第2話世間の眼差し
非法律対象者に選ばれた全治は、非法律対象者のプラカードをつけながら散歩をしていた。
『何だかみんなこっち見てくるね。』
眷属のホワイトが言った。
「うん、今まではみんな気にしなかったのに。」
『しかも視線が嫌な感じです。』
コルネフォロスが言った。
「お義母さんの言った通りだね、みんな僕のことを警戒しているんだ。」
全治は歩きながらも、周囲の目を全身で感じていた。
そしてコンビニに入って、ペットボトルのコーヒーとおにぎりを一個を持って、レジへ向かい会計し、全治が代金を出した時だった。
店員がきょとんとした様子で全治に言った。
「え?金、払ってくれるの?」
「うん、そうだよ。」
「ああ、ごめんね。非法律対象者だから、てっきりそのまま持っていくのかと思ったんだ。」
その後はいつも通り会計を済ませてコンビニを出たが、全治は店員に「非法律対象者」だと言われた時、心がモヤモヤした気持ちになった。
「みんな僕が非法律対象者だからって、じろじろ見てきた。やっぱりみんな僕が怖いんだな・・・。」
全治がいつも通っている公園に入ると、遊んでいた子どもや会話で盛り上がっていた主婦は、全治が通ると全員離れながらも全治をじろじろ見てきた。
「おい、あいつ非法律対象者だ。」
「法律が効かねえんだろ?羨ましいぜ・・・。」
「まさかこんな身近にいたなんて・・・、うちの子が関わらないようにしないと。」
「見た目は好青年だけど、何をしでかすかわからないわ・・・。」
そして陰口を呟く。全治はそれを全て聞きながら歩き、ベンチに座っておにぎりを食べながら考えた。
「どうすればみんな僕が、危ない人じゃないと理解してくれるんだろうか?非法律対象者だからって、危険人物とは言えないはずなんだ。」
しかしおにぎりを食べ終えてもコーヒーを飲み終えても、全治は答えを見いだせなかった。
翌日、登校した時も周りの人間が全治を見る目は変わらなかった。
「非法律対象者だぞ・・・、あいつ。」
「学校でもやりたい放題なんだろ、いいよな・・・。」
「神の力を持っているうえに、法律が効かないんだろ?ズルイを通り越してチートだぜ・・・。」
「あのイケメンが今度は不気味に見えるわ・・・。」
そして北野や伊藤などの深い知り合いを除く人たちは、全治を避けるようになった。
ところが黒之の人気は衰えるどころか、ますます人気に拍車がかかっていた。
「黒之様、かっこいいです!!」
「黒之は非法律対象者になってもすげえや、全治とは大違いだぜ。」
「黒之に頼めばいろんな物が手に入るぜ、俺も何か頼もうかな?」
「黒之はマジで神だぜ!!」
黒之は全治とは違いみんなが疑りの目で見てこないうえに、凄く頼りにされ崇められるほどになっている。
「黒之君は人気者だなあ・・・、僕とは大違いだ。」
全治は黒之を指をくわえながら見つめた。
「全治、一体どうしたんだよ?黒之なんて気にしないお前が、黒之の方ばっかり見ているなんて。」
北野が全治に訊ねた。
「ああ、実はこんなことがあったんだ。」
全治は北野に昨日のことを話した。
「そうか、お前も世間の冷たさというのを知ったんだな。」
「うん、昨日の散歩でとにかく周りの人たちの陰口を聞いたよ。」
「辛いよな、勝手に怖がられて避けられるのは・・・。」
北野は全治が気の毒になった。
「それでどうすれば、みんなは僕のことを怖がらなくなるかな?」
「いつも通りに過ごせばいいと思うよ、何とかしようとすると逆に怪しまれるぜ。」
「そうなの、北野君?」
「ああ。一度疑うと、どんどん疑うのが人間だからな。」
北野は吐き捨てるように言った。
その日の放課後、全治は校舎裏にいた。
二時間目の放課の時、三年A組の佐野勇に「放課後、校舎裏に来てくれるか?」と言われたからだ。
「全治、待たせてごめん。」
佐野がやってきた。
「いいよ、それで僕にどんな用事があるの?」
