ッ!!」と拳を突きあげた。





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