「三日後、『プリズムヴァルキリーガール』のライトピンクちゃんのフィギュアが発売されるんだ。それを君に手に入れてほしいんだ。」
「うーん、それっていくらするの?」
「は?お金なんて、今の君には必要ないだろ?」
全治はその一言で、盗みの依頼だと察した。
「どうして僕に頼むの?」
「本当は黒之君に頼むつもりだったんだけど、先客が多くて断られたんだ。それで黒之君から君を紹介されたんだ。」
「・・・いいよ、持ってきてあげる。」
「ありがとう!!凄く欲しかったんだ、恩に着るよ。」
「それで、どこで買うの?」
「近所のドンキホーテだ。」
「わかった、午前十時に行くよ。」
「ああ、じゃあ約束の時間にな!!今日はついてるぜ!!」
佐野は飛び上がるように喜びながら、去っていった。
三日後、全治はドンキホーテにやってきた。
おもちゃ売り場に行くと、佐野が来ていた。
「遅れてごめん。」
「いいよ、早く手に入れたくて三十分前に来ていたんだ。」
「じゃあ君はここで待っていて、行ってくる。」
「ああ、間違えないように気をつけてね。」
全治は一人でおもちゃ売り場へ入っていった。そして目的のフィギュアを売り場で見つけると、即座に手に入れた。
「なんだか本物みたいなフィギュアだな・・・。」
全治が感心しながらフィギュアを持ち出そうとすると、店員の男が全治の肩を掴んだ。
「おい、お前何をしている?」
「このフィギュアを持っていくだけだよ。」
「おめえ、ふざけているのか!!万引きだぞ、金を払え!!」
「でも僕は非法律対象者ですよ?」
全治は首に下げてあるプラカードを店員に見せた。
「そんなの信用できるか!!警察を呼ぶぞ、こっちに来い!!」
全治は何か言おうとしたが、店員は強引に全治を店の奥へと連れて行った。
その後、警官が到着した。
「どうされました?」
「この子どもが、商品を万引きしたんです。」
「本当か?」
「ええ、一部始終を見ました。」
店員は堂々と言った。
「君は非法律対象者だね?」
警官は全治に訊ねた。
「はい、そうです。」
「じゃあ、もう行っていいよ。」
警官は全治に素っ気なく言った、店員はきょとんとした後、警官に文句を言った。
「ちょっと待てよ、なんのお咎めも無しかよ。」
「ええ、非法律対象者なので刑罰には触れません。」
「そんな・・・本当にいたのかよ・・・。」
店員はショックで項垂れた。
「ああ、ところでどうしてこのフィギュアを持っていこうとしたんだい?」
警官が全治を呼びとめながら質問した。
「頼まれたんだよ、同じ学校の佐野って人に。」
「佐野というのは、同じ学校の生徒か?」
「うん、僕と同級生だよ。一昨日、このフィギュアが欲しいから持ってきてくれって頼まれたんだ。」
「佐野って人に会わせてくれるかい?」
全治はいいよと頷いた、そして警官は全治の後について行った。
その後、佐野は全治について行った警官によって連行されていった。
帰宅した全治は北野家の両親から事情を聴かれたが、特に何も言われなかった。
しかし佐野が連行されたことによって、全治の学校の評判は悪くなり、全治は他の生徒から陰湿ないじめを受けるようになった。
「机に落書きか・・・。」
全治は「疫病神」や「死ね!!」などの罵詈雑言が書かれた机を見つめた、それに気がついた北野は大声で叫んだ。
「全治をいじめる汚い奴は、今すぐででこい!!」
北野は指を鳴らしている、今にも殴りそうな雰囲気だ。
「いいよ、気にしないで。」
全治は北野をなだめた。
「全治・・・、こんな事されて悔しくないのか?」
「そりゃ悔しいよ、けど僕が事情を説明してもいじめはなくならない。彼らはその事情を知っているから。」
「・・・クソッ!!」
北野は床をドンと大きな音を立てて踏み鳴らした、すると庄野が全治を呼んだ。
「三矢が呼んでいる、近況報告の時間だ。」
全治は庄野と一緒に、職員室へと向かった。
